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26話 アズリア、再戦を挑まれる

 そんなノルディアが、アタシへと真っ直ぐ視線を飛ばしてくる。決して再会を懐かしむような感情ではなく、言うなれば……挑戦的な。


「ふぅん……ユメリアと違って、ノルディアはただ単にアタシと顔合わせたいからこの国(ホルハイム)にやって来た、ってワケじゃなさそうだねぇ?」

「は、はいっ、も、もちろんです。わ、私、あ、アズリア様との、て、手合わせを……も、もう一度お願いし、したくてっ」


 吃り口調ながらも、アタシへの再戦の希望を口にするノルディアは、腰に挿した長剣(ロングソード)の握りに手をかけて言葉を続ける。


「あれから私、師匠に剣の腕を磨き直して貰い……あの時とは違うと言い張れる程度に強くなったと自負してます。ですから……」


 今迄の吃り口調が嘘のように、ハッキリとした口調で喋り始める。

 

「イイよ。()ろうじゃないか、ノルディア」

「え?あ、アズリア様?」


 アタシがそんな彼女(ノルディア)の再戦要求に即答で承諾すると、彼女のほうが驚いていた。


 前回、彼女と砂漠の国(アル・ラブーン)の央都アマルナにて模擬戦で剣を交えた事があった。

 その時は、彼女の性格の豹変ぶりとその能力を目の当たりにして驚いてしまい、半ば騙し討ちのような戦法で勝利したのだったが。


 実を言うと、彼女(ノルディア)とは再び砂漠の国(アル・ラブーン)を訪れる機会があれば、もう一度剣を打ち合わせてみたいとあの模擬戦(とき)から思っていたのだ。

 まさか……向こうから海を越えて追いかけてくるとまでは思わなかったが。


「アタシと()りたくてココまで来たんだろ?そこまでノル(・・)に思われてたんだ、受けないワケにゃいかないだろ?」

「は……はいっ!え?い、今……アズリア様、私の事を『ノル』と呼びませんでしたか……?」


 確かに今アタシは初めて彼女(ノルディア)を名前を縮めて呼んだ。普通、そういった呼び方をするのは親しい間柄の対象だけなのだが。

 模擬戦だけではない。彼女とは大規模な魔族の侵攻の際に、隣に並んで死闘をくぐり抜けた関係でもある。

 だからこそ「ノル」と呼んでみたのだが。


「あれ?……もしかして、名前を短く呼ばれるのはお気に召さなかったかい?それなら……」

「いえっ!全然平気ですっ!ただ、いきなりアズリア様から愛称で呼んでもらった事にびっくりしただけですから……あの、出来ればこれからは、ずっとその呼び方でお願いしても……いいですか?」

「ま、まあ、ノルが言うなら構わないけど……」


 アタシは機嫌を損ねたものかと思ったが、どうやら嬉しそうにしているノルの表情を見るに、その懸念は杞憂に終わったようだ。

 しかし何故か、このやり取りを終始見ていたユメリアの機嫌が悪くなっているのが不思議で仕方なかった。


「……随分と二人だけで良い雰囲気を作ってますわねえ……アズリア様に愛称で呼んでもらうとか羨ましい限りですわ……」


 ユメリアが顔を俯きながら、小声で何かを呟いていたようだが。内容を確認する勇気はさすがにアタシは持ち合わせていなかった。

 模擬戦をやるなら一度城の外へと出なければならない。アタシ達とノルは、そんなブツブツと何かを言っているユメリアを引き連れたまま、城外へと向かって歩いていく。


 その途中で、今まで無言を貫いていたエルがアタシへと話しかけてきた。


「ちょっと……ノルディアって、あの人と模擬戦をするのはもう止めないけど。アズリア……あなた、左脚の具合は平気なの?」


 エルの心配事はもちろん、まだ完治はしていない左脚だ。アタシに強力な治癒魔法を施してくれたエルが心配するのは当然と言えば当然なのだが。


「エルも、道中での襲撃の時に平気で剣を振るってるアタシを見てただろ?一戦ぐらいなら問題ないよ、心配するなってエル」


 アタシとしては、王都に来る途中で吸血鬼(ヴァンパイア)に襲撃を受けた時に左脚の具合を試しながら戦ってみた結果。

 今の左脚の状態なら、筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させても、余程の無茶をしなければ問題はないだろう。


「確かに、それはそうなんだけど……あのノルディアって人、筆頭騎士って言ってたじゃない?てことは、強いんでしょ?だから……無茶しないか心配で」

「大丈夫だよエル。アタシも一度治療してくれた怪我が悪化するような真似は絶対にしないさ、約束する」


 一方、アタシ達の背後では。

 先程まで不気味にブツブツ……とノルへの恨み節を呟いていたユメリアが、そのノルへと真顔に戻って声を掛ける。


「ノルディアさん……アズリア様は左脚を痛めているようですわね。いつもの歩き方に比べて、左脚を庇った足の出方です。間違いありませんわ」

「うん。後で王国(ホルハイム)の騎士に話を聞いたけど、私が何とか倒した帝国の将軍をアズリア様は帝国の将軍を五人も(ほふ)ったらしいね……そりゃ無傷で済むわけないよね」

「……本当ならばアズリア様が何と言おうと、私が貴女を止めたいんですのよ?」


 確かに、ユメリアは治癒術師だが。

 コルチェスター海軍の戦艦に単身乗り込んでいった時といい、此処ぞという時の肝の据わり様は近衛騎士に見習わせたいくらいだ。

 

「ごめんユメリア。それでも私は……アズリア様に勝ちたいんだ。だから、今回だけは私の我が儘……許してくれないかな?」

「本気で……アズリア様に勝つ気ですのね」


 ユメリアの問いに、ノルディアは無言で頷いた。

 

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