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90話 アズリア、療養する

 あの激戦から2日ほど経過した。


 今、アタシはラクレールの医療院のベットで寝かされ、何をすることなく天井を眺めていた。

 ふと、天井から視線を外して周囲を見渡すと、アタシの看病に疲れてベットに上半身を突っ伏して眠っていたエルがそこにはいた。


 あの後、結局自分で立つ事が出来なかったアタシはトールとオービットに肩で担がれて馬車に乗せられ、ラクレールの街へと帰還することとなった。

 脇腹の裂傷も、背中の矢傷も幸い致命傷にはならなかったが左脚の火傷は存外酷く、治療院の治癒術師では手に負える損傷ではなかったらしい。結局、エルの治癒魔法に頼りっぱなしになってしまったのが申し訳なかった。


 さらに追い討ちを掛けたのか魔力の枯渇だった。

 アタシがロゼリアを倒すために使った、「精霊憑依(ポゼッション)」と呼んでいた左眼は、アタシの全魔力を喰い荒らしていったのだ。

 砂漠の国(アル・ラブーン)の時は水の精霊(ウンディーネ)が治療してくれたお陰で事無きを得たが、今回はそうはいかなかった。

 魔力とはいわゆる生命力に似たところがある。ある程度の魔力が身体に巡らなければ、身体の機能にもところどころ支障が出てくる。


「げほっ!……げほっ、げほっ……かはっ……」

「……んん……はっ?あ、アズリアっ!急に身体起こしちゃ駄目って言ったでしょ?ほら、水よ……ゆっくり飲んで」


 寝ていたベットから身体を起こそうとした途端に咳き込んでしまうアタシ。その背中をさすりながらアタシの口に水を含ませてくる。

 今のアタシは身体を起こすだけでこの有り様であった。


「背中やお腹の傷は何とか塞がったけど、脚の火傷は……正直言って歩けるようになるにはもう少し時間がかかるわ」

「……あはは、それくらい酷い火傷だったんだねぇ」

「……あのねぇアズリア。もしあたしがいなかったら多分その脚は切り落とさなきゃいけなかったくらいだったんだからね」

「……そうか、またエルの世話になっちまったね」


 確かに左脚に力を込めても、まだピクリとも脚は動かなかった。

 アタシはたった今エルから左脚の状況を聞いたばかりだったので、ハッキリと落胆の顔を見せると。


「大丈夫よアズリア、脚の治療は上手くいってるわ。今脚が動かないのは、治療院で使ってる麻痺薬でワザと動かないようにしてあるのよ」

「麻痺薬だって?何でまた……」

「何でって?」


 それが火傷による後遺症などではなく、治療のために薬を使われていたからと聞かされて安堵のあまり気が抜けたアタシの額にエルが弾いた指が命中し。


「そうでもしないとアズリアのことだもの、脚が中途半端に治ったらベットから勝手に抜け出してまた無茶しちゃうでしょ!」

「おやおや。またエルに面倒かけてるのかアズリアの姉さん?」


 そんな折に治療院でアタシが寝かされている部屋の扉が叩かれる合図もなく遠慮なく開かれると、トールやフレア、エグハルトにオービットといったエッケザックス傭兵団の古株の面々が入ってきたのだった。

 最初にエルの指で額を打たれて呆気に取られたアタシに声を掛けてきたのはトールであった。


「め、面倒なんかかけてないよっ、何だい大勢でゾロゾロとやってきやがって……ふんっ」


 そんな指摘はアタシ自身が一番理解している。それを他人に指摘されることで気分を害して、掛け布を頭に被り反対側を向いてしまう。


「あーあ……まったく、コレが帝国からホルハイムとこの街を救った『ラクレールの勇者』サマと同一人物だとは思えないな?」

「ホントねぇ、この街のみんなが見たらきっとガッカリするかもしれないわね?『ラクレールの勇者』サ・マ?」

「……は?……はああ?何、その妙な呼び名は!……っげほっ、げほっ」


 いきなりエグハルトやフレアが今まで呼ばれた記憶にもない呼び名で、しかもそれが「ラクレールの勇者」などというかなり恥ずかしい呼び名だったので。

 思わず興奮してしまい頭をもたげて抗議をしようとするが、再び咳き込んでしまい心配するエルに背中をさすられてしまう。


「いや、だってアズリア。アンタさあ、一人で帝国軍相手に突撃していったのこの街のほぼ全員が知ってるんだよ?」

「……その晩に帝国軍が敗走し、街に侵攻してきた帝国軍も退却していった。そう呼ばれて然り……だと思うが、な」

「……それに、俺らの助けがあったとは言え。帝国側の三人の将軍を倒したのは間違いなく姉さん、アンタなんだ」

「────ちょっと待て」

 

 いや、確かに城門を開けてもらうために衛兵だったヘーニルに話を通した以上、単騎で出撃したのを街の人間に目撃されていたのは知ってる。

 でも、その後のアタシの戦功は知りようがないハズだ……戦いを傍で見ていた誰かが漏らさない限りは。


「……なあトール。もしかして、アンタら……その事を馬鹿正直に全部話したのかい……?」

「え?もちろん王宮からの使いに全部話したさ。だってなぁ……そうでないと俺ら傭兵団は報酬貰えないしな」


 よし、身体が完治したら一番にコイツ(トール)を殴ろう。

 今、アタシはそう心に誓った。

 そんな矢先にトールの口から言葉が出てきた。


「だからさ。姉さんとは、ここでお別れだ」

キリ良く90話で三章を終わらせようと思いましたが。

どうやらあと1話程度はかかりそうです。


余談ですが。

枢機卿レベルのエルの治癒魔法でこれだけアズリアの左脚の治療に時間がかかるのかを説明すると。

アズリアの左脚の火傷は、表面が炭化し筋肉層が壊死した進度Ⅲでも重度のレベルでした。

現代においても、このレベルの火傷の場合であったなら問答無用でアズリアの左脚は切除処理されたと思います。

しかも左脚の膝から下という面積は体表面の10%を超える面積であり、この火傷だけでも生命の危機に瀕していたのです。

生命力の回復と、肉体損傷の再生を同時に行うことの出来たエルの治癒魔法だからこそアズリアは助かったといっても過言ではないのです。


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