33話 アズリア、緊張走るその一品目
ここは、王都でも評判が高いという噂の料理店である「ダンテライオン亭」なのだが……
今、この店内は料理店だとは思えないほど、異様なまでの緊張感が支配してしまっていたのだ。
その理由とは、何を隠そうランドルがアタシを誘ってきた夕食会にあった。
その張本人たるランドルは、隣の席に座るアタシへと椅子を寄せてくると。周囲に聞こえないように小声で尋ねてくるのだった。
「……おい、アズリア。これは、一体どういう理由だ?」
「いや、さぁ……夕食を外で取る、って伝えたら……まさか自前で馬車を出して一緒に来る、なんて思わなかったんだよ……」
アタシはランドルの抗議とも言える問いかけに、伐の悪そうな表情で答えるしかなかった。
当初、ランドルとの食事にはエルと妖血花は連れて行くつもりだったが。
大人数用の大きな円卓には、10脚の椅子が用意され。
「ぱぁぱ?ここで、なにするのー?」
「ほら、アズっ?あんまり暴れないのっ」
エル、妖血花に続いて座るのはノルディアとユメリア、そしてリュゼ。
「……こ、こういうば、場所はあまり経験がな、ないので……き、緊張してし、しまいます……っ」
「アズリア様が……アズリア様がお兄様以外の男と親しげだなんて……」
「……いえ、まさか。私だけならばともかく、ですが……」
まあ、ここまではアタシも食事会に付いてくる可能性は考えなくもなかったのだが。
「これはこれは……まさかこのような狭苦しい場所にわざわざ国王様が食事にとは、店主たる私も、そして料理人一同、歓迎いたしますぞ」
「うむ、あまり堅苦しいのは好きではないのでな。普段通り接してくれるとありがたい」
「ははっ、それでは何かありましたら」
アタシとランドルの対面に鎮座し、この店の主人に頭を何度も下げられている人物、それは……正真正銘この国の王様である、イオニウス王その人だったのだ。
「それにしたって……いや、アズリア。お前さんのことだ、どうせ今度の戦争にも首を突っ込んで色々と帝国相手にやらかしたんだろう?」
「うぐッ……す、鋭いねぇ……ランドルの旦那」
アタシの答えに、溜め息を溢すランドル。
「……お前さんは知らなかっただろうが。国を去る前にお前さんがあの騒ぎで倒していったのは、王国でも10人といない1等冒険者と、おれ隠密部隊の元隊長だったんだぞ……」
さて。
そんな会話をランドルと交わしていると、店の奥にある厨房からいい香りが漂い始め。給仕役の女性が数人で円卓に一品目の料理を運んできた。
「こちらは玉葱のマウルタッシェでございます」
運ばれてきた皿には、琥珀色に透き通るスープに浮かぶ、大きな袋状の小麦麺が二つ……どうやらこの小麦麺をこの国では「マウルタッシェ」と呼ぶらしい。
袋状、ということはこの小麦麺の中には何かしらの具が入っているだろうが。
店主がその中身を説明しないということは、中身を楽しみにしていろ、という無言の主張なのだろう。
アタシがその小麦麺にナイフを入れようとすると、店主が声を掛けてきてそれを制する。
「お客様、マウルタッシェは切り分けずに一口で食べて下さい」
「え?こ、この小麦麺、意外と大っきいけど……コレを、一口で?」
「ええ、それがこの料理の礼儀でございます」
アタシは店主の説明通りに、小麦麺を切らずにそのまま口に運び、頬張った口の中のプリっと茹でられた生地に歯を入れると。
小麦麺の中から口内に一気に広がっていくのは、力強い肉の旨味と心地よい渋味。
「んんんッッ⁉︎な、中に肉が入ってるっ?しかも……ただ肉だけの味じゃない、どちらかというとアタシが味わった事のある類いの隠し味が……んん?何だろ、コレ?」
「これは、王都で飼育されている猪豚の肉に、内臓の、肝の部分を混ぜたものとなっています」
確かに、アタシが旅の途中で鳥や動物といった獲物を狩った場合に、肉だけでなく内臓の部分を焼いたり煮たりして食べることはある。
肉にはない複雑な旨味や食感があるが、処理を間違えると臭いがキツい上、腹を下す危険性もあるので好んで食べる人間は少ないが。
アタシは、新鮮な内臓が好みの味だったりする。
だけど……まさか王都で一番と評判の格式高いこんな料理店で、動物の内臓を調理して出されるとは、とんだ不意打ちだった。
「いや、これ……こってりとした内臓の旨味と肉の味が玉葱スープと口の中で混じりあって、ホントに美味いっっ!」
ちなみに余談ですが。
今、登場させている人物のイメージCVですが、
アズリア……渡辺明乃さん
ランドル……小山力也さん
エル……水瀬いのりさん
妖血花……Machicoさん
ノルディア……田所あずささん
ユメリア……早見沙織さん
リュゼ……ゆきのさつきさん
イオニウス王……大塚明夫さん
みたいな感じです。
想像出来る読者さんは是非、この声で小説の台詞を再生してもらえたら嬉しいです。




