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46話 アズリア、月下の乱戦

 王都(アウルム)へと急ぎ駆けるアタシは、旧市街地に向かった時とは違い、右眼に宿した筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)の効果を十全に発動させていた。

 よって今は早馬を走らせるよりも、きっとアタシの脚が速度で優るだろう。


「ようやく王都(アウルム)が見えてきたねぇ……あの吸血鬼(ヴァンパイア)ども、一体どんな出方をしてくるか……さて、お手並拝見といこうかね」


 旧市街地を出たのが、陽が暮れかけていた黄昏時だったが。このままの速度で駆け続けていれば、夜が明ける前に王都(アウルム)へ到着出来る。

 だがそうなると……多分、背中に背負った相棒の出番になるのは、容易に想像がつく。


 陽は既に落ち、周囲はすっかり闇に包まれて。

 月明かりのみが辺りを照らしていた。


 吸血鬼(ヴァンパイア)が活動出来る時間は夜。

 しかも、あの連中がアタシを狙っているとなれば、王都へと近づけば近づく程に吸血鬼(ヴァンパイア)連中と遭遇する可能性は高くなるだろう。

 それはまさしく、アタシの狙いでもあった。


「ほら、夜だ。王都(アウルム)に来た時のように……出て来いよ。吸血鬼(アンタたち)が狙ってるアタシはココにいるんだぜ……」

 

 何しろアタシには情報が少ない。

 吸血鬼(ヴァンパイア)連中が何故アタシを狙うのか、拉致したエルを一体何処へ連れ去って行ったのか。そもそもあの連中は本当にナイトゴーント隊の残党なのか。連中に抱いた一つ一つの疑問を解決するためには、吸血鬼(ヴァンパイア)に遭遇するのが一番手っ取り早い方法なのだから。


 だからアタシは王都(アウルム)に到着する前に、一度は吸血鬼(ヴァンパイア)連中と遭遇しておきたくて。

 王都(アウルム)を囲う城壁と立派な王城が視界へと映る距離になると、駆ける脚を止めてアタシが立ち回りしやすそうな戦場を選択し、その近辺をしばらくの間歩き回っていると。

 ようやく連中はアタシを見つけたようだ。

 周囲を取り囲むような気配を多数、察知する。


「いち、にのさんに……六、いや……八体か。確かにラクレールじゃ四体、つい先日の襲撃も五体だったねぇ。で……八体ほど雁首(がんくび)揃えればアタシを()れると思ったワケかい……」

 

 アタシは背中の大剣を握り、動かしていた脚を止めて、戦場に定めていた開けた平地へと敵対する8つの禍々しい気配を誘導していく。


「……その程度で今のアタシをどうにか出来ると考えたアンタらの甘さごと……ブッ潰してやるからさ」


 気配の主らが闇夜から姿を見せる。やはり予想した通りの吸血鬼(ヴァンパイア)だった、しかも気配を察知した数も一緒。

 その姿は……確かに帝国軍の鎧甲冑を身に付けている兵士が吸血鬼(ヴァンパイア)と化したものだった。


「────かかってこいよぉ吸血鬼(ヴァンパイア)ッッッ!」


 アタシの周囲に現れた八体の吸血鬼(ヴァンパイア)は、ある者は腰から剣を抜いて走り込んで。またある者は手指の爪を立てながら襲い掛かってきた。

 一見すると八体同時の波状攻撃。逃げられる隙など何処にも見当たらない。

 しかも相手は人間ですらない吸血鬼(ヴァンパイア)という化け物なのだ。その攻撃の威力は並みの人間であればひとたまりもないだろう。


 だが、だからこそ意思の疎通や連携が一切取れていない、ただ数的なだけの波状攻撃であり。

 攻撃と攻撃の合間に隙があり過ぎるのだ。


「アンタらにこの戦法を教えたのが誰だか知らないけどね……動きが、バラバラなんだ……よおっ!」


 真正面から向かってくる吸血鬼(ヴァンパイア)の振るってきた剣を、構えた大剣で横へと払い退けると。

 目の前の吸血鬼(ヴァンパイア)の隙だらけの腹部へと渾身の蹴りを放ち、背後へと吹っ飛ばして後方から向かってくる他の吸血鬼(ヴァンパイア)が巻き添えを受けて二体とも背中から転倒する。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)が左右から跳躍する。

 元々、吸血鬼(ヴァンパイア)は人間と比べて高い身体能力を有しており、その跳躍力は人を頭上から襲い掛かるなど容易である。

 確かにアタシが蹴りを放って、動きが止まったところに左右同時に襲い掛かられたら厄介だったろうが。

 連中の攻撃を繰り出す呼吸はバラバラで、左右を別々に対応しても背後から強襲される懸念はない。

 

 まずは攻撃が早く届きそうな右側の吸血鬼(ヴァンパイア)へ対応するために、蹴り脚を戻して体勢を整えると大剣を横薙ぎに振るい。


「うらああぁぁあッッッ!これで三体目っ!」


 襲い掛かってきた吸血鬼(ヴァンパイア)がその刃で上半身と下半身が両断されていき。地面に落ちた途端に、青白い炎を上げて燃え尽き、灰になる。

 それを見届けることなく、今度は左側に向き直ると、上空から飛び掛かってきた吸血鬼(ヴァンパイア)の爪撃を身体を少し捻って躱すと。


 籠手を装着してあった左腕の拳で、爪撃を回避されて大きな隙が出来た吸血鬼(ヴァンパイア)の顔面へと握り締めた拳を叩き込んでいった。

 そのまま地面へと倒れ伏した身体へと大剣を突き立てていき、その身体も青白く燃え尽きていく。


 違う角度から今度は三体の吸血鬼(ヴァンパイア)がアタシを逃がさない意図で横に広がり、それぞれが爪撃や剣を振るってくるが。

 いくら横に並んで回避を困難にしてみても、奴らの剣や爪と、アタシの持つ相棒の幅広剣とでは攻撃の距離があまりに違い過ぎる。

 それは……こちらに斬られるためにわざわざ纏まってくれているようなものだ。


 アタシは大剣を一度横へと大きく振りかぶると、腰を使って大きく回転するように、三体の胴体へと横薙ぎに大剣を一閃する。

 

 次の瞬間、向かってきていた三体の吸血鬼(ヴァンパイア)の腹から上の部分が両断されて、黒い血を噴き出しながら上半身の部分が地面にドサリ……と落ちて、青白い炎が上がるのだった。

 

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