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40話 アズリア、旧市街地の遺跡へ向かう

 夜のうちに王都(アウルム)を出発し、あらかじめ持っている簡易的な地図に記しておいた旧市街地の遺跡の位置を角灯(ランタン)の明かりで確認していく。


 どうやら遺跡は王都(アウルム)から東に向け移動し、馬で五日ほどの距離にある何とかという丘陵の地下に広がっているらしい。

 一応、遺跡の出入口には騎士か衛兵が不審者が不用意に侵入しないよう警備に当たっていると聞いている。

 まあ、アタシには王様から貰ったこの勲章が、そのまま侵入の許可証となっているから安心なんだけど。


 ふと後ろを振り返り、誰もいないはず(・・・・・・・)の場所に声を掛けようとして、ようやくアタシが一人旅なのを自覚する。


「……そう言えば、一人で旅をするのも久しぶりだねぇ。ここ最近はずっと傭兵団の連中にエルも一緒だったから不思議な感じだよ」


 場所を確認したなら、誰も連れがいない状況なのだし、夜である以上周囲を(はば)かる必要もない。

 アタシは右眼の魔術文字(ルーン)を起動させて、その魔力を脚へと巡らせて。増加した脚力で東側の何とか丘陵へと全力で駆け出していった。

 その速度は、まさに陸路を駆ける馬以上だ。


「おおっ……早い早い!最近は馬車に乗って移動するコトが多かったけど……正直言って、あまりに遅かったから鬱憤(うっぷん)が溜まってたんだよねぇ……ッッ!」


 魔術文字(ルーン)の解放は全力などではないが、旅を急ぐための早足に使用するなら、この程度に加減しておかないと魔力を短時間に消耗し過ぎてしまって、長距離を移動することが出来ないからだ。


 何故、この探索にエルや妖血花(アルラウネ)の同行をさせずにユメリアらに預けて単身で向かったのか。理由は二つある。

 

 一つは、これから向かう旧市街地の遺跡にどのような危険が潜んでいるのか、アタシどころか王様ですら未知数だ、という点だ。

 その脅威次第では、アタシはあの二人の安全を確保しながら脅威に立ち向かうのが困難である可能性だってある。


「とりあえず警備してる騎士らの話を聞いただけなら、遺跡から外に出てくる魔物や危険な脅威の(たぐ)いが目撃されたってコトはないらしいけどねぇ」


 噂では「魔神が封印されていた」という旧市街地の遺跡だが、王様の雰囲気からして……魔神かどうかはともかく、それに準ずる強力な存在のなにか(・・・)が遺跡にいたのは確実だろう。

 だから念を押して、エルには留守番を頼んだのだ。


 そしてもう一つは、サイラスとルーナに招かれて王都(アウルム)に来る途中に出現したあの吸血鬼(ヴァンパイア)どもだ。

 実はランドルに話を聞いたところ、王都(アウルム)に物資を運搬して来た際には、アタシの言うような吸血鬼(ヴァンパイア)には遭遇しなかったというのだ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)と化した帝国兵の数がまだ少ないのか、それとも……明確にアタシらの誰かを狙って襲撃してきたのか。


 だとすれば……その目標は間違いなくアタシだ。


「もちろん、強力な聖職者のエルが狙いな可能性もあるけど……ユメリアにノル、リュゼに王様までいる王城なら、これ以上安全な場所はないだろうしねぇ」


 だからこそ、実はこうして東の丘陵に向かっているアタシへ吸血鬼(ヴァンパイア)らがいつ襲撃を仕掛けてくるのか。

 魔獣は数が減りすぎて遭遇頻度が激減し、戦役が終結した直後のこんな夜更に都市間を移動する物好きもいないだろう。だから、何か出てきたら即座に大剣を振れるように、周囲への警戒は怠ってはいない。


 だが、その心配は杞憂に終わった。

 アタシが向かっている方角から太陽が昇り、辺りの地面が朱色に照らされていったからだ。


 吸血鬼(ヴァンパイア)は一種の亡者(アンデッド)だ。その例に漏れず、連中は陽の光に異常なまでに弱い。隷属種(スクワイア)ならば陽の光を浴びただけで身体が燃え上がり灰となる。

 もっと上位種(エルダークラス)ならば、陽の光を克服出来るのかもしれないが、幸運にもアタシはまだそこまで強力な吸血鬼(ヴァンパイア)に遭遇したことはなかった筈。


「帝国との因縁を晴らすなら……いずれはあの化け物と相見(あいまみ)える必要があるよねぇ……


 ……いや、多分、アタシは、ある。


「────紅薔薇(グレンガルド)公、ジーク」


 氷の精霊(セルシウス)と「精霊憑依(ポゼッション)」までしていたアタシの渾身の大剣を、いとも簡単に片手で掴む程の強敵。いや、今のままのアタシでは勝負の舞台に立てるとは思えない、きっと。


 だからこそ。アタシは自分が生まれながらに授かった武器である魔術文字(ルーン)を集めるために、一分の可能性を信じて旧市街地の遺跡を探索するのだ。

 そう考えると、夜通し走り続けていたにもかかわらず、遺跡へ向かう脚にもまた力が入るというものだ。


 地平線から昇った太陽がすっかり空高い位置に移動し、空の色も朱色からすっかり青に変わった頃。

 目的地である、何とか丘陵へと辿り着いた。

 何故その丘陵が目的地だと判明したかというと、まず周囲に都市などないこんな場所に、ポツンと建っている詰所だ。


「……そこの者。このような辺鄙(へんぴ)な場所に一人だけで一体何用か?」

「ここは厳重に国で管理されている場所ゆえ、用がないのなら早急に立ち去られよ」


 だからアタシを見つけた騎士らが不審に思ったのだろう、馬に騎乗してこちらへと接近を試みて、任務通りにアタシの歩みを制してくる。


 無駄な押し問答するにはあまりに時間が惜しい。

 アタシは胸元に装着していた、王様から授かった黄金の勲章を騎士らへと見せると。


「イオニウス王からの許可は戴いてるよ。アタシは旧市街地の遺跡を探索するためにココに来た。出来れば入口まで案内してくれないかねぇ?」


 すると、騎乗したままの騎士らが急に馬上から降りたと思った途端、アタシへ向け。


「……し、失礼しました!」

「ん? ちょいと待った。アタシは──」


 と、明らかに過剰に恐縮した反応を見せたのだ。

こちらはあくまで客将であり、向こうは正式なこの国(ホルハイム)の騎士という立場にもかかわらず、である。


「あ、なるほど……ねぇ。この勲章のせいってワケかい」


 恐縮していた騎士の視線の先には、つい先日の食事会で王様に無理やり押し付けられた勲章がぶら下がっていた。

 確か王様の話では、この勲章は将軍位と同等の立場を表すのだとか。


「まったく。あの王様も、とんでもないモノ渡してくれたもんだよ……」


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