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43話 アズリア、7個目の魔術文字

 アタシが新しい魔術文字(ルーン)を受け入れたその瞬間、この場所を中心として、かなりの広範囲に散っていた魔力がアタシ、というより魔術文字(ルーン)が浮かんだ右眼に収束し、吸収されていくのを感じていた。


「コレが「yr(ユル)」の魔術文字(ルーン)……それにしても……今、集まってきた魔力は一体何だったんだ……?」


 その答えは帰りの道のりですぐに理解出来た。

 再び湖水に浸かろうとすると、茶色く濁っていたはずの水が、アタシが触れる前から既に無色透明で綺麗な水に変わっていたのだ。


「もしかして……地底湖の水が変貌していたのって、この遺跡にあった魔術文字(ルーン)が発動していたから、だってのかい?」


 もしくはスカイア山嶺の時のように、望まぬ形で暴走していた可能性もある。

 ともあれ、遺跡に眠っていた魔術文字(ルーン)の効果で湖水が肌を焼く毒水に変貌していたのは紛れも無い事実なのだ。


「……ふぅ、今さらだけど。アタシは魔術文字(ルーン)ってモノが恐ろしくなってくるよ……」


 あの遺跡にあった古代文字だが。こう見えてもアタシは過去の歴史に埋もれた魔術文字(ルーン)を探索する必要から、魔法の知識や古代文字などもそこいらの学者並みには読み進めることが出来る。

 

 それを前提にしても、湖底の遺跡にあった古代文字を全部解読するにはかなりの時間が必要となるし、アタシは壁面の文字を書き写していく道具を持ち合わせていなかった。

 だから、目視だけで読めた箇所を何とか記憶に留めておくのが限界だったが。


 そこには、この魔術文字(ルーン)が象徴するモノ(・・)が記されていたのだ。しかもそれは、この地に封印されていた魔神の弱点でもあるらしい。


 この魔術文字(ルーン)が象徴するのは、赤檮(イチイ)

 アタシが生まれた帝国のような寒い地域に見られる植物で、果実や葉には狩猟時に使われる強力な矢毒が含まれているが。この湖に広がった毒水は、赤檮(イチイ)の毒を模したモノなのかもしれない。


 湖水の冷たさにも何とか耐えて、少し見つけるのに手こずりはしたが重石で固定して垂らしておいた麻縄(ロープ)を探し出し。

 ようやく地底湖の探索を終える事が出来た。


「ふいぃぃ……早く地上(うえ)に上がって濡れた身体乾かさないと、体調崩してエルやユメリアに小言言われちまうしねぇ……やれやれ」


 麻縄(ロープ)を昇り、湖水ですっかり濡れた髪や身体に纏った布地を両手で絞って水を切っていき。外した部分鎧(ポイントアーマー)や荷物を回収しようと螺旋階段のある建造物へと近寄っていく。


 その時のアタシは、新しい魔術文字(ルーン)を入手出来た事とその効果の考察で、すっかり周囲に対する警戒心が消えてしまっていた。


 ────だから、気づけなかったのだ。


 あれだけの巨大なモノ(・・・・・)が動く気配も、その存在が繰り出した豪腕がアタシへと向けられていたことも。

 

 突然、左側から襲ってきた強い衝撃。

 それはまるで勢いよく転がってきた巨大な岩石が真横からぶつかってきたような。

 その衝撃によってアタシの身体は見事に「く」の字に折れ曲がったまま宙に浮き、不意を突かれた事で脚で踏ん張ることも出来ず真横に吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐわあああああああああああッッッ⁉︎」


 アタシを襲った衝撃の元凶が、動き出した赤銅色(ブロンズ)の肌をした大型の石巨人(ストーンゴーレム)の拳だと知ったのは、吹き飛ばされ石畳を転がり、自分の身体が石床に倒れていると理解したのと同時だった。


 口から溢れてくる赤い鉄の味。

 起き上がろうとすると左半身に走る激痛。


「が……ごふぅ……か、完全にゆ、油断してたねぇ……くっ、マトモに喰らっちまって、左腕に、左脚も、力が……入らない……か、さすがにコレは……マズいねぇ……」


 力が入らない左脚を握った右手で何度も叩いて無理やりに立ち上がるが、辛うじて立っているのがやっとの状態で。

 いつものアタシの戦法……足を使って間合いを詰め、突撃や跳躍で剣撃の威力を増す戦い方など、到底出来そうにもない。


 だが、動き出したアタシの二人分ほどの大きさの石巨人(ストーンゴーレム)は、アタシが回復するまで待つ気もなければ。回復魔法を使用する暇すら与えてはくれないようだ。

 オオオ!と低い唸り声のような音を発したかと思った次の瞬間、大型の石巨人(ストーンゴーレム)は拳を振り上げてこちらへと一直線に歩いてくる。


「……はっ!面白い……面白いねぇ……ッ!イイよ……かかってきな石巨人(ストーンゴーレム)っ、この程度の初撃はハンデ代わりに喰らっておいてやるよぉっ!」


 絶対的不利な状況なのに、何故か笑いが漏れる。

 先程までズキズキと激しく痛んでいた左腕と左の脇腹が、今では全然痛くなかった。

 気の(たかぶ)るままに、アタシは口から流れる血を両手の指で拭い────左右それぞれの指で。


 身体には、傷を癒す生命と豊穣(イング)魔術文字(ルーン)を描きながら。

 大剣には、闇夜を纏う(ダガス)魔術文字(ルーン)を描いていく。


「我、大地の恵みと生命の息吹を────ing(イング)


 今まで試した事など一度も無かった、二種類の魔術文字(ルーン)を同時に発動させようとする動作だが、この危機的状況でアタシの頭にふと思い浮かんだのだ。


 まさにぶっつけ本番。

 以前に炎を操る「ken(ケン)」の魔術文字(ルーン)力ある言葉(ワード)を意図的に間違えて発動させ、アタシは自分の生命力そのものを炎へと変換する術式を編み出す事に成功した。

 だが、師匠(ドリアード)に後でその術式が下手をすればアタシは死んでいたかもしれない失敗だと聞かされ、心底肝を冷やした記憶が()ぎる。


 ────それでも。

 この窮地を乗り切るには、やるしかない。

 

「……月は冥府の扉、黄泉路を司ると砂漠の国(アル・ラブーン)の王妃に聞いた。なら、その月を統べる魔力をアタシへと貸してくれないか?」


 誰も聞く相手がいない地下遺跡で、アタシは大剣に刻んだ魔術文字(ルーン)に語り掛ける。

 そして、力ある言葉(ワード)を口から紡ぎ出す。


「我は月に願う、剣纏いし夜の闇────dagaz(ダガス)


 これがアタシの研究の成果だ。

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