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15話 アズリア、左脚の具合を確かめる

 唐突に出現した吸血鬼(ヴァンパイア)らは全部で五体だったが、エルの神聖魔法(セイクリッドワード)で祝福された武器を振るうサイラスとルーナによって、次々に討伐されていった。


「さて、と。残るのはお前だけみたいだけど……逃げ出したりはしてくれないみたいだねぇ」


 最後の一体となったのは、アタシが初手の一撃で腕一本吹き飛ばした吸血鬼(ヴァンパイア)だけだったが。

 同属らが祝福された武器で黒焦げにされるのを目の当たりにしているにもかかわらず、撤退する素振りは一切見せなかった。


「ねえエルさん、何故アズリアの武器に祝福を授けなかったの?」

「そんなの決まってるじゃない……見てて?」


 祝福されていない武器で吸血鬼(ヴァンパイア)に対峙しているアタシを心配するルーナが、エルにその理由を尋ねていると。 

 エルはその問いに答えず、指を差していくと。


「ぎ、ぎ……ギシャアあああああっっ‼︎」


 腕を無くした吸血鬼(ヴァンパイア)が大きく吼えると、真正面から捨て身とも思える突撃を仕掛けていくが。

 両腕が健在の時に奇襲を仕掛けてなお優位を勝ち取れなかった吸血鬼(ヴァンパイア)が、数段劣った状態から有効な攻撃を加えられる道理はなく。


「二人は上手くやったみたいだねぇ。ならアタシも……コレで終わりにさせてもらうよッッ!」


 再び大剣を構え、剣を握る指に力を込める。

 そして右眼に魔力を注ぎ込むと、眼に刻まれた「筋力増強(ウニョー)」の魔術文字(ルーン)が赤く輝き出し、巡る魔力が全身の筋肉に浸透し張り詰めていく。

 この効果(チカラ)によりアタシは常人を遥かに超えた膂力や跳躍力、瞬発力を発揮出来る。


「うおおおおおお────オオオッッッ!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の鳴き声を上回る声量の、殺意と気合いを込め、アタシは夜に吼える。

 咆吼に込めた「気」を乗せた、大剣の無慈悲な一撃が、今度は攻撃する手段の腕ではなく、吸血鬼(ヴァンパイア)の頭部目掛けて振り下ろされる。

 

 そして──この勝負はあっけなく決着した。

 振り下ろされた大剣が吸血鬼(ヴァンパイア)の頭部を撃ち砕いて。

 地面に倒れた吸血鬼(ヴァンパイア)は二、三度身体をビクンビクンと痙攣(けいれん)させるが、やがて動かなくなり身体が燃え上がっていく。


 吸血鬼(ヴァンパイア)がもう周辺にいないのを確認すると、エルが少し心配そうな顔をして駆け寄ってくるなり、左脚に簡単な治癒魔法を使ってくる。


「アズリアっ!……脚の具合はどう?痛まなかった?

「ふぅ……うん、左脚の調子も悪くないよ。魔術文字(ルーン)を使ってみたけど、痛みも違和感もない……これなら脚の完治もそろそろかもねぇ」


 アタシが片手をヒラヒラと仰いで見せ、エルの懸念を取っ払っている、そんな時だった。

 ルーナの、サイラスの名前を繰り返し呼ぶ切羽詰まった様子の声が聞こえてきたのは。


「さ、サイラス?……サイラスっっ⁉︎」

「どうしたんだい、ルーナ?」

「さ、サイラスがっ……あの連中から傷を……っ」


 戦っている様子を覗いていたが、エルに祝福された武器で終始吸血鬼(ヴァンパイア)を圧倒していた二人に見えたのだが。

 どうもあの戦闘の最中に、サイラスが連中の爪撃で軽い傷を負ったらしい。


 アタシとエルが、その場に膝を折って座り込むサイラスとそれを支えるルーナに駆け寄っていくと。

 確かに傷自体は、腕を少し切られた程度の浅いモノだったが……傷の周囲が紫色に腫れていた。


 ────これは、毒だ。

 だが、アタシはこの毒で腫れた傷口に既視感(デジャブ)を覚えていた。


退()いてルーナ、アタシが何とかしてみせるからさ」

「え?……あ、アズリアさん。でも、この毒は……」


 何か言いた気なルーナを、エルがその小さな身体で割って入り首を横に何度も振って、続く言葉を制していく。

 そんなエルの期待に応えるべく、毒の効果なのか徐々に息を荒らげていくサイラスの腕の傷へ、アタシは大剣の刃に指の腹を当て、滲み出した血で「生命と豊穣(イング)」の魔術文字(ルーン)を描いていく。

 

「我、大地の恵みと生命の息吹を──ing(イング)


 すると。

 紫色に腫れあがった傷口は、徐々にではあるが血色を取り戻していき、サイラスの荒い息も少しずつ正常の呼吸に戻りつつあった。


「……はぁ……お、おお……身体が……動く……」


 これはラクレールに出没した帝国の吸血鬼(ヴァンパイア)のみで編成された奇襲部隊、ナイトゴーントの使う特殊な毒だ。

 以前、この毒に侵され幾日も意識が戻らなかった衛兵のヘーニル……マリアナの旦那をこの魔術文字(ルーン)で解毒した事があったのでアタシは覚えていたのだ。

 

「まさか……アズリア殿が、あの連中の毒を治療出来るなんて……」

「え、ええサイラスさんっ、これなら……もしかしたら王妃様も!」


 解毒され、すっかり身体が動くようになったサイラスとルーナは、二人で何かを話し合っているみたいだったが。

 どうやら意を決した表情で、二人はアタシの手を握ってくると目の前で頭を下げてきたのだ。

 唐突に頭を下げられ、驚いているアタシへ二人はもっと驚くべき発言をしてきたのだった。


「アズリア殿!王都に到着したら、その解毒魔法を持って……王妃様の治療をしていただけないだろうか?」

「お願いします……王妃様は先の戦いで、帝国の隠密部隊の毒によって今もなお……目を醒さずに苦しんでおられます……どうか……どうか……」


 

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