11話 アズリア、雷撃を喰らう
上空に浮かぶ魔王様と同じく雷を帯びた魔力を纏った今のアタシは。
周囲の空気を震わせる程の雄叫びと共にこちらへ放たれた、四足獣の形状をとった雷撃を迎え撃つために、手に握った大剣を天へと掲げる。
そして────
アタシはその雷獣衝を……「喰らった」のだ。
そう。文字通り真っ正面から魔王様が撃った雷撃が激突した瞬間、アタシの身体の周囲に張り巡らせていた九天の主の魔力が。
命中した雷撃を吸収、自分自身の魔力へと変換した。
分身二体を囮に使った必殺の一撃。
それを、事もなく受け、しかも無傷のままその場に剣を掲げたまま立っているアタシを「信じられない」という表情で睨みつけ。
「な……何をしやがった……あ、アズリアあああ!」
一言で説明するなら。
魔王様にとって相性が悪過ぎたのだ、アタシは。
一見すれば、同じ雷属性を帯びた魔力を纏わせる戦法を取る、全く互角の条件に思えるのかもしれない。
だが魔王とアタシには一つ、決定的な違いがあった。
それは……魔王様が纏った雷撃は強力ではあっても、あくまで世間一般に流布されている魔法の範疇を超えていない筈だ。
対して、アタシが魔術文字で従えている九天の主という存在は、地下遺跡の壁面にあった記述が確かなら「天空と雷を司る」存在なのだ。
ならば、直感的に思ったのだ。
魔王が放ったあの雷撃を、今のアタシならば屈服させることが出来る、と。
ふと、魔王様の様子を確認すると。
「雷獣戦態」とやらで身体に纏っていた雷光と、他二体の分身体も消え失せ。両手の爪は所々剥がれ血を流し、右腕をぶら下げていた。
もはや満身創痍、といったところだろう。
「決着……着けさせてもらうよ、魔王サマ」
アタシは、真上に掲げたままの大剣にたった今吸収したばかりの魔王様の魔力と、身体に巡る九天の主の魔力を合わせて充填していく。
そして、切先を上空で肩で息をしている魔王様へと合わせると。
「コレがッッ────閃雷の乙女の……一撃だああああああッッ‼︎」
大剣に収束させた膨大な量の魔力を解き放つ。
それは火花を散らし、見えない空気の壁を切り裂きながら放たれた……まさに一条の閃光。
アタシはこれが絶好の機会にして、おそらくこれが最後の好機だと思った。
元々、魔王とアタシの能力には絶望的な戦力差があり、今の状況はただ九天の主との賭けに勝ったアタシが相性の差で優勢でいるにすぎず。
閃雷の乙女の効果が消えてしまえば……魔力切れを起こしたアタシに打つ手など残ってはいないのだ。
だから、この機を逃せばアタシは敗ける。
決めるならば────ココしかないのだ!
大剣から撃ち出した閃光を、決着をつけるために自らの体術の限界である「三重閃影」まで行使し、さらには「雷獣衝」で魔力を限界まで放出した魔王には避ける余力など残ってはいなかった。
直撃する閃雷の乙女の一閃。
「ぐううぅぅぅぅ……うおおおおおおおおおおお!」
魔力を纏わせた左腕一本で、迫り来る閃光を何とか防御するが。
その閃光の威力は、雷属性としては格上となる九天の主の魔力に、魔王様自身の必殺技の威力まで上乗せされているのだ。到底受け切れる筈などない。
左腕を弾き飛ばされ、閃光が魔王の身体を完全に捉え、その肌の表面を焼きながら。閃光の中に飲まれていった魔王はと言うと……
空を貫く閃光が消えると同時に、上空から落下した魔王様はその勢いのまま地表へと激突し、そのまま立ち上がってはこなかった。
「や、やった……魔王に、アタシが……か、勝ったなんて……あ、あれ?」
アタシの身体からフッと力が抜け、急に大剣が重く感じてしまい握っていた大剣を地面に落とす。
そして、視界がグラリ……と揺れたかと思うと、アタシの身体もまた、背中から仰向けに地面へと倒れてしまうのだった。
完全に、体内の魔力が消えた。
いわゆる、魔力枯渇という状態だ。
ふと、視線を横へと投げると。そこには身体の至る箇所に火傷を負い、あれだけの高度から落下しながらも五体満足な魔王様の顔があった。
「は……はははっ。少し、俺様の花嫁の実力の程を見てやろうと思った提案だったがな……まさか、ここまで完膚なきまでにやられるとはな。アズリア……俺様の敗北だ、ははははははっ!いっそ清々しいわ、はははははははははっ!」
驚いた。
いや、何が驚いたのかと言うと……あれだけ満身創痍なのに、まだこんな台詞が出るという、魔王としての器の広さってヤツに。
「……褒めてくれるのは嬉しいけどさぁ、アタシの身体はもう魔力がすっからかんに尽きちまったよ、ははっ」
「それは俺様も同じだ。もっとお前と戦っていたかったが、あいにく……もう身体が言う事を聞いてくれんのだ」
「いや、アタシはもうこれ以上はお腹いっぱいだからさ、おかわりと言われても……付き合わないからね」
「はっはっは……それは残念だ」
もう立ち上がる余力が残っていないのは、アタシもだが、魔王様も同じなのだろう。
互いに地面に倒れたまま、視線を合わせて、いくつか言葉を交わしながら。
申し合わせる事もなく二人で声を上げて大笑いした。
「「あっはははははははははははははははははは!」」




