解説 ホルハイム戦役とは何だったのか
最終的には、ドライゼル帝国と小国ホルハイムのみならず。
スカイアン山嶺を越えた砂漠の国やシルバニア王国。東は東部七国連合の一角・イスマリア聖教国に。海を隔てた海の王国までも参戦した大戦争となった「ホルハイム戦役」について。
本編は既に戦争が開戦し、ホルハイムの大半の都市は占領もしくは陥落し。ホルハイムの王都アウルムが帝国軍に包囲されている最終局面から始まっているのですが。
そもそも、帝国が侵攻した理由とは。
王都が包囲されるまでの展開とは、を解説したいと思います。
⬛︎ドライゼル帝国の当時の状況
ラグシア大陸最北端に広がり、人一人住まわぬ極寒の永久氷土・セス大氷原を除けば。
大陸で最も北に位置する大陸最大の軍事国家・ドライゼル帝国は、その軍事力を以って領土拡大に動く。
既にドライゼル帝国は、東部に隣接している東部七国連合と。南部に隣接しているホルハイム王国を除けば。
帝国の周囲に点在していた中小国家に侵攻、その支配下に置いていた。
早期に降伏勧告を受け入れた国は、後の統治をしやすくするために国王を敢えて生かしておき。侯爵位を与え、自治領としての権限を与えながら、皇帝の勅命を受けた代理人を同時に配置し。
かつ、反旗を翻しても良きように。皇帝が君臨する中央領を取り囲むように「帝国の三薔薇」三公爵が統治する領土が間を阻む。
だが、あくまで降伏勧告を受け入れなかった国に対して、帝国は一切の容赦をしなかった。
圧倒的な差の兵数を揃え。かつ数だけでなく鉄より強靭なクロイツ鋼を用いた、帝国重装騎士に代表される強力な武力を駆使し。
さらには「帝国の三薔薇」からも独立した軍隊を派遣させ。多彩な戦術をも用いて、降伏勧告を拒否した以降は一切の慈悲はなく。王都を陥落させた後は、王族と有力貴族を残らず処刑していった。
これは、無駄な戦争を行わずに済ませるという「見せしめ」の意図があった。
唯一、最後まで降伏勧告を拒否したウィルタート王国が、王都陥落後に国王とその一族。そして有力貴族の全員を処刑された……という情報は大陸全土に瞬く間に拡散され。
以降、帝国の宣戦布告を受け、勝ち目のない中小国家は一戦も交える事なく、次々と帝国の軍門に下っていった。
──そして。
⬛︎帝国、宣戦布告なしの電撃侵攻
さて、残すは東の東部七国連合、南のホルハイムの二国となり。
港に面していたウィルタート王国を陥落させた事で、海路を用いて大陸西側の諸国への攻撃も可能となった。
そんな南部はホルハイムとの国境に配置された両軍の、軽微な衝突こそ日常的に発生していたものの。
軍事力のさらなる増強を望むには「黄金の国」と呼ばれる、南の隣国の地下に眠る金鉱脈をはじめとする豊富な地下資源がどうしても必要不可欠であった。
だが、そのホルハイムを統治しているのは。伝説の十二の魔剣の一振り「雷の魔剣エッケザックス」を所持する「英雄王」もしくは「雷鳴王」の二つ名を持つ国王イオニウスだった。
帝国内部でも、ホルハイムに侵攻し英雄王と真っ向から勝負するか。
それとも密かに分裂工作を行い、団結力の薄れた東部七国連合に進軍をするかは大きな議論になった。
そして、下した決断とは。
新ラグシア歴一○三年、竜の季四の日、早朝。
突如として帝国軍は三万の兵士を率いて、帝国─ホルハイム間国境を大きく越え、進軍。
国境砦を含むホルハイム北部戦線は奇襲を受け、完膚なきまで連敗を重ね。僅か十日で、王都アウルムにまで帝国の進軍を許してしまう。
