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67話 アズリア、村人へ岩塩を振舞う

 と、いうわけで。

 アタシは教会にいた子供らを、他の村人らを寝かせておいた村の広場へと何度も往復して運び。その間にエルは意識を取り戻した村人や子供たちに体力回復のための初歩的な治癒魔法を使っていた。

 そのついでに、今回の吸血鬼(ヴァンパイア)による襲撃は彼女(エル)とアタシで排除が終了し、二度とこのような事が起きないと説明してくれていた。


 子供を運び終えたアタシは、村人たちの世話をエルに任せて食事の準備を始める。何しろ30人を超える人数分の食事、それに蘇生直後の体力の減退した者への料理となると。温かいスープくらいしか思いつく料理(モノ)がなかった。


 幸いにこの村には滞在していた事があったので、村の食糧が保存されている小屋から野菜を大量に運び出して。「ken(ケン)」の魔術文字(ルーン)で起こした火種と大鍋で、適度な大きさに切った野菜を水から煮て。

 味を整えるための塩をみたところ……無い。

 どういう事か吸血鬼(ロザーリオ)との対決前に回復していたため、会話が出来る程度になっていた村長のゴードンに事情を聞いてみると。


「……先の帝国との戦争があってから、このような辺境の村落にはなかなか行商人も王都からの支給も届かず、塩が底を付いてしまい……」


 それならば。仕方ない、とばかりにアタシが旅の途中で確保してあった岩塩(ソルニウム)、そして細かく裂いた干し肉と黒パンを入れて味の最終調整をする。

 固くなったパンをスープで煮込んで粥状にするのはこの国(ホルハイム)の食習慣ではなく、寧ろアタシの故郷である帝国(ドライゼル)の郷土料理のようなものだ。

 

「ね、ねぇアズリア……そんな大きな岩塩(ソルニウム)、商人から買おうとしたらどれだけの値段になるか……あなた知ってるの?」


 荷物からサラッと岩塩(ソルニウム)の塊を出したことにエルが驚いていたが。確かに岩塩(ソルニウム)は貴重品で、この程度の塊でも一般的な行商人なら金貨で取引する、という価値だ。


 長く旅をしているアタシは、旅人にとって「水」と「塩」が貴重で必須なモノだという知識が染み付いている。だから海に面した港街に足を運んだ時には塩を必ず購入するし、旅の途中で剥き出しの岩塩を運良く発見した時は一塊りは確保しておくのが常識となっていた。


「ああ、この岩塩なら……ちょうどスカイア山嶺とこの村の間に、剥き出しの岩塩が掘れる場所があるんだよ。この塊もそこから手に入れておいたんだ」


 だから、スカイア山嶺からこの国(ホルハイム)有翼族(イーリス)に降ろされた地点で偶然発見した洞窟の中に、岩塩(ソルニウム)層があったので一塊り確保しておいたのだったが。

 

「え、嘘っ?……そ、そんな場所がこの村の付近にっ?」

「まあ確かに、山の(ふもと)に近い場所だからねぇ……村人が山に用事でもない限りは、あんな場所に近づくハズもないか」


 いざという時にはエルと教会の子供たちの収入源になるだろう、と。アタシは鍋が煮えるまでの間に、エルにコッソリと岩塩が採取出来る洞窟の場所を教えておいた。

 口だけで説明するのは中々に難しいのだが。

 

「……まさかあんな場所に、剥き出しになってる岩塩(ソルニウム)があったなんて……うんっ、大体の場所はわかったから、子供たちが回復してらいってみるつもりっ」


 どうやらエルにはその場所が伝わったみたいだ。

 丁度良く、大鍋で煮込んでいた黒パンと野菜の粥状のスープも出来上がったみたいだ。


「よし、鍋もイイ感じになったね。それじゃエル、妖血花(アルラウネ)も、アタシがよそったスープを村の皆んなに振る舞ってくれないかい?」

「ええっ、わかったわっ」

「わかったのぱぁぱ!あずもおてつだい、するー!」


 村長に頼んで用意した村人全員分の器にスープを注いで。アタシとエル、それに助け出した妖血花(アルラウネ)にも手伝ってもらい配って回る。

 辛い思いをさせた帝国の郷土料理が、果たして村人らの口に合うかどうか実は内心ヒヤヒヤしていたが。

 

「……ああ、美味しい。身体が暖まる……」


 スープを飲んで安心からか深く息を吐き、そう呟く村人の声を聞いて、まずは一安心した。


吸血鬼(ヴァンパイア)なんかが現れた時は、もう皆んな終わりかと思ったけど……助かったんだな、俺たち……」

「ありがとうございます……アズリアさん、それに、修道女(シスター)エル……」

「そう思ったら、何だかお腹がまた空いてきたぞ」


 エルの治癒魔法で体力が回復し、すっかり元気になった村人は、丸一日何も口にせず眠っていた空腹を埋めるために、大鍋にやってきて二杯目(おかわり)を催促してくるのだった。


 そして、すっかり空は日が落ち辺りは夜の闇に包まれていく。

 比較的に体力の回復が早い青年や子供らは元気なのだが、村長や村の重鎮らはまだ完全に調子が戻っていない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)らを追い払った宴を開きたかったようだが、せっかく助け出したのだ。宴の最中に倒れられても困る。宴を開くという提案を丁重に断り、村人皆んなには今夜はゆっくりと休んでもらうことにした。


 そんな夜更。

 村人らがすっかりと寝静まった頃に、アタシは世話になっていた村長の家を、寝ている村長のゴードンとその妻を起こさないよう音を殺して後にし。

 色々とあったこのホルサ村を出ようとした、ちょうどその時だった。


「……わたしに何にも言わずに行っちゃうつもりだったのね、アズリアっ」


 背後から呼び止めてきたのは、エルだった。

ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

多分、次の話で第四章の最終話となります。


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