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5話 アズリア、防御の魔術文字の効果

 身体に刻んだ赤檮の守護(ユル)魔術文字(ルーン)の効果によって、アタシの全身を纏うように発生する、見ただけでもわかる濃密な魔力の層。


 以前にもこの防御の魔術文字(ルーン)は、修道女(シスター)エルに張ったこの魔力の防御膜は、複数の吸血鬼(ヴァンパイア)の攻撃にも耐えた実績がある。


吸血鬼(ヴァンパイア)ごときと比較したなんて知れたら……魔王サマが激昂するかもしれないねぇ」


 もちろん、アタシはまだこの入手したばかりの魔術文字(ルーン)の持つ防御能力(ポテンシャル)を完全に把握しているとは言い難い。

 何しろ、この魔術文字(ルーン)を入手してから吸血鬼(ヴァンパイア)にエルが拉致されたと聞いて、ホルサ村で吸血鬼(ヴァンパイア)と化したロザーリオを倒し、落ち着く間もなくここコーデリアへと召喚されたのだから。


 だが、魔王様(リュカオーン)のあの速度にアタシが完全に対応出来ず。かと言って掠めただけでクロイツ鋼製の鎧を粉砕する攻撃に、防御を捨てる選択を取るのは自殺行為に等しい。


「はっ、何を小細工したかは知らねぇが……ならその上からアズリア、お前を粉砕してやるぜっ!」


 そう言葉を残して、また魔王様(リュカオーン)の姿がアタシの視界の正面から消え去る。


 また横からか?……それとも、背後から?

 唯一感じることの出来るのは殺意だけ。


 アタシは今まで見ていた方向に背を向け、殺意を感じ取った背後へと振り向いて大剣を構え直すと。

 既に顔面に向けて放たれていた魔王様(リュカオーン)の拳を、何とか左肩を上げて顔面への直撃を防ぎ、防御することが出来たのだが。


「はあっ?……ど、どういうことだっ、俺様の拳が止まった、だとぉ……」


 先程アタシの顔面を捉えた魔王の拳の一撃は、実はまだ頭に響いていて、口中では歯が二、三本折れてしまう程の威力だったのだが。


 攻撃を受けた、という衝撃こそ確かに感じるのだが。

 ……殴られた左肩が、痛くないのだ。


 下手をすれば、攻撃を受けた肩が使い物にならなくなるくらいの損傷は覚悟していたのだが。

 肩は無事なようで、問題なく腕を動かすことが出来た。


 ────ならば。

 拳を肩で受け止められて呆然とし、一瞬だけ動きを止めた魔王様(リュカオーン)に向けて、アタシは今ぞとばかりに大剣を横一閃に振り抜いた。


 が。惜しくもその剣閃はまたしても魔王の残像を上下真っ二つに斬り裂いただけで。

 本体である魔王様(リュカオーン)は既にアタシの大剣の間合いの外に飛び退きながら、拳の一撃を防がれた事に悪態を()く。


「……ちぃっ!そうか、さっきの小細工はその厄介な防御結界を張るためだったか」

「当たりだよっ!」


 だがこの一撃を防御した事で、赤檮の守護(ユル)魔術文字(ルーン)で攻撃を抑えられることが証明された。

 ならば、今度はアタシの番だ。

 防御や回避を考えずに、背後に飛び退き足を止めた魔王様(リュカオーン)へと、アタシは踏み込んで先程躱された横振りの攻撃をそのまま次の一撃へと繋げていく。


「元よりあの攻撃が当たるなんて思っちゃいないさっ、なら当たるまで全力の一撃を放ってやるだけだよ……おらあぁッッ!」


 次々と繰り出していく大剣での連続攻撃。だが、繰り出すその全ての剣撃は魔王様(リュカオーン)の身体を捉えることが出来ずに、虚しく空を斬り裂く音だけが響く。

 防御を捨てた連続攻撃に合わせて、超接近してきた魔王の拳や蹴り、爪撃が何度となくアタシの顔や腹、胸板に返し技(カウンター)気味に放たれる。


「効かないんだよ魔王サマっ、アンタの攻撃はさあっ!」


 だが、その攻撃の全てはアタシに命中し背後に吹き飛びそうな衝撃こそ伝わりはするものの、身体に纏っている魔力の層を貫通することなく、痛みを感じることはなかった。

 ……まさか、赤檮の守護(ユル)魔術文字(ルーン)の効果がこれ程だったとは。


 結局は一撃たりとも魔王様(リュカオーン)の身体を掠めることは出来ずに、先にアタシの身体や息が限界を迎えて攻撃の手を止めることになったが。


 このままだったら、アタシは勝てる(・・・・・・・)

 そう確信した、ちょうどその時だった。

 目の前で距離を取り、対峙していた魔王様(リュカオーン)の纏う魔力の雰囲気が変わった……そんな気がしたのだ。


「まさかアズリア、お前相手にコレ(・・)を使うハメになるとはな……舐めていたつもりなんてないが、結果的にゃそうなっちまったな、悪い」


 すると。

 雲一つ見えない青空から、突然この決闘の場に一閃の落雷が降り注いだのだ。いや、正解には雷が落ちたその真下には魔王様(リュカオーン)がいたのだが。

 雷が落ちたにもかかわらず、傷や火傷を負った様子は微塵も見当たらず。寧ろ、彼の脚が落雷前に比べて光を纏っているように()えた。


 何が起きたのか、それを目の前の魔王様(リュカオーン)に問おうと口を開いた……その時だった。

 急激に視界に映る魔王の姿が、左右にブレ始めたかと思いきや。


「爆ぜろおッ俺様あっっっっっっ!

 ────────────雷獣戦態(モード・マルドゥーク)三重閃影(トリニティ)

 

 周囲の空気を震わす雄叫びを発するのと同時に、目の前に立っていた魔王様(リュカオーン)の身体の震えが止まったかと思うと、何と……魔王の姿が三体に増えたのだ。


 その三体に増加した魔王は、アタシへ異なる表情を浮かべて視線を向けると。

 左右、そして正面の三方向から同時に(・・・)、アタシへと突撃を仕掛けてきたのだ。

 

雷獣戦態(モード・マルドゥーク)

魔力を放出するのではなく、自身の有する魔力を体内に巡らせて身体能力を向上させている獣人族(ビースト)独特の戦闘方法を、魔王リュカオーンが発展させたもの。

本来ならば敵に向けて放つ雷属性の上級魔法(エンシェント)の攻撃魔法である「降り注ぐ雷撃(サンダークラップ)」を一度解放し、その後その威力ごと吸収して身体に纏うことで身体能力に加え、神経の反応速度も上昇させることが出来る。


そのため、身体強化魔法(ブーストエンチャント)でただ速度が増すのとは違い。より効果的に増大した速度を扱うことが可能となっている。

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