6話 アズリア、父親扱いされる
「ちょ……ちょい待ったエルッ?ぐ……ぐえ……ほ、本気で首絞まってる……ぅぅぅ」
「あれは何なのよ!どう見たってアズリアの関係者でしょ⁉︎それにパパって……アズリアは女なんじゃないの?なのに父親って?」
「……し、知らないって……全然身に覚えがないんだってばっ!」
まさに鬼気迫る表情でアタシの首をキリキリと絞めながら、身体を揺らして目の前にいる女の子との関係を聞き出そうとしてくるエル。
アタシはまず首の拘束を解いてもらうために、彼女の腕をペチペチと力無く叩いていくと。
それを合図に、どうやら正気に戻ったエルは。
「……あ。ご、ごめんねアズリアっ!だっ……大丈夫……?」
「げほっ、ごほ……はぁ……はぁ……あ、あと少し、アンタが力抜くのが遅かったら、アタシ……天に召されてたよ……」
慌ててアタシの首を絞めていた手を緩め、ようやくまともに息が出来るようになったアタシへと何度も頭を下げて謝ってくる。
いや、それにしても目の前のこの娘だ。
この娘は一体、何者なのだろうか?
見れば見る程、姿こそ子供だが。間違いなく元になっているのはアタシに違いない。
「……ぱぁぱ。ぱぁぱー」
「あっ、危ないっ。ほーらっ、こっちよ。こっち……それっ、捕まえたあっ」
未だにこの娘の正体が掴めないままだが。
その当の本人はというと、とてとてと覚束無い足取りでアタシとエルに寄ってくると、手を広げたエルに何の抵抗もなく抱き締められていた。
「でもこの娘、ホント……見れば見るほど子供になったアズリアそのものよ。そりゃ目付きは全然違うけど、それ以外はそっくりだもの……可愛いっ」
「うー……うーっ、ぱぁぱー、ぱぁぱー」
いや、あの娘はエルをどうにか振り解こうとしているみたいだが、エルがそれを許さずに抱き締めてその娘の頬に顔を擦り寄せていて。
アタシにどうにかして欲しがっている様子だ。
アタシだけの主観ならただの思い違いという線もあったが、他人であるエルの視点からでもアタシにそっくりだと見えるのだ。何故かはともかく、最早疑いようも無いだろう。
目の大きさ以外にも違う点を挙げるとしたら。
頭の天辺から赤い髪に隠れてチラホラと見える緑色の葉のようなものと、髪の色と同じ真紅の花が咲いていることぐらいだ。
「……んん?……頭から生えてるのって、お花?」
「……そうだねぇ……頭から花、咲いてるねぇ……」
と、アタシは今こんな時にだが。
先程一人で薬草採取していた時に見た景色を思い出して、その事をこの場でエルに報告しておこうと口にするのだった。
「花と云えばさエル、そういやさっき……向こうの茂みで妖人草が自生しているの見つけたんだけどさぁ……」
「へえ、妖人草があったんだ……え、えっとアズリア────そ……それ、本当なの⁉︎」
「────ふええっ?ぱぁぱああああ!」
アタシから「妖人草」という言葉を聞いた途端に顔色を変えて驚きの声をあげるエルと。
突然の大声に身体を震わせて泣き始める女の子が、ようやくエルの抱擁を振り解いてアタシの足元へと駆け寄ってくる。
アタシはその娘をひょいと抱き上げると、膝を突いたままだった体勢からようやくその娘を抱いたまま立ち上がる。
「まったく、どうしたんだよエル?」
「ねえアズリア……妖血花って魔物のことを知ってる?」
「……名前だけは。でも、それが一体?」
するとエルは、アタシに抱かれていたその娘の頭に咲いた赤い花を指差すのだった。
「知ってる?妖血花を誕生させる方法ってのは、妖人草に人間の血を吸わせる事だ……って教会の文献で読んだのを覚えているわ」
「……じゃ、じゃあ……もしかして、この娘は?」
エルは言葉によってではなく、無言で縦に頭を頷く行為によってアタシの疑問を肯定した。
つまり……この娘が、妖人草がアタシの血を吸って誕生した妖血花という魔物なのだと。
「ぱぁぱー……ぱぁぱー……?」
アタシに抱かれた幼い少女の姿をした妖血花という魔物は、キラキラとした澄んだ瞳でこちらを見つめ、両手をアタシの顔に伸ばしていた。
その純粋な視線に当てられ、アタシは思わず顔を伏せて目を瞑り、横に首を振る。
この娘が本当にエルが言うような魔物だったとして。アタシは、自分を慕うこの娘に刃を突き立てるような真似は────多分、選べない。




