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34話 アズリア、大切な友人達の晩餐

 料理店「ダンテライオン亭」の店主は、一品目の料理に絶賛するアタシの声に満足そうな笑みを浮かべながら。


「お気に召して頂けたようで何よりでございます。それでは、次の料理をお持ちいたしますね」


 次の料理を用意するために、給仕らと一緒に店の奥へと戻っていった。

 その様子を横目で見ていたイオニウス王が、店主が完全に店奥に行くのを確認すると、唐突にこの場にいる全員に向けて頭を下げていく。


「事情はリュゼより聞かせてもらった。ここにいる全ての者が、我がホルハイムの窮地を救ってくれるために動いてくれた、と」


 王様の言葉と行動に、円卓(テーブル)に着いていたアタシ以外の全員に動揺が走る。


 え?何故アタシだけが動揺しなかったのか?

 それは……提供された小麦麺(パスタ)の味に浮かれていたから、というのは内緒だ。


 頭を下げたままの王様へ、まず動揺から立ち直り声を発したのはランドルだった。


「あ、あの……正式な挨拶がまだでしたが、私はグレイ商会の会長、ランドル・アードグレイ男爵という者でございます。このような場で同じ卓を囲みながら誠に失礼だとは存じますが……」


 いくら隣国(シルバニア)では立派な肩書きを持っていても、いや……肩書きを持っているからこそ、ランドルは王様の前で萎縮しきっていた。

 そんな彼の挨拶を途中で制するように、頭を上げた王様はランドルへと右手の掌を出して。


「いや、この場に無理やり駆けつけたのは儂のほうなのだ。それに、グレイ商会は大量の物資を我が国に援助してくれるそうではないか。寧ろこのような場で申し訳ないのは儂のほうだ、ランドル(きょう)

「そ、それは……実はあの物資を買い上げて、ホルハイムへ提供したのは、そこにいるアズリアなのです、国王様」


 ランドルから物資を買い取った事はまだ誰にも話してはいなかった。だから、ランドル本人の口からその事実が明らかになると。

 円卓に着いた人間の視線は、料理に夢中になっていたアタシへと集まるのは当然だった。


「な、なあアズリアっ?それは本当なのか?」

「……さ、流石はアズリア様、商会の物資を丸ごと買い取るなんて、器が違いますわ……」

「ぱぁぱ!すごいすごいすごーいっ!」


 周囲からの声で、ようやくアタシは自分が今注目を浴びているのだと認識し。口の中の小麦麺(パスタ)をゴクンと喉を鳴らし飲み込んでいく。


「……ンぐっ……ぷはあ?な、何だなんだ、せっかく美味い料理を味わってる最中にっ?」

「我が友アズリアよ、お主は一体何回この国を救ってくれれば満足するのか?…………むぅ」


 グレイ商会からの援助物資の真実を聞かされ、顎髭を触りながら考え込む王様。

 ならば、とアタシは思いついた案を口にする。


「それならさ王様、せっかくこの場にゃシルバニアの大商人にアル・ラブーンの筆頭騎士まで揃ってるんだ。アタシに褒美を渡すくらいなら、今後のもしもに備えて……全員の名前を覚えておいてはくれないかねぇ?」


 先の謁見で、今までの功績に黄金の勲章を含む三つの我が儘を聞き入れてもらった立場としては、これ以上の報酬は双方にとって重荷でしかない。


「ここにいるのは全員アタシの大切な友人なんだ」


 アタシのその言葉を聞いて、王様は円卓に着いたアタシの大切な友人たち(・・・・・・・)を自分の右隣から順番に見定めるように視線を移していく。


 王妃様の代役を果たした妖精族(エルフ)

 砂漠の国(アル・ラブーン)の筆頭騎士。

 砂漠最大の部族、(ギザ)の部族長の妹。

 シルバニア王国最大の商会、グレイ商会の会長。

 元イスマリア聖王国の司祭。

 そして、アタシの血から生まれた妖血花(アルラウネ)


 全員を順番に見渡した後、最後にアタシへと視線を戻すと。


「うむ、アズリアよ。お主に誓って、今日この場に同席した全ての者を儂の個人的な友人として認定することにしよう」

「感謝するよ、王様っ。それじゃ……堅苦しい挨拶や態度はナシにして、今夜は美味い料理を堪能しながら、会話を交わそうじゃないかっ!」


 アタシは目の前に置かれた銀の酒杯(コップ)を握ると、口に運ぶのではなく頭の上に掲げていく。どうやらこの国(ホルハイム)では、大勢で酒を飲み交わす際に全員で杯を掲げるのが作法らしい。


 王様とリュゼは当然のように杯を掲げ、商談で各地を回るランドルも作法は知っていたようですんなりと杯を掲げていく、のだが。

 年齢的にまだ酒を嗜まない他の四人は、王様やリュゼの見様見真似で、ぎこちなく果実水(ジュース)の入った杯を掲げていった。


「それじゃ──乾杯だよっっ!」


 アタシが掛け声をかけるのと同時に、店の奥から店主が給仕らと一緒に、皿に盛られた二品目の料理を運び込んできたのだった。

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