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39話 アズリア、食事会を終えて

 ホルハイムにシルバニア。そしてアル・ラブーン。

 意図せずにラグシア大陸の三国会談となった食事会は、思いのすれ違いや困惑、行き過ぎた要求など様々な紆余曲折があったが。

 最後は全員が笑顔で終わることが出来た。


「ぷはぁ……いやぁ、さすがは王都(アウルム)で一番評判って噂の料理だったねぇ。口の中が幸せでいっぱいだよぉ」

「もうっ……最後の生肉でパンを10個も食べるからよっ、ホントに食いしん坊なんだから……」


 アタシはというと、エルの言う通り三品目を堪能し過ぎたおかげで腹が膨れてしまい。小言を言われながらも彼女に手を引かれながら、今夜の食事会の舞台だった「ダンテライオン亭」から出てくるのだった。


「それでは国王陛下。私は、東側の都市や村に派遣する人員と物資を早速打ち合わせたいと思いますので、これにて失礼いたします」

「うむ。店舗の建設や進出に何か必要になるものがあるなら、遠慮なく王城を訪ねるがいい、アードグレイ卿よ」


 店を出た途端にランドルは王様に挨拶をすると、慌てた顔で馬車に乗り込んで、王都にあるグレイ商会の店舗へと帰っていく。

 いや。帰路に着く前に馬車の窓から顔を出してアタシへと釘を刺していく。


「……アズリア。二つの約束、忘れるんじゃないぞ」

「わかってるってランドルの旦那。今すぐ、は無理だけど絶対に王国(シルバニア)に立ち寄って顔出すからさっ」


 アタシの返答に「待ってるぞ」と言葉を残して、馬車は大通りから結構な速度で走り去っていった。


「さて。それでは儂らも帰るとしようか。あまり遅くなると体調が回復した妃が怒るからな。はっはっは」

「国王様……それは笑い事ではありませんよ。はぁ……」


 ランドルの馬車を見送ると、今度は王様が乗ってきた王宮仕様の馬車へと乗り込んでいく王様とリュゼ。

 そして、客将として王城で世話になっているノルディアとユメリアも同じ馬車へと乗り込むと。

 

「アズリア様は私たちと一緒ではないのですか?」


 馬車に乗ろうとする素振りのなかったアタシを不思議に思い、ユメリアが尋ねてきたので。

 アタシは、食事会をしながら考えていた事をそのまま口にする。


「ああ、アタシはこのまま……旧市街地に行こうと思ってるんだ。そこに旅を続ける目的(・・・・・・・)があると知ったら、もう朝まで待ちきれなくてねぇ」


 本当ならば。

 王様から許可を貰った時点で、謁見が終えたらすぐに旧市街地の遺跡へと突撃する算段だったのだが。

 ユメリアとノルディアとの再会に模擬戦、そしてリュゼに会ってランドルから物資を購入して……と色々とありすぎて、すっかり後回しになっていたのだ。

 

「だからさ、ユメリア。お願いがあるんだけどさ……」

「わかりましたわ。エルさんとアルちゃんは王城(コチラ)でお預かりしておきます」


 さすがはユメリア、そういったところは6年前から妙に勘が良い。アタシが二人の身柄を頼む前に、エルと妖血花(アルラウネ)を馬車へと招いていた。


「うむ。確かに旧市街地の遺跡は、儂が魔神を倒した時以来、本格的な探索がなされていない危険な場所でもある。アズリアだけならともかく、この二人を同行させるのは儂も反対だ」


 王様が顎髭(あごひげ)を触りながら、エルが「同行したい」と駄々を()ねる前に先んじて反対を主張する。

 さすがに先に釘を刺されては、我儘を言える空気ではなかったのか。頬を膨らませながらもエルが、アタシへと口を開く。


「……ちゃんと無事に帰って来なさいよ、でないと……許さないんだからねっ?いい、アズリアっ?」

「……ああ、わかってるよ」


 先程の腹を膨らませて弛緩しきっていた表情とはまるで別人の、真剣な表情でエルに答える。


 魔神が眠っていた遺跡。だからどんな危険が待ち構えているか、管理している王様でも想像が出来ないと言う話だ。

 だからこそ期待も膨らむ。

 古代の歴史に埋もれた魔術文字(ルーン)は、今迄もそのような場所に眠っていた。

 

 6年前に、ユメリアら砂漠の部族が管理していたものの忘れ去られた遺跡……偶然にもアタシが魔術文字(ルーン)を見つけた際に、魔族が魔獣を復活させ水の精霊(ウンディーネ)を抹殺するための儀式と鉢合わせてしまったが。


「……? どうしましたかアズリア様?」

「いや、何でもないよ。ただちょっと、随分と昔の……ユメリアがまだこんな小さかった頃の事を思い出してただけだよ」

「ふふふ、あの頃からアズリア様は常に誰かを助けて回ってたのでしたね……だから、(たま)にはアズリア様自身のため(・・)だけに動いても良いと思いますよ」


 王様がずっと出発を待たせていた御者に、出発させるよう合図を送ると。

 馬車の窓からアタシへ向けて声を掛ける。


「アズリアよ、お主の探し物が何なのかは知る(よし)も無いが。その探し物が遺跡で見つかる事を王城から願っておるぞ」

「王様……い、いや、イオニウス王」

「どうしたアズリアよ? 急に改まった呼び方をして……」


 アタシは直立不動のまま、窓から顔を出している王様へと頭を、深く下げてみせる。

 

「エル達を……よろしく、頼むよ」

「アズリアよ。くれぐれも……無理はするなよ?」


 そう言葉を交わして、馬車は王城へと走り去っていった。アタシは馬車が見えなくなるまでその場で見送っていたが。

 やがて、馬車が見えなくなると。


 ランドルに会いに王城から出た際に、こっそりと整えておいた旅の荷物とクロイツ鋼製の大剣を背負って、王都(アウルム)を後にするのだった。

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