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37話 アズリア、黄金の勲章の意味

 いや、ユメリア……というよりエスティマ王妃の要求の「国内の金鉱山一つの採掘権」。

 そしてランドルの要求であるホルハイム東側への複数の店舗の進出、それに王様が自分の国(ホルハイム)側から見張り役を置くのは当然の措置だと思うのだが。

 何故、その見張り役がアタシ(・・・)なのか?


「いや、アズリア……その勲章を国王陛下が手渡した時に説明されていないのは私も知っている。今更だが、その勲章は……我が国の将軍位に授与されるモノで、つまりは」


 リュゼが本当に済まなそうな表情を浮かべながら、アタシの胸に輝く黄金の勲章が持つ本当の意味を教えてくれていると。


「アズリアよ。お主が我が国に属していなくても、たとえ何処にいたとしても、儂が認めたその勲章を持つ以上は我が国(ホルハイム)の将軍と同等の権力と発言力を有するのだ、よいな?」


 王様が腕を組みながら、一人で何か勝手に満足したような笑みを浮かべて何度も頷いていたが。

 

「……よいな……じゃ、ねぇだろ……」

「あ、あず……アズリア?」


 アタシは歯軋(はぎし)りを鳴らし、勝手な言い分を並べ立てた王様から目線を外す。

 リュゼが声を掛けてきたのは、アタシの雰囲気が妙だったからなのかもしれない。だが、今のアタシの耳にはその声は届いていなかった。


 何故なら、この勲章はあくまで「旧市街地への許可証」として受け取ったと思っていたのに。

 それを騙し討ちのようなカタチで、将軍位なんて大きな権限を譲渡されていたことに激昂していた……簡単に言うと、苛立ちを感じていたのだ。

 

「アタシが将軍とか……金鉱山やランドルの店の面倒見るとか……冗談もいい加減にしろよ王様ッッ!」


 アタシは卓をダンッ!と両手で叩いて怒りを露わにして、喜ぶと思っていたイオニウス王に直接抗議の言葉をぶつけていった。

 どうやら王様は、そんな反応を返されるとは微塵にも考えていなかったらしく、アタシの怒声を聞くと大層驚いた顔をして。

 慌てふためいた様子で口を開くのだった。


「い、いやアズリアよ……儂は別に将軍と同格というだけで、お主をこの国(ホルハイム)に縛りつける意図は本当にないのだ……」

「ならッ! 金鉱の管理やランドルの店の世話をアタシに押し付けたのは一体どんな意図があったって言うんだいっ!」

「それは……」


 アタシの苛烈な口調に、「英雄王」と名高い王様(イオニウス)も思わず口籠(くちご)もり。食事の席には緊張した空気が張り詰める。

 本来なら一傭兵であるアタシが、国王という立場の人間にこのような口の聞き方など許されないからだ。


 だが、口籠(くちご)もったのは一瞬だけだった。

 王様(イオニウス)


「アードグレイ卿も彼女らもアズリア、お主の友人なのだし……宰相辺りに任せるよりも、その、適任だと思ったのだが……まさかそこまで嫌がるとは儂の誤算だった……悪かった」


 怒りの感情を(あら)わにしたアタシの両腕を、必死にしがみ付いて抑えていたのはリュゼとエルの二人だったが。

 どうも二人は全く違った感情からだったようで。

 右腕にしがみ付いたリュゼは、何度も繰り返し頭を下げながら。


「アズリア……あくまで自由の身でいたかったという考えを軽く見たのは、確かに陛下にも非があったと思うわ。だから、ここは陛下の代わりに私の謝罪で収めて欲しいの……」

「ねえ、アズリアっ……もし」


 国王の提案に対して謝罪を続けていたリュゼ。

 一方で、左腕にしがみ付くエルは涙目ながらに。


「本当に王様がアズリアをこの国に縛りつけるつもりだったら、謁見の時に問答無用で爵位なり将軍位なり与えてるはずじゃない? そんなのアズリアだって分かってるでしょ?」


 二人の必死の説得がようやく耳に入ってきて。

 アタシは少しばかり頭が冷えた気がした。


(わし)も、元は冒険者を稼業としていた身。面倒事からなるべく距離を置いておきたいお主の気持ちを一番()んでやるべきだったのにな……」


 何故こんなにも冷静さを失い、アタシが王様に今の立場を失う危険を冒してまで噛み付いたのか。

 それは……王族や貴族らの気紛れで気に入られ、自分を囲おうと権力を存分に振るい、アタシの自由を奪おうとする行為に辟易としていたからだ。


 アタシは何よりも「自由」を愛していたから。

 一人旅を続けて7年間、アタシは……自分を従属させようとしたり手駒に使おうとする権力者の姿を見てきた。

 だから、国家や他人の下に属することで、その自由を謳歌出来る機会が奪われてしまうのを身を以って知っていたのだ。


 だから、最初にあれだけ友好的に接してくれていたイオニウス王も結局は自国の利益のためにアタシの自由を奪っていくのか、と。

 失望の度合いが大きかったからに他ならない。


「信じてくれないか、アズリアよ。儂はお主を縛りつける意図などなかった。その勲章を渡した時に言わなかったのは……喜んで貰えると、儂が本気で思っていたからなのだ、済まぬ……済まぬ」


 王様が顔を伏せながらアタシへの謝罪の言葉を繰り返している様子を見て。


 冷えた頭で考えてみれば、王様は何もそんな面倒な手順を一々踏まなくても、国王陛下の権限を使えばアタシ程度を配下と宣言するのも、それを嫌ったら罰を与えるのも容易に出来る立場なのだ。

 それを、こうして食事の場に同行したり、ここまで礼儀を欠いた問答をしたアタシに謝罪してくれているのは。

 王様が口にした言葉「アタシと友人の付き合いがしたい」を律儀に守ってくれているのだ。


 両隣でアタシにしがみ付いていた二人、そしてアタシに視線を向けるその他全員を見回した後に。

 激昂し一度は立ち上がった席へと座り直して。


「……いや、どうやらアタシが王様の考えを邪推し過ぎたみたいだね。謝るのはアタシのほうだよ……皆んな、空気を悪くしたのは謝る。許してくれないか?」


 冷静になったアタシは、卓に突くほどに頭を下げてこの場に同席した王様を含む全員に謝罪の言葉を素直に口にしていく。

 卓に額を付けたままのアタシに、最初に声を掛けてきたのは……勿論ながらイオニウス王だった。


「ならばお互い様ということでだ、儂はお主を許す。だからここは痛み分けとして儂の失言も許してはくれぬか、アズリアよ。それとだ……」

 

 王様は、アタシが勲章を付けてる辺りの胸を指差しながら、ニヤリと笑い掛けてきて。


「その勲章を返す、という謝罪は受け付けぬからそのつもりでな」

「どうやら、難しい話は無事に纏まったようですな。それでは、三品目は本日の肉料理(メインディッシュ)となります」


 すると、肉料理と聞いててっきり肉を焼く香ばしい匂いかと思ったが、厨房(キッチン)から漂ってくるのは、焼いた時とは違う美味しそうな匂いだった。

 そんな謎の料理を、給仕らと店主が三品目の皿を運んできて、目の前に給仕されたのだった。


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