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56話 アズリア、新たな魔術文字を見せる

 大剣を構えて、二人の少女の前に立ち塞がるアタシを邪魔者だと認識した目の前の三体の吸血鬼(ヴァンパイア)は、それぞれ勝手な事を言い始める。


「それじゃ俺はあの緑色の髪の娘を頂くとするか」

「おい待てよ?あれ(・・)は俺が狙ってた獲物だぜ?お前は隣の修道女(シスター)にしろよ」

「はっ……仕方ねえな。じゃあこの不味そうな女で我慢してやるよ」


 どうやら隷属種(スクワイア)とは違い、三体の身体から滲み出した黒い魔力がそれぞれの利き腕に纏わりつくと。

 その黒い魔力が腕を覆う甲冑と、地面にまで伸びた鋭い爪に変化していき、三体がそれぞれ狙った獲物へと襲い掛かってくる……が。

 それを黙って許す程、アタシは優しくはない。


「さぁて……おっ始めるとしようかねぇっ!」


 アタシは右眼の筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させ、瞳から身体に巡る魔力を全身に滾らせていくと。

 両脚を開いて前傾して腰を落とした低い体勢から、足元の地面を蹴り出して一気に連中との距離を詰め。


「うおっ?は……速ええっ、何だこの女っ?」

「アタシは欲張りなんでねぇ、三体まとめて相手してやるって言ってんだ────よッッ!」


 エルと師匠(ドリアード)を狙う、と明言していた二体の吸血鬼(ヴァンパイア)が動き出す前に、胴体目掛けて大剣を横に一薙きしていく。

 

「ぐうううっっ⁉︎……お、重いぃぃっっっ!」


 あくまで今放った一撃は牽制。撃ち倒すためではなく、連中の狙いをアタシへ集中させ、その場に押し留めるのが目的。

 連中は二体とも腕に纏った甲冑を咄嗟に構え、アタシが振るった大剣を受けるも、受け止めた箇所の装甲が砕け、背後へと吹き飛ばされていった。


「ば、馬鹿なっ……ロザーリオ様より授かった力で発動させた『黒の左腕(モーンブレイド)』がいとも容易く破壊される、だと……?」


 信じられないモノを見たような表情を浮かべてアタシに畏怖の視線を向ける二体の吸血鬼(ヴァンパイア)だったが。

 その背後から飛び掛かってくる残り一体の位置を把握していないアタシではない。頭上から振り下ろされる黒い爪撃を、大剣を上空に弧を描くよう軽々と振り払って、二体のいる方向へと力任せに弾き飛ばしていく。


「……それでアンタらはネタ切れかい?」


 確かに今まで襲ってきた隷属種(スクワイア)と違い、連中が纏った「黒の左腕(モーンブレイド)」と呼んでいた武器と防具が一体化した装備には驚いたが。

 吸血鬼(ヴァンパイア)としての膂力や反応の速さなどは然程(さほど)変化があるようには感じなかった。

 あの黒い腕の装甲も、アタシが全力で振るっていない一撃でいとも簡単に砕けるくらいだ。


 寧ろアタシを足止めするために強襲してきた騎士ガインのほうが、幾分か手応えがあったように思える。


「それなら今度はアタシの番だねぇ。王様の許可を貰って潜った地下遺跡で手に入れた新しい魔術文字(ルーン)……アンタらで試させて貰うよ」


 指先から流れるアタシの血で、クロイツ鋼製の刀身に描いていくのは今までの真っ直ぐな線を繋ぎ合わせた魔術文字(ルーン)とは違い。

 円と矢印、そして点を組み合わせた魔術文字(ルーン)


 あの地下遺跡で、アタシは地底湖の底に眠る遺跡を探索し、襲ってきた石巨人(ストーンゴーレム)を撃破した後。

 地底湖の浮島にあった黒い建造物の扉が開いていたことに気付いて、架け橋を渡りその建造物の中にあった壁画に刻まれていたもう一つの魔術文字(ルーン)を入手していたのだ。


