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20話 アズリア、謁見の間へ案内される

「アズリア殿っ!それで……王妃様は……」


 部屋の外ではサイラスとルーナが神妙な表情をしながら、アタシが口を開くのを今か今かと待ち侘びていたのだ。

 無理もないだろう、そもそも王妃様の治療を頼み込んできたのはこの二人なのだから。


「ああ、何とか王妃様の毒は消せたよ。おっと……今、部屋に入るのはやめておいたほうがイイよ。王様が一月ぶん、王妃様に甘えてる最中だからさっ」


 解毒が成功した、と聞いて慌てて部屋へと駆け込もうとする二人を何とかアタシは制止する。

 何しろ、まだ部屋の中では王様が嬉し涙を流している頃なのだろうから。


 すると今度は、互いに顔を見合わせて喜びで顔を(ほころ)ばせると、二人はそのまま抱き合って泣き始めたのだった。

 

「うわあああああああん!ありがとうアズリアさぁん!よかったよおおおあ!」

「よ……よかった、本当に王妃様が元に戻って……本当に……本当に……ありがとうアズリア殿……ありがとう……ううう」


 感情を爆発させる二人だったが。

 実はアタシは正反対に冷めた視線で、抱き合い泣いている二人を眺めていたのだった。その理由は、さすがに部屋の中で王様の号泣と感動の対面を見てしまっていたからに他ならない。

 

「うん……あの、さ。そんな喜んでるトコ申し訳ないんだけど、王妃様の治療が終わったアタシ達……行くとこないんだよねぇ」

「「────あ」」


 アタシのそんな台詞に、抱き合っていた状態で我に返ったサイラスとルーナの二人は突然顔を真っ赤にして、互いを押し退けるように身体を離していくが。

 その後も二人は目を合わせようともせず。


「あ……あーあー……そ、そう言えば若い連中に頼み事があるのだった!そ、それでは、あ、アズリア殿、この場は失礼させてもらうっ!」


 アタシだけに別れの挨拶を交わして、城内の廊下を足早に立ち去っていくサイラスだった。

 明らかに動揺したまま。

 その二人のあからさまに不自然な態度に、いくらアタシでも勘付いてしまうには十分な証拠が出揃っていた以上は追及せずにはいられないのが人の(サガ)というモノだろう。


「そ、そそれじゃ……元々国王様から、治療が終わったあ、アズリアさん達を謁見の間へ案内するよう仰せつかってるから……あ、案内するね」


 一方ルーナも、動揺を全然隠せずに廊下の奥へとアタシ達を案内していこうとするのだが。

 そんな挙動不審なルーナにアタシは、単刀直入に尋ねてみるのだった。


「ねぇ……ルーナ?サイラスには、もう告白したのかい?それともまだ……」

「ちょ⁉︎ちょっとちょっと!え?……何で?……あ、アズリアさん……な、何を根拠にそんなこと?」

 

 いや、証拠と言われても……ねぇ。

 (さかのぼ)ると、スカイア山脈で二人に遭遇した際からだ。サイラスがアタシやリュゼを「殿」付けで呼んでいたのに対し、ルーナだけは確かに名前呼びだった。

 最初は騎士と使用人(メイド)という身分からかと思ったが、後日、ラクレールに訪れた時にはエルの事も「殿」付けで呼んでいたし。

 山越えの時に、二人して寒さで震えていた事から普段から二人組で行動していた訳でもない。

 それに、飛蛇(サーペント)飛竜(ワイバーン)との戦闘の時も、互いを気に掛けるように行動していた節もある。

 

「いや……別にアタシはさ、アンタ達二人が好き合っていたとしても問題ないんだけどねぇ。寧ろ、本当に好き同士なら応援するよ、ねぇエル?」


 サイラスとの仲を追及されて押し黙ってしまったルーナに少し悪い事をした気持ちになり、この重苦しい空気を変えるために隣を歩いていたエルに話を振ってみるのだが。

 何故か……隣から返答が返ってこなかった。


 不思議に思い、横にいるだろうエルに視線をやると、あろう事か彼女はガチガチに緊張しているのか右手と右脚を同時に前に出して歩いていたのだ。


「エル、何をそんなに緊張してんだよ?」

「……は?……ほ、本気で言ってるのアズリア?……だ、だって……国王よ、国王……そ、それもホンモノの国王。それが、いきなり現れて、泣いて、お、驚かないほうがどうかしてるわよ……っ」


 そう言えば。

 王様に王妃の部屋へと案内されてから、エルの声を一切聞いていない気がしていた。

 それはアタシが治療に集中するために黙っていてくれたのかと思ってたが……実は王様に緊張して喋れなかっただけだったとは。

 

「でもさ、エルはイスマリア教会の司祭様だったんだろ?なら王様みたいな偉い立場の人間にも何度か会ったことがあるんじゃないのか?」


 アタシのその問いに、首を横に振るエル。


「イオニウス王は格が違うのよ。噂で聞いただけでも、先代王に結婚を猛烈に反対されて旧王都の地下に封印されてた災厄の魔神とやらを撃ち倒して無理やり結婚を勝ち取った、とか」

「それに……現在の国王になってから善政により国民の暮らしはかなり豊かになったこともあるし、普通ならばエルさんみたいな反応が当然なのよ」


 むぅ……と、言われてもねぇ。

 王族との謁見が緊張する、という話なら砂漠の国(アル・ラブーン)で既に太陽王(インティ)に謁見した時点である程度の耐性が付いてしまってるし。

 

 そんな話をしていると、アタシ達の目の前には大きな鉄製の扉が立ち塞がっていた。

 どうやらここが目的地である謁見の間なのだろう。


「はい、無駄話はここまで。ここから先が国王様との謁見の間になるから、エルさんは大丈夫そうだけど……アズリアさん、国王様の前だからねっ。いくら救国の英雄でも、王妃様の生命の恩人であっても!」

「はいはい、わかったよルーナ。大丈夫だって、アタシだって馬鹿じゃないんだからさっ」

「本当に大丈夫かなぁ……何か、心配だなぁ」


 多分、アタシは顔に出ていたのかもしれない。

 国王にお願いする「報酬」に関して。


 どうやらルーナは部屋には入らず、扉の外側で待機しているらしい。

 アタシは緊張したままのエルと一緒に、妖血花(アルラウネ)を片手で抱きかかえたまま、空いている片手で扉を開けて謁見の間へと入っていくのだった。

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