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21話 アズリア、偶然の連鎖

 謁見の間には、赤い生地に金糸で刺繍を施された絨毯(じゅうたん)が部屋の入り口辺りから玉座が二つ並べて鎮座する部屋の最奥まで敷かれていた。


 その絨毯を踏みしめながら、部屋の中央付近まで歩を進めていくと、部屋の両端には鎧を纏った騎士らが並び。

 玉座の付近には国の重鎮と思われる老人ら数名がアタシを値踏みするように見定めていた。


「あれが救国の英雄ですか?」「むぅ……偶然ではないのですか?」「それにあの面構え、まさに傭兵らしい粗暴な感じですぞ」「あの傭兵団と同じく、金で解決出来ればよいのですが」


 好き勝手なことを聞こえないよう呟いているつもりなのだろう重鎮の連中へと視線を投げると、自分らが値踏みしていた事を隠すように顔を逸らしていく。

 その連中の態度に、エルもすっかり緊張が解けたみたいで、アタシだけに聞こえるくらいの小声で話しかけてくる。


「何よ、あの連中……アズリアがどんな傷付いて戦ったのか知らないから、あんな事言えるんだわっ」


 と、その言葉には所々にエルが怒っているのが伝わってきた。


「あはは……確かにアタシはあの連中のために剣を振るったワケじゃないけどさ。イイんだよ、言いたい奴には言わせておけば、さ」

「……でもっ、何か腹立たしいじゃない……」


 あの老人連中が、アタシが要求する「報酬」を聞いたら、一体どんな顔色に変わるのかと思うので、ここはエルの緊張を解いてくれたことに感謝をしながら、隣でアタシの代わりに憤慨してくれている彼女を(なだ)めておくことにした。


「少なくともエルはアタシが戦った理由(ワケ)を知ってくれてる、それで満足なんだよ……な?」

「……う、うんっ……アズリアが、それでいいなら……わたしは別に、構わないけどね……」

 

 すると、横に並ぶ騎士らに緊張が走り、重鎮の連中がアタシ達から玉座に視線を移すと。

 謁見の間の奥から現れた黄金の装飾品を身に纏った妖精族(エルフ)の女性が、二つ並んだ右側の玉座へと腰を下ろしていき。その妖精族(エルフ)へと老人らが(うやうや)しく頭を下げていく。

 多分、この女性が王妃様の代役なのだろうが。


「はは……やっぱりリュゼだ……」

「あ……アズリア?もしや……我が国を救ってくれた女傭兵というのは、あなただったの?」


 サイラスとルーナに話に聞いていた通りだ。

 リュゼは、スカイア山脈を山越えしていた時に二人と一緒に遭遇した妖精族(エルフ)だったが。

 彼女は、一風変わった武器を扱う。

 そんな変わり者の妖精族(エルフ)の事を、アタシでなくても忘れる道理(ワケ)がなかった。

 

 そのリュゼが、同じ妖精族(エルフ)だということで負傷し意識を失ったままの王妃の代役を買って出た、と説明されていたが。

 

「う……コホン。わ、私はホルハイム王妃ティアーネ・ディア・フィレム。決してリュゼ、などという名前の者ではありませんよ」

「もう、よいのだ……リュゼよ。今日まで王妃の代役をよく務めてくれたが……もう、大丈夫だ」


 アタシ達が通った扉が再び開く音がすると、背後から謁見の間に入り、リュゼに声を掛けたのは。


「い、イオニウス王……そ、それにっ!お、おおお……てぃ、ティアーネ様っっ!」


 そう、あの国王と。

 一月眠ったままにしてはしっかりとした足取りの王妃が、貫禄のある体躯の国王に支えられて赤い絨毯を歩いてきたのだ。

 玉座から立ち上がったリュゼは、そんな王妃の元へと一目散に駆け寄っていき、本当に王妃かどうかを確かめるように髪や頬、肩に触れていった。

 

「ありがとうリュゼ、事情は全部イオニウス(あのひと)から聞かせて貰ったわ。私が伏せている間、ホルハイムの民を見守ってくれていたのね……本当に、本当に……」

「い、いえっ!……再び目を開けてくれた、それだけで私は、私は満足でございます……うっううう……」


 王国の非常事態に王妃の代役などという大役を背負わせてしまったその労をねぎらうように、王妃の手がリュゼの肩に置かれると。

 その手を握りしめながら、両膝を折ってその場に座り込むと、大勢の前なのも(はばか)らずに嬉しさのあまり泣き崩れてしまうのだった。

 それは、まるで王妃が目を開けた時の国王のように。


「さて、リュゼよ。お前にも話しておこうと思うが、我が王妃を蘇らせてくれたのは、何を隠そう……そこにいるアズリアという傭兵なのだ」


 そんなリュゼに国王は、アタシが生命と豊穣(イング)魔術文字(ルーン)で王妃の毒を抜いて目を醒ませた事を教えていった。

 すると、涙を(ぬぐ)ったリュゼは両膝を絨毯に突いた体勢のままアタシへと向き直ると、王妃に対してよりも(・・・)頭を下げ平伏していく。


「ちょ?ちょっとリュゼ……な、何の真似だいっ、ほ、ほら?怪訝そうに騎士や重鎮らも見てるだろっ……な、なあ、頭上げてくれないか?」

「そういう訳にはいかないわ。アズリア……あなたにこの国は三度救われた。一つは帝国の別動隊を撃破した事。二つめは王妃ティアーネ様の生命を救った事」


 確かにその二つは理解出来る。

 でも、アタシには最後の三つめに何の心当たりもないのだ。


「そして三つめは……ホルハイムの正統な第一王子であるロシェット様を救出してくれた事です」

「な……なんと⁉︎あ、あれはリュゼ、それに騎士団長らが救出した、と報告を受けたのだが?」


 え?ロシェット────……ロシェット!


 スカイア山嶺に棲む有翼族(イーリス)の王子が氷漬けになり、それをどうにか助ける手段を模索するために有翼族(イーリス)に拐われた扱いになっていた、あの育ちの良い聡明な子供。

 そう言えば……確か、その子供がロシェットと名乗っていたのを思い出した。


「はい。確かにロシェット様を連れ帰ったのは我々でしたが。途中に立ち塞がった困難は、その時出会った彼女……アズリア無しでは絶対に突破出来なかったと断言出来ます」


 考えたら、あの時有翼族(イーリス)の王子を氷漬けにして暴走していた氷の精霊(セルシウス)と遭遇していなかったワケで。

 もし(・・)氷の精霊(セルシウス)とスカイア山嶺で出会っていなかったら、ロゼリアの最後の極大魔法に太刀打ち出来たか、その結果は……正直言って考えたくもない。

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