 アタシは、壁画に刻まれていた古代語に書かれていた力ある言葉(ワード)を思い出しながら、一文ずつ口から紡いでいく。


「────我、九天に願う」


「我こそは天空と雷霆を支配する者」


人間(ひと)が住まうかの地に雷の加護(エッケザックス)を使わしたるモノ」


「────その名をουρανός(ウラヌス)っ!」


 すると刀身に刻んだ「ουρανός(ウラヌス)」の魔術文字(ルーン)が、アタシが流し込んだ魔力に反応し始めて白く輝き出すと。

 周囲の空気かバチバチと火花を散らしながら、次第にその火花が大きく連なっていき、ついには電撃と化す。


 周囲に電撃を纏うアタシの髪は、すっかり天に向けて逆立ってしまっていたが、そんな些細な事に構ってはいられる状態ではなかった。

 何しろ……力ある言葉(ワード)を唱えた途端に、アタシの意識が魔術文字(ルーン)から伝わってくる意識に取って変わりそうな感覚だったのだから。


 少しでも気を抜いたら────暴走する。

 アタシは、暴走しかけた魔力の源である魔術文字(ルーン)が刻まれた大剣を何とか空高く掲げていくと。その掲げた大剣へ、アタシの周囲に渦巻いていた電撃が急速に集まっていく。

 

「う、ううう……うわああああああああああッッ‼︎」


 アタシは意識が飛ばされないように雄叫びをあげながら、真上に掲げていた大剣の切先を、目の前にいた三体の吸血鬼(ヴァンパイア)へと向ける。


 その瞬間だった。


 今までアタシの身体の中で駆け巡っていた膨大な魔力が吐き出されていき、頭の中に(もや)が覆っていくような感覚。

 この感覚は……ロゼリアとの戦いの最中に、今も懐に忍ばせてある黒い結晶体(クリスタル)の「声」を聞いた時と同じだった。


 そして、アタシに襲い来るその感覚と同時に。

 三体の吸血鬼(ヴァンパイア)の上空から無数の雷撃が降り注いでいき、避けることが出来ないと判断した連中が身を縮めた直後に雷光が直撃し、まるで超級魔法(ハイエンシェント)級を思わせる程の尋常でない威力の雷撃は、犠牲者たる吸血鬼(ヴァンパイア)の身体を一瞬で焼き焦がしていく。

 断末魔を叫ぶ声すらも雷鳴に打ち消されていき。


 次の瞬間。

 刀身の「ουρανός(ウラヌス)」の魔術文字(ルーン)が、まるで硝子(ガラス)が割れた時のような乾いた甲高い音を立てて……消え去っていた。


「……はぁ……はぁ……あ、危なかったぁ……あと少しばかり発動してたら、多分アタシ、起きてられなかったよ……」


 魔術文字(ルーン)が消えた途端に頭の中がハッキリと晴れていく。

 そんなアタシの視界に映ったのは、放たれた雷撃を受けすっかり消し炭と化し灰となって散っていく、あの三体の吸血鬼(ヴァンパイア)であった。

黒の左腕(モーンブレイド)

闇属性の魔力を腕に集中することで、鉄を凌ぐ硬度の金属状の装甲と鉤爪を実体化させて腕に装着することが出来る暗黒魔術(デーモニックカースド)の一つである。

術式が簡単な割りに、作成する装甲の硬度は術者の魔力によって際限無く増すことが出来るため、魔族やそれに与する者が好んで使用する魔法の一つである。


ちなみに余談だが。

今回登場した従属種(レッサークラス)吸血鬼(ヴァンパイア)暗黒魔術(デーモニックカースド)を使用出来るのは、村人の霊魂を取り入れて種族の(クラス)が上昇したからであって。

通常の従属種(レッサークラス)が元来、魔族が使用する暗黒魔術(デーモニックカースド)を使用する事はほぼあり得ない。


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