⬛︎紅薔薇軍の活躍
だが、王都アウルムの守備は堅く。大樹の季を迎えようとしていたが、一向に防衛軍の指揮は高いままだった。
この時、帝国本隊とは別途に。「紅の三将軍」と呼ばれるロゼリア・ロズワルト・ロザーリオ三名が率いる紅薔薇軍の王都包囲網から離れると。
老獪なるロズワルト軍は東部へと侵攻し。
次々に都市を陥落させつつ、東部七国連合との国境付近に陣を張る。帝国を敵愾視する東部七国連合、特にイスマリア聖王国の牽制に。
ロザーリオ軍は港街メレアグロスを制圧するため、ホルハイム西部へと進軍。黄金の国と交遊の深いコルチェスター海軍の参戦に備え、メレアグロスの街に火を放ったのだ。
そして焔将軍ロゼリアの率いる一軍は、王都アウルムに次ぐ規模の黄金の国第二の王都・エクレールを含む南部地域へと進軍し。
ホルハイム側に参戦していた、雷剣傭兵団を始めとした反帝国勢力も必死に交戦するも、反抗勢力を完膚なきまでに壊滅させ。
他の二方面よりも一早く、南部地域を完全に制圧する。
⬛︎砂漠の国への挟撃要請
だが、孤立無援の王都アウルムは。それでも陥落せずに一つ季以上も持ち堪えた。
本来ならば包囲戦により食糧の補給路を断たれるところを、王族と交流のあった有翼族らの空路により食糧補給が継続出来たり。
防衛軍の指揮には王妃ティエリアが率先していたり、という要因があったが。
一番に王都の防衛軍と王都民の精神を支えていたのは、やはり伝説の十二の魔剣・雷の魔剣エッケザックスの所有者の国王イオニウスがいまだ戦場で存命だった事だ。
帝国側も、王都陥落がここまで苦戦するとは予想外だったようで。
同年、水の季一の日。
帝国本隊は、王都アウルムに立て篭もり籠城戦を何とか維持していたホルハイム王国へと、降伏勧告を行う。
と同時に、この段階になりようやく。
ドライゼル皇帝は、白薔薇公ベルローゼに対し。
ホルハイム南部、スカイア山嶺の向こう側に広がるメルーナ砂漠を治めるアル・ラブーン連邦へと。山を越えてホルハイムを挟撃するための使者に任命する。
しかしその頃、砂漠の国は。
元四天将、蠍魔族のコピオスに統率され、ニンブルグ海を渡り襲来した万単位の魔族らによって港街ザラーナは壊滅的被害を受け。
そして央都アマルナに次ぐ規模を誇る第二の央都オリアスタも、大量の魔族の猛攻に耐え切れずにたった半日で陥落してしまう事態に陥っており。
砂漠の国を統べる、まだ若き国王ソルダは苦悩していた。
帝国の挟撃要請に、首を縦に振ったとして。
まず優先すべきは、自国領を我が物顔で蹂躙をする魔族の撃退であったが。
央都アマルナより東に位置する都市や集落から兵力を集結させようにも。魔族の侵攻の速度はあまりにも迅速が過ぎて、情報の伝達が間に合わない状況だった。
央都アマルナに駐留する近衛兵や兵士だけで、向かってくる魔族を迎え撃つには全くと言ってよい程、数が不足しており。
もし、魔族との戦闘に勝利したとしても。
とてもスカイア山嶺を越えて、ホルハイムに軍隊を派遣する体力は残されてはいなかった。
さりとて、帝国の挟撃要請を断れば。
ホルハイムが帝国の手に落ちたその次の目標が、自分たち砂漠の国になるのは明白であった。
万を超える魔族を押し返すだけでも容易ではないのに、魔族との戦いで疲弊したところに帝国が侵攻してくれば。最早、抵抗する余力は残されてはいないだろう。
(この話が第二章後半の展開に繋がります)
参考資料:テルモピュライの戦い




