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91話 アズリア傭兵団、それぞれの道を行く

 トールのその言葉にアタシは大した驚きはなかった。傭兵なのだから、戦争が終結しすっかり疲弊したホルハイムでは大した稼ぎは期待出来ないだろう。

 それにトールらと出会ったのもそうだが、元々エッケザックス傭兵団は東部七国連合(イースト・セブン)が拠点なのだ。


「そっか……まあ、アンタらと一緒で色々と助かったよ。またどっかで会えたら、その時は酒の一瓶でも奢らせてもらうよ」

「はははっ、出来たら今度は仕事抜きで会いに来て欲しいもんだな、姉さん」

「アズリア。お前と久々に肩を並べて戦えて楽しかったよ」

「いい?次に会う時までにはアタシも炎の精霊(イフリート)と契約出来るくらいに魔術の腕を上げておいてやるんだからね?」

「……まずは身体をきちんと癒せよ、じゃあな」


 面会に来た四人とそれぞれ言葉を交わして、連中は手を振りながら部屋を去っていった。

 あまりにも呆気無い別れ方に、傍にいたエルは去っていった連中の背中とアタシの顔を交互に見ながら、困惑しているのが目に見てわかる態度を取っていた。


「……え、あんなやり取りでいいの?仮にも一緒に戦った仲間なんでしょ?もうちょっと言葉があってもいいと思うけど……」

「傭兵なんてのはね、どうせまた何処かでひょっこりと顔を遭わせるモンなんだ。だから、別れ際なんてコレくらいあっさりで丁度イイのさ」

「……そんなものなのね。教会にいた時にはちょっと想像出来ない世界ね」


 エルがまだ納得がいっていない憮然とした表情を浮かべながら、うんうんと唸っていると。

 トールらが出ていって閉まっていた扉に、今度は来客を告げる扉を叩く音が聞こえてきた。


「……アズリア。今、部屋に入っても平気か?」


 扉の向こう側からは、こちらへ呼びかける声。

 その声はイリアスのものだった。


「ああ、構わないよ。ちなみにエルもいるけど」

「それなら寧ろ好都合だ。それじゃ……お邪魔させてもらうよ」


 確認を取らずに部屋に入ってくるトールと違い、わざわざアタシに確認を取る辺り、イリアスの律儀さというか、生真面目さというか。

 だから、少しからかいたくなってしまい。


「しかし、イリアスもわざわざ扉開ける前に確認とるとか……やっぱり育ちが良いと礼儀正しくもなるのかねぇ。トール達なんていきなり扉開けて入ってきたってのに」

「……いや、女性が治療院で一人寝ている以上、あられもない格好の時に部屋に入ったらいけない、と思って……」

「うん?別にアタシは裸を見られても別に構わないよ?減るモノじゃあないしねぇ……何なら、少し見せてもイイんだよ?」

「────アズリアっっっ‼︎」


 アタシを女性扱いしてくれたイリアスに、胸くらいは見せてもいいと思いながら、お返しとばかりに着ていた服を捲り上げていくと。

 隣にいたエルに頭を叩かれてしまうのだった。

 まあ……イリアスが顔を真っ赤にして手で顔を覆い、見てないと無言の主張をしていたので、からかうのはこれで終わりにしてあげた。


「はいはい、冗談だよ冗談……だからそんな怖い顔してアタシを睨むなよエルぅ……」

「……コホンッ。あー……アズリア。実は俺、帝国に帰ろうと思うんだ」


 帝国が軍閥化するのをこれ以上させないために、帝国軍の切り札を持って逃げ出してきたイリアスだったが。

 確か、聞いた話では今回侵攻してきた帝国軍の総指揮官でイリアスの父親のバイロン侯爵と跡継ぎの長男は、王都での最終戦で討死にしたらしい。

 次男はアタシが手をかけてしまった以上、イリアスが帰還しなければバイロン侯爵家は取り潰しとなってしまうだろう。


「まあ、元々アンタは帝国を変えるためにアタシ達に力を貸してくれただけだからね。確かに帰るには今が絶好の機会だとアタシも思うしねぇ」

「……約束するよ。俺は侯爵の地位を継いで、帝国を内部から変えてみせる。今みたいな周囲に敵対する国でなく、もっと栄えた国に」

「ああ、期待してるよイリアス」


 ふと、アタシは彼から預かったままになっていた帝国軍の「切り札」だった、内部に妙な魔術文字(ルーン)が封じられた黒い結晶体(クリスタル)の事を思い出し。

 

「おっと。それじゃ……アンタから預かってたあの切り札を返しておかないとねぇ」

「いや。あの切り札はアズリア、君がずっと持っていてくれ。これからの帝国には必要ないモノだし、君が持っていてくれれば、これ以上安心出来る場所はないからね」


 確かに、あの結晶体(クリスタル)の内部にあった魔術文字(ルーン)は、アタシが一人旅で探している目的でもある。

 まさに渡りに船だった彼の申し出を、アタシはありがたく受けることにした。


「それじゃアズリア、そしてエル。帝国がもう少し外に対して敷居が低くなった時には是非バイロン侯爵家に遊びに来てくれ」

「ああ。もし帝国の内部で困ったことになったら……白薔薇(エーデワルト)公をアタシの名前を出して頼るといいよ」

白薔薇(エーデワルト)公?……何でまた」


 イリアスにその理由(わけ)は答えずに、無言のままニンマリと笑って返していく。

 流石に、砂漠の国(アル・ラブーン)での魔族を迎え撃った時に一緒に戦ったからだ、と言ってもお嬢(ベルローゼ)がどう思っているかは知る由も無い。

 だが、あの戦いに参戦してくれた以上は少しは信じてやってもいいのかな、と思い。つい名前を出してしまった。

 

 そして、イリアスも部屋を立ち去っていく。

 そんなイリアスの背中を見送っていたエルがポツリと呟いていた。


「……皆んな、行っちゃったね。何かさ、今まで一緒にいるのが当たり前だったから、少し寂しくなっちゃったね……」

「エルも、村に帰るんだろ?教会に置いていった子供たちも心配だろうし」

「そりゃ帰るわよ?でも……アズリアの脚を放っては置けないでしょ。治るまでは一緒にいてあげるわよ……何よ?」


 せっかく、エルがまだアタシの治療のために残ると言ってくれているのだ。下手な言葉でエルを不機嫌にさせるのは、ここでは無しにしておこう。


「なら、アタシの脚が治ったらエルを村まで護衛してあげなきゃね?」

「じゃあ、早く脚が治るためにも大人しく寝てなきゃ駄目なんだからね?」

「はいはい。大人しく寝ますよー……おやすみぃ」


 エルの言う通りにアタシはそのままベットに寝て、毛布を頭から被ってしまう。

 はぁ、と溜め息を一つ吐いてからエルが部屋を出ていく際に、聞こえるか聞こえないかの小声でポツリと呟いていく。


「……あの時の約束、守ってくれて……戦争を終わらせてくれてありがとね……アズリア」


 


これにて第三章は終了となります。

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