22話 アズリア、精霊界での試練・魔力編
唐突に始まる精霊の試練に、アタシは思わず喉を鳴らす。
「──ごくり、ッ」
これでもアタシは、七年もの間。一人で大陸を旅して回り、数多くの障害を背中の大剣と魔術文字を駆使して潜り抜けてきた自負がある。
そのアタシに、今さらどんな試練を課せば。これ以上強くなれるというのか。
試練の内容を今か今かと待ち焦がれていると。
精霊の少女はアタシの間近にまで迫り、全裸の状態の身体へと顔をずい、と寄せてきたと思えば。
突然アタシの尻の肉を鷲掴みにしてきたのだ。
「ひぃ?」
「ふむふむ……肉付き、それに固さは中々のようね」
「ちょ、ッ……お、おいッ?」
真剣な顔のまま、何かを確かめるような発言をしながら、尻を何度も揉みしだく精霊の少女。
「な、何、してんだ、よぉ……ッ?」
急に尻に触れられたことで思わず声を漏らしそうになるのを我慢し、声を殺しながらも。アタシは精霊の少女に全裸にし、身体を触る意図を訊ねていく。
というのも……アタシの身体には。七年間に行った戦闘の傷痕が、あちらこちらにくっきりと残っていた。
裸になる事や、尻を揉まれる事自体に、アタシは何ら羞恥心は感じないが。傷痕だらけの醜い身体を見られる……という別の意味での恥ずかしさは持ち合わせていた。
「あ、あまり、見ないでくれよッ……」
「ふぅん……だいぶ、拗らせてるわね」
そんなアタシの心情などお構い無しに。腹や胸などをぺたぺたと触れていきながら、何故か納得したかのように頷く精霊の少女は。
懐から、何やら緑色に透き通った小瓶を取り出すと。中身の液体を手に垂らしていき、再びアタシの尻に触れてきたのだ。
──謎の液体に濡れた手のままで。
「それじゃ、始めるわよ」
「い、いや待てって、何を始めるのか説明くらい──ひゃわああ!」
肌に触れる感じでは、温めに溶かした獣脂にも似た滑りがありながらも。花蜜や樹蜜に似た粘り気もある、不思議な液体。
精霊の少女の小さな手が、アタシの尻全体に液体を塗っていきながら。尻を揉み解す動きを再開するのだった。
その指の動きがあまりに巧みなためか、アタシの口からは思わず声が漏れそうになる。
「う、おッ? ひッッ、ん、む……ッ……ッッッ」
精霊の少女には何らやましい気持ちがないのは理解している。だからこそ、いくら尻を揉まれる感触が我慢出来ないくらい気持ち良かったとしても。
だからアタシは、指を噛みながら声を殺して、尻に感じるくすぐったさに耐えてみせていた。
しかし、大樹の精霊はアタシが声を出すのを我慢していたことなどお構い無しに。尻を揉み、撫で回していた指を、脚へと移動させてくる。
「ほら、もう少し脚を開きなさいよ。脚に塗れないじゃない」
「そ、そんなコト、い、言ったッて、ねぇッ?」
肉の厚い尻と違い、精霊の少女の細い指と不思議な液体の滑りと粘り気を、脚はより一層過敏に感じ取ってしまう。
「だ、だから、何なんだよ、こ、こ、コレはあッ?」
「ああ、そうね。そろそろ説明してあげなきゃ……ただ気持ち良くなっちゃうだけだものね、ねぇ?」
そう言いながらも、右脚に、左脚にも不思議な液体を塗りたくる指は止めずに。
指の感触に悶えていたアタシを、何とも意地悪そうな笑みを浮かべながら見上げる大樹の精霊は。
「と、その前に。ちょっと手が届かないから、少しばかり屈んでくれるとありがたいのだけど」
「あ、ああ……悪かった、ねぇッ」
脚に液体を塗り終えると、アタシに膝を折って屈むように指で合図をしてくる。
尻や脚で、この心地良さなのだ。さらに敏感な背中や胸などを揉まれるのには、若干の躊躇いがあったのだ……が。
