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36話 アズリア、巻き込まれる

 王様に声を掛けたユメリアの手には、今しがた懐から取り出した包みが握られていた。

 そして彼女が席を立つと、その包みを王様へと直接手渡していった。


「ほう?確か……其方(そなた)はユメリアといったな」

「はい陛下。この親書には、我らが砂漠の王国(アル・ラブーン)の王妃エスティマよりの提案が(したた)められております。是非、御覧下さいませ」


 普通ならば臣下でもないユメリアから直接親書を手渡す行為など許される事ではないが、円卓を囲んで食事をしていたからなのか。

 王様はすんなりと親書を受け取り、皿が片付けられ綺麗になった円卓の上で紐で封が成された親書を紐解いていき、親書の内容に目を通していた。


「……これは、そういうことか……ふっ、はっはっはっはっ、そうきたか!あの女狐め、遠慮などという言葉を知らないと見えるわ」


 そして、唐突に大声で笑い出す王様。

 その王様の態度から、親書の内容が気になるのだろうリュゼと、自分の国の王妃が何を注文したのか気が気で仕方ないノルディアの二人が、卓上に広げられた親書の中身に目を通すのだった。


「ど、どうしたのアズリアっ?な、何か落ち着かない様子だけど、あの親書が気になるの?」

「あ、あははは、な、何でもないよ……エル」


 かくいうアタシも、確かにエスティマ様が何を王様とこの国(ホルハイム)に要求したのかは非常に気にはなるところではあるが。

 ここで国同士の話に首を突っ込んで、いい結果にはならないだろうと判断し、親書を覗き込みたい気持ちを必死に抑え込んでいた。


 それに、知りたかった親書の中身はすぐに二人の口から語られることとなる。


「……え?え?ほ、ホルハイムにあ、ある……き、金の鉱山を一つ……わ、私たちがえ、援軍に来たほ、報酬に……?」

「た、確かにこの二人はコルチェスター海軍を押さえ込んでいた帝国の猛者、ガンテ将軍を討ち取った功績はありますが……さ、流石にそれは……」


 おいおい、援軍二人の代金が金鉱山一つとか。

 さすがにそんな無茶苦茶な要求は王様も呆れて笑うしかない、アタシもそう思っていたのだが。

 王様の口から出てきた言葉は、アタシやリュゼ、親書を手渡したユメリアすら驚くものだった。


「わかった、この親書の内容で了承しよう。我が国とアル・ラブーンとの今後10年間の同盟関係を結ぶ条件として、金鉱山一つをそちら(アル・ラブーン)へと譲渡するという、な」

『────ええええっっ⁉︎』


 その場の全員が驚きのあまり声を上げてしまう。

 いや、約一名平然としていた人間がいた。

 それはランドルだったが、その彼もまた……王様に何かを言い出そうと口を開くのだった。


「イオニウス国王陛下。この場をお借りして、私も物資をこの国へ提供した身として、お願いしたい事がございます。聞いては貰えないでしょうか?」

「ふむ、アードグレイ卿よ。受け入れられるかは内容を聞いて判断させて貰うが、それで構わないのであれば……話してみてはくれぬか」


 ランドルは今夜、アタシが王様を引き連れて食事会にやって来る、なんて事態は想定してはいかなっただろう。

 なのに、ランドルは足元に置いた(かばん)からホルハイムの、それも東部一帯の地図を広げながら王様へ説明をするために席を立つ。


「海からの物資の搬入で西側の食糧などの不足は解消されつつある反面、我々がシルバニアからやってきた時の印象では、東側はいまだに物資が行き届いていない都市や村が多いです」

「確かに、コルチェスターからの救援物資はまだ東側に輸送出来ていないし、物資そのものも足りないという報告は受けている……それを解決する策が、アードグレイ卿にはある、というのだな?」


 王様の問いにランドルは力強く頷いてみせた。

 そしてランドルが懐からシルバニアの貨幣を数枚取り出していくと、地図の数箇所にその貨幣を置いていく。


「今、銅貨を置いたのは、東側の主な都市と比較的大きな村ですが……そこにアズリアに売った物資とは別に救援物資を商会より送る代わりに。その街や村へグレイ商会の店舗を置く許可を国王陛下に戴きたいのです」


 何と、ランドルはこの機会にグレイ商会のホルハイム進出を加速させる為の提案を出してきたのだ。


 ……そう言えば確かに。

 アタシがランドルを探してようやく見つけた時、王都(アウルム)に店舗を構えていたとはいえ、その店舗の立地は、大通りからかなり外れた位置にあり御世辞にも良立地とは言い難かった。


「ふむ、物資を回してくれる代わりに、グレイ商会へ儂の御墨付きを与えろ、という提案なのだな」

「御明察でございます。我々としても他国からの新参者ゆえ、どうしても商会の手を広げるのに苦労しまして……ここは国王陛下のお力添えをお願いしたいのです」

「うむ。国民を助けるのに儂の御墨付き程度を出し惜しみする理由などない。アードグレイ卿には早速王家御用達の証を渡そう。東側への支援物資をよろしく頼む」


 王様がランドルへとあらためて頭を下げる。

 本当にこの王様は……アタシの時といい「国民のため」なら簡単に頭も下げる、王族らしからぬ不思議な性格をしている。

 それがアタシは嫌いではないし、だからこそ国民らもあれだけ強固に帝国へ抵抗していた事に妙に納得してしまった。

 

「さて、ユメリアにアードグレイ卿。金鉱山の譲渡に東側へのグレイ商会の進出だが……引き受けるにあたり、儂から一つだけ条件を提示したいが……よろしいかな?」


 頭を上げた王様がユメリアとランドルの二人へ交互に視線を飛ばしながら。

 一度は承諾した内容に、敢えて後から条件を付け加えるのは交渉事としては褒められた方法ではないが。提示してきた内容が内容だけに、王様がかなりの譲歩をしてくれているのは二人とも理解はしているようで。

 王様の提案に不満を口にすることなく、何を条件として出されるのかを無言で待ち構えていた。


「その二つの件だが、管理者を我が国(ホルハイム)側の人間から指定させて貰いたい。それで、だ」


 金鉱山も新規で開店させる商会もこの国(ホルハイム)の内部にある。従って、いくら譲渡された鉱山だ店舗だといってもアル・ラブーンやシルバニアから無秩序に人が出入りされては堪らないだろう。

管理する人間を自分の国(ホルハイム)から選出するのは当然と言えば当然だろう。

 ということは、リュゼ辺りが妥当だろう。


 ユメリアやランドルもおよそ王様が指定してくるのはリュゼだと見越して、リュゼを凝視していた。

 だが王様は何故かアタシに微笑み掛け。

 

「儂が指定するのは────アズリアよ、お主だ」


 ……は?

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