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58話 アズリア、村人の魂を戻す

 すると背後で、エルがこちらを呼ぶ声が響く。


「ねっ……ねえっ?さっきまで、息してなかった村の皆んななのに……道具屋のおじさんや、村長さんの顔色が良くなって……これってもしかして」


 アタシと師匠(ドリアード)魔術文字(ルーン)についてのやり取りをしている間に、倒れていた村人に異変があった事を報告してきた。

 死者のような土気色の肌に生気が戻っていると。


 村長のゴードンの様子を観察していたエルがもう一度、今度は簡単な治癒魔法を発動させると。


「がはぁっ……はぁ……ふぅ……」

「……そ、村長が……本当に、生き返った……よ、よかったあ……よかったよおぉぉぉっ……う、ううう」


 一度咳込み大きく息を吐きだすと、まだ意識は戻らないものの、胸が上下に動きだし息を吹き返したのだ。

 生き返った村長を見て、エルの両眼からボロボロと涙が溢れ出す。ただし、今度は喜びのあまり涙しているのだが。

  

 どうやら今アタシが倒したた三体の吸血鬼(ヴァンパイア)も村の人間の魂を吸っていたようだ。それが滅ぼされた事で、吸われた魂が本来の居場所である身体へと還っていったのだろう。

 師匠(ドリアード)から聞いた通りだ。日没までに村人の魂を持った吸血鬼(ヴァンパイア)どもを倒すことが出来れば、村長のように死の淵から呼び戻すことも可能なのだと。


 この涙は、エルの心にも希望が灯った証なのだ。

 アタシは村長の隣で泣きじゃくるエルの頭を優しく撫でながら、道具屋の男の他にも何人か顔色に生気が戻っていた村人を見つけていくと。


「ほらエル。どうやら助かったのは村長だけじゃなさそうだよ、泣いてる暇なんてないんじゃないかねぇ?」

「うん……うんっ、そう、そうねっ……アズリアが助けてくれた村の皆んなを、わたしが頑張って癒やしていくんだからっ」

「うん、その意気その意気っ」


 さて、問題はここからだ。

 エルには気前の良い事を言ってしまったが、アタシは自分から勝手に姿を見せた間抜けな敵を迎え討っただけに過ぎない。

 村人の魂を奪った元凶のロザーリオを初めとして、吸血鬼(ヴァンパイア)の連中が後どの程度の数がいるのか。そして、何処に潜伏しているのか見当が付いていないのだから。


「それじゃ……少しばかり余計な消耗したところ悪いけど、そろそろ準備はいいかしら二人とも?」


 アタシが生気の戻った村人の何人かを一箇所に集め、エルがその村人らに治癒魔法を使い、蘇生を終わらせた頃を見計らうように。

 腕を組んだ師匠(ドリアード)が、アタシらへと声を掛けてくる。


「ちょ、ちょっと待てよ師匠(ドリアード)っ?準備も何も、アタシらは連中の居場所が何処なのかも……」


 早速、何処かへと歩き出そうとした師匠(ドリアード)の腕を掴まえて、吸血鬼(ヴァンパイア)の根城を見つけないといけないこの状況で、一体何処へ向かおうというのか。

 師匠(ドリアード)の意図が分からないアタシだったが。


「ああ。居場所ならもう見つけてるわよ、私が」

「……は?え、え?……吸血鬼(ヴァンパイア)の居場所だぜ、師匠(ドリアード)?」

「勿論よ。私が何故ここに到着した時にアズリアたちと一緒に村へ向かわなかったのか、分かる?」


 次の瞬間、師匠(ドリアード)の口から出た言葉の意味を理解出来なかったアタシは同じ内容を聞き返してしまっていた。

 そんなアタシの疑問に重ねるように質問をしてきた師匠(ドリアード)


 その時、師匠(ドリアード)がふと右脚を地面から持ち上げると。足の裏から伸びた植物の蔓のようなモノが、まるで根のように地面の中を潜っていたのが見えた。


「アズリア、忘れてるかもしれないけど……私は植物を司る大樹の精霊なのよ。地に根を張れる場所なら、私は私自身の魔力を追うことなんて容易(たやす)いことなのよ」

「……あ!……妖血花(アルラウネ)を感知した、ってわけだね」

「正解よアズリア。あの連中はあなたを誘き寄せるために拐ったのだろうけど。まさかその妖血花(アルラウネ)が、自分たちの居場所を教える猫の鈴(ヒドゥン・ベル)だとは、考えが及ばなかったようね」


 そんなやり取りをしながら、アタシは師匠(ドリアード)のすぐ後ろを歩いて着いていき、歩幅の違うエルは早足でアタシの後ろに着いてくる。

 村の中を歩いていた師匠(ドリアード)が、とある場所へと辿り着き、ようやく足を止めた。


「この建物が、妖血花(アルラウネ)がいる場所よ」

「え、精霊(ドリアード)様っ……こ、ここはっ」


 そう。今、アタシらの目の前にある建物とは、エルが孤児院を兼ねている教会なのだ。

 だが、師匠(ドリアード)はこの教会こそが、ロザーリオら吸血鬼(ヴァンパイア)連中が根城にしている場所だと断定したのだ。


「で、でもっ、吸血鬼(ヴァンパイア)はわたしたち聖職者が祝福を授けたものが弱点になった筈っ……なのにどうして、教会の中に亡者(アンデッド)が侵入出来るのよっ……」


 エルの疑念はもっともだ。

 元来、亡者(アンデッド)に分類される吸血鬼(ヴァンパイア)は神の祝福のある教会に侵入する事が出来ないのだ。

 王都(アウルム)で吸血鬼の急襲を受けた際、負傷したリュゼとノルディアをヴァルナ大聖堂に運び入れたのも、治療と敵からの攻撃を防ぐ意図の両方があったと推測される。

 だからこそ教会にいれば子供らは安全だと。


 だが結果は、エルの想定と違っていた。

 扉が開き、崩れた壁から建物の内部が見えるが、中には子供たちが村人らと同様に倒れ、息をしていないのが確認出来たからだ。


 アタシは、その認識の違いをこう考えた。

 

 見たところ、この教会の建物は傾きかけ、壁も修復されてはいるが所々破損が目立つ。何よりもこの教会には五柱神のどの聖印(シンボル)も掲げてはいない。


 おそらくこの教会は、「神に祝福された場所」としての教会の役割を果たしてはいなかったのだろう。

 彼女(エル)という存在がいてこそ、ようやくこの建物は「教会」として存続し得たのだと思う。

 だから、エルがアタシと同行して離れた時点でこの建物は教会でも何でもない、ただの朽ちかけた建物に戻り、子供たちを吸血鬼(ヴァンパイア)の魔の手から護ってはくれなかったのだ、と。


 そんなエルの無念を晴らすべく、アタシの口はごく自然に言葉を吐き出していた。

 殺意を込めた声で、追ってきた対象の名前を。


「……出てこいよロザーリオ。教会(ここ)にいるんだろう?さあて……そろそろ決着をつけようじゃないか」


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