「あ、あれ? 脚が、熱い……ッ?」
不思議な液体を塗られ、精霊の少女の指で揉まれた尻や両脚が、じんじんと内側から熱を帯びてくるのがわかる。
この感触は、右眼の魔術文字を発動させ、眼の魔力を流した時にとても良く似ていた。
「あのねえ、私も別にアズリアを気持ち良くしたいから、コレを塗ってるわけじゃないのよ」
再び、小瓶の中身……不思議な液体を自分の手に垂らしていく大樹の精霊が。謎の液体が何なのかを説明してくれる。
「ああ。コレは、精霊界に生えてる精霊樹の樹液に。大樹の精霊である私の魔力をほんの僅か含ませた特製の薬液よ」
「身体が熱くなったッてのは、その薬液の効果なのかい?」
「全然違うわ」
「……え?」
最初、精霊の少女からの説明を聞いたアタシは。この世界を司る十二の精霊の一体である、大樹の精霊の魔力に身体が反応したものだとばかり思ったのだが。
そんなアタシの言葉を、即座に否定してきた大樹の精霊。
「じゃ、じゃあ、今の施術は一体何だったんだよッ?」
「アズリア、魔術文字を誰からも教わらずに使えてた努力は認めてあげるわ。でも、ね──」
アタシを揶揄うような口調に、ほんの少しだけ苛立ってしまい。薬液の効果を問い詰めようと精霊の少女に伸ばした手だったが。
「私はね──屈め、って言ったのよ」
「う、うお……ッッ⁉︎」
苛立ちを覚えていたのは大樹の精霊も、だったらしく。伸ばしたアタシの手首を掴むと。
手を引っ張り、強引にアタシの膝を折り、少女の手が肩や顔に届く位置にまで身体を屈ませてしまった。
「うむ、よろしい」
アタシが膝を折って、手が届くようになったのがそんなに嬉しかったのか。少し不機嫌そうな顔が、満面の笑みに変わり。
今度はアタシの後ろに回り込んで、精霊樹の樹液で濡らした手で、背中にそっと触れてくる。
「……ん、ッ」
敏感な背中を精霊の少女の手が撫でてくるも、尻や脚で少しばかり慣れたのか。指を噛まずとも、声を押し殺せる程度には、肌から感じる妙なくすぐったさを我慢出来るようにはなっていた。
「うん、うん」
「な……何だよ、その笑顔ッ?」
「……いえ、別に。何でもないわよ」
そんなアタシの顔を上目遣いで覗きながら、やたらと上機嫌な様子の精霊の少女は。手に樹液を追加して。
さらに背中に満遍なく、樹液を塗り込む。
「やっぱり……我流で無理な魔力の使い方をずっとしてたから、魔力が上手く流れなくなってたのよ」
「な? ど……どういうコトだ、そりゃ」
「どういう事って……今、言った通りよ。強引に魔術文字の魔力を流し続けたせいで、アズリアの体内じゃ魔力が停滞してるのよ」
驚くアタシ。
大樹の精霊の話が、もし本当なら。アタシが右眼の魔術文字を使えば使う程、体内の魔力の循環が悪くなる……という事だからだ。
魔力の循環が停止すれば、いずれは。通常の魔法どころか、右眼の魔術文字すらアタシは発動出来なくなってしまうだろう。
説明を続ける大樹の精霊の手が、背中全体に樹液を塗り終えた途端。
「で。今、私がやってるのは、そんなアズリアの身体と一緒に魔力に干渉して、正常な魔力循環に戻してあげてる……ってわけ。理解した?」
「あ……あ、ああ」
「じゃあ、胸にも樹液を塗ってあげるから、こっちにその無駄に大きな胸を晒しなさい」
その精霊の言葉に、アタシは僅かに躊躇いを見せる。
恥じらい、などという感情こそなかったものの。胸や腹という敏感な箇所に、樹液を塗られ、少女の手で揉まれ、撫でられるという事に抵抗を感じたからだが。
「あ……ああッ……女は度胸だ、やってくれッ!」
覚悟を決めたアタシは、大樹の精霊の前に堂々と両の胸を、隠すことなく晒してみせた。




