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63話 アズリア、悪夢を吹き飛ばす

この話だけ三人称(サイドビュー)視点でお届けします。

 ────一方、その頃。


 ロザーリオが異国の曲刀(カタナ)を構えて、漆黒の刀身を旋回させたその途端。

 刺突を繰り出すために鋭く踏み込んでいったその勢いを完全に止めて、その場に膝を折り。切先をロザーリオへ向けて構えていた大剣は、握りこそ離さなかったものの地面に置いてしまう。

 

「……しまっ、あ、あれは……あの娘(アズリア)の精神に直接攻撃しているの?」


 突然力が抜けたかのように、その場にへたり込むアズリアの姿を見て、大樹の精霊(ドリアード)が驚いた声を上げる。

 旋回させていた黒い曲刀(カタナ)の動きを止め、驚きの声をあげた大樹の精霊(ドリアード)へと向き直り。下卑(げひ)た笑みを浮かべながら語り始めるロザーリオ。

 

「……は、はっはあ……どうだ?幻惑を生み出す俺独自の剣術『狂月(くるいづき)ノ型』と、吸血鬼(ヴァンパイア)が持つ『催眠の魔眼』の合わせ技……これが俺の切札『悪夢ノ月(アビス・ムーン)』よっ!」


 それは大樹の精霊(ドリアード)の誤算だった。

 確かに吸血鬼(ロザーリオ)の発言の通り、吸血鬼(ヴァンパイア)上位種(エルダークラス)が持つ「催眠の魔眼」は、魔力を込めた視線を見た相手を強制的に行動不能もしくは強力に阻害する能力があるのは事実だが。

 

 アズリアには大樹の精霊(ドリアード)の加護が授けられており。砂漠での魔族との戦いの時に、女魔族(ラージェ)の「魅了の魔眼」が効かなかったのも、精霊の加護によるものなのだ。

 だから、吸血鬼(ヴァンパイア)の視線の効果など簡単に抵抗(レジスト)出来る、と高を括っていた。


 だが、この目の前の吸血鬼(ロザーリオ)は、同じように催眠効果のある剣術と、自分の持つ魔眼を合わせて、精霊の加護を撃ち破る程の強烈な精神攻撃を生み出したのだ。


「……うぁ……ら……ん……でぃ……ぁぁぁ……」


 地面に座り込んだアズリアの口からは、ボソボソと聞き取れるかどうかの小声で、何か人の名前らしき言葉を呟き……喜んでいるようにも見えるし、うなされているようにも見える。


「ははっ、今この女は俺が見せた悪夢の中で、あり得ない記憶を見ながら様々な感情の波に弄ばれているハズだ」


 そして……無防備に焦点の合わない目線であらぬ方向を見ているアズリアへ。

 ロザーリオは一度、漆黒の刀身に舌を這わせていくと、両手で握り締めた曲刀(カタナ)を水平に突き出して刺突の構えを取り。


「今、悪夢(アビス・ムーン)から解放してやるぜ漆黒の鴉(デア・クレーエ)手前(テメ)ぇの死でなあっっっっ!」

 

 生前はトールとオービット二人を相手にし、吸血鬼(ヴァンパイア)になってからは「憤怒憑き(ベルセルク)」持ちのノルディアとリュゼの二人を相手にするだけの実力を持ったロザーリオ。


 それ程の腕前の男が放った鋭い刺突。その切先が今まさにアズリアの頭を貫こうとした────その刹那だった。


 戦場に響き渡る、金属同士の衝突する音。


 ロザーリオが声も無く驚愕の表情を浮かべながら、武器を(・・・)握っていた筈(・・・・・・.)の、開いた(てのひら)を見ていたのだ。


 漆黒の曲刀(カタナ)はくるくると頭上を舞い。

 やがて吸血鬼(ロザーリオ)の背後の地面へと落下し、切先が地面へと突き刺さる。

 鋭い刺突を弾き、武器を吹き飛ばしたのは、攻撃の対象となったアズリアに握られていた、クロイツ鋼製の幅広剣だった。


 ロザーリオの精神攻撃である「悪夢ノ月(アビス・ムーン)」で侵蝕され、焦点の定まっていなかったアズリアの眼に光が戻り。

 目を見開いたまま、この状況が信じられないと驚愕の表情を浮かべた目の前の吸血鬼(ロザーリオ)を、殺意を込めて睨んでいたのだ。


「き……き、き貴様、で、漆黒の鴉(デア・クレーエ)……っ!……お、俺の『悪夢ノ月(アビス・ムーン)』をマトモに喰らった手前(テメ)ぇが目を醒ますハズがっっ……ま、まさかっ?」


 我に返ったロザーリオが疑ったのは、アズリアが連れていた二人の少女だった。

 だが一人(エル)は、王都を襲撃した際に見た記憶があったが、手も足も出せないまま怯えていた印象しかなかった。

 となると……手を出したのはもう一人の女だ。そう言えば先程も、部下の従属種(レッサークラス)を攻撃魔法でなく魔力の放出だけで消し飛ばしていたのを思い出し。


 大樹の精霊(ドリアード)へと向き直るが。

 視線を投げたその先の少女も、正気を取り戻しただけでなく攻撃を弾き飛ばしたアズリアへ驚きの表情を見せていたのだ。

 ……ということは、可能性は一つしかない。


「まさか自力で悪夢(アビス・ムーン)を撃ち破った、だと……う、嘘だ、あり得ねぇ……て、手前(テメ)ェは一体何なんだ……?」


 よく見ると、歯を食いしばっていたアズリアは、口端から血を垂らし。

 吸血鬼(ロザーリオ)への憎しみを込めて、地の底から響くような低い声で吐き出していく。


「……ありがとうよ、ロザーリオ……懐かしい顔に逢わせてくれて……そのお陰で、アタシが今一番誰を想ってるのか、それを知るコトが出来たよ……」

 

 アズリアが、全身から殺意を(みなぎ)らせながら、大剣を構えて立ち上がってきた。


狂月(くるいづき)ノ型」

ヤマタイ国に伝わる剣術の一種で、構えた刀身を円を描くように振り回すことで、剣先から目を離せない戦士らの特性を利用し一瞬の催眠状態、幻惑状態に相手を陥れる。

正々堂々の激突を好む「騎士精神」が一般的なラグシア大陸では卑怯だと嫌われる剣術ではあるが、騎士精神がなく一対一の果たし合いという風習の残るヤマタイ国では、こういった考え方がまかり通るのだ。


余談ですが。

剣術の詳細なんかは、ヤマタイ国編を書くことになるのなら、もう少し詳細を詰める予定です。


「催眠の魔眼」

元来の魔眼とは違い、上位の吸血鬼(ヴァンパイア)と化し後天的に手に入れることが出来る能力で。

視線を合わせた対象に暗示を掛けて、一つの命令を実行させたり行動の自由を奪ったりする効果を発揮する。

(魔眼についての説明は、二章36話に掲載されてます)

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