30話 アズリア、出会いと絆の連鎖
そう言えば、今アタシらがいる場所というのは一応王城の敷地内ということで、ふと横を見ると王城への出入り口が見えるのだが。
どうもノルディアと模擬戦を始めた頃ぐらいから、王都から城内への騎士らや荷馬車が慌ただしく出入りしているのが目についたのだ。
「何だか騒がしいねぇ……戦争が終わったばかりだってのに、また何か厄介事でも起きたのかね?」
「あれは、疲弊した各地に配給するための物資を乗せた馬車ですよ。アズリア」
アタシの問いに、その場にいたエルや妖血花にユメリア、そして対戦相手だったノルディアの誰でもない声が背後から答えたのだった。
もちろんアタシは、その声に聞き覚えがある。
「あ……え?ええっ⁉︎お、王妃様っっ?」
「あっは、ようやく王妃様の代役から解放されたみたいだねぇ……なぁ、リュゼ?」
アタシは敢えて、声を掛けられた側を向かずに背を向けたままで、その声の主である妖精族の名前を呼んだ。
「は?……りゅ、ぜ?……王妃様じゃ、ない?」
だが、王都防衛戦に参戦し、リュゼが王妃様の代役であることを知らないユメリアとノルディアは、先程からこの場に姿を見せたリュゼを、王妃様と思い込み面食らっていたのだ。
「まったく……ティアーネ様を助けてくれた御礼を言いたかったのに、さっさと城を出てしまうなんて。あらためてアズリアを探しだすのに苦労したと思ったら、まさか客将の方々と一緒だとは……」
「いや悪かったねぇ、アタシもせっかく王都まで来たんだ。リュゼにもキチンと挨拶しておきたかったんだけどさ」
とアタシは、ノルディアとユメリアの二人を順番に指差していくと。ここで初めてリュゼに視線を向けてから片目の目蓋を瞑ってみせる。
「……ちょっと懐かしい顔を見ちゃったからさ」
「なるほど、客将の二人はアズリアの友人だったと、そういう理由ですか……世界は広いようで案外狭いものなんですね、全く驚きですよ」
さて。
まだリュゼを王妃様かどうか判断しかねている二人は、事情を知っているエルに任せてしまうことにしよう。
「……いいのですか?」
「いや、どうもアタシはこういった事情を噛み砕いて説明する、ってのが性に合わなくてねぇ」
背後からエルが真ん中になって、王妃様を助けた事情を二人へと解説しているのが聞こえてくる、のだが。
何故か内容が次第に脱線していき、いつの間にやらアタシがエルと出会った時の話や、ロゼリア将軍ら紅薔薇軍との対決の話になっていたりした。
「そこでね……アズリアが格好良く」「もっと詳しく聞かせて下さいエルさん」「さ、さすがアズリア様……す、凄すぎます……」「ぱぁぱ、すごい!」「ふふん」
……うん、任せておいて不安になってきたよ。
だが、ここでアタシが口を挟むといつまで経ってもリュゼに本題を切り出せない。
心の中で頭を抱えつつも背後で盛り上がっている三人を放置して、アタシはリュゼに無理やり話を振る。
「と、ところでさ。さっき話してたけど、王都は帝国の連中に包囲網張られてて物資に余裕がないんじゃなかったのかい?」
「それは問題ないですよ?コルチェスター海軍が増援を引き連れてきてくれた時に、大量の補給物資も運び込んでくれましたから」
確か、コルチェスター海軍はホルハイムの西側にある港街から王都まで進軍してきた筈だ。
「……ってコトは、西側の街には物資はある程度行き渡っていたりする?」
「そうですね……海軍を率いるネルソン提督の話では、ある程度の物資を進軍途中の村や都市に配給したと聞きましたので、問題はそれ以外の地域かと思います」
もう一つの懸念すべき材料をアタシはリュゼに問い詰めていく。
「コルチェスターからの物資だけで、果たしてこの国の人々に配給するだけの量に足りているのかい?」
「そ、それは……正直に言えば全然足りていない、のが現状です……」
最初は言いにくさそうに口を噤んでいたが、アタシの圧にやがて諦めたように口を開く。
だが、それを聞いてどうするというのだろう。
いくらアタシの魔術文字でも、全く何も無いところに物資を作り出すことなど出来る筈もない。
ならば何故アタシは、「不足している」と聞いたところで何の打開策も出せないような意地悪な質問をリュゼにしたのか。
それは────アタシが王都に到着した際。
とある人物の顔を見ていたからに他ならなかった。もし、あの人物に手を貸して貰えるのなら、アタシが物資不足の問題をある程度解決することが可能となるのだ。
その人物とは────




