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87話 アズリア、霜が張る大剣を振るう

 先程まで死にかけて勝機を諦めたのと違い、希望に目を輝かせ余裕すら取り戻しているアタシの態度に。

 追い詰めている側のロゼリアの態度が、徐々に苛立ちを増してきているのが声に滲み出ていた。


「……いいだろう、その余裕が本物かどうか確かめてやる。どちらにせよ、貴様の結末は変わりはしないが────なあっっ!」


 ロゼリアの腕が振り下ろされると、それが合図となって空に舞う無数の炎がアタシ目掛けて一斉に飛んでくる。

 四方から高速で向かってくる百を超える炎の華から逃げる道など全く見当たらず、それこそ絶対絶命のように見えた。


 だが、今アタシが手にしている大剣でなら……この炎を斬れる、とそう確信している。

 だから一欠片の迷いもなく、魔法で出来た炎に向けて霜を纏う大剣を横薙ぎに振るっていくと。パキン……!と甲高い音を立てて、剣に触れた炎が凍結し、そして砕けた。


「え?あ……アズリア?あなた今、魔法を……」

「な、なんだ……と?き、貴様、魔法を剣で……斬った(・・・)、だと?そ、そんな事が出来るわけが……」


 氷の精霊(セルシウス)炎の精霊(イフリート)との戦いの最中に、凍結拳(フリーズフィスト)で同じようなコトをやってのけたのを見ていたから「出来る」と思っていたアタシとは違い。

 背中にいたエルと、自分が放った魔法の炎を消されたのを目の当たりにしたロゼリアは言葉を詰まらせていた。

 そんな二人を置いてきぼりにしながらアタシはさらに剣を振るう。


「ほらぁエル!……驚いてる暇なんてないよ!まだまだ斬らなきゃいけない炎はあるんだからねえ!────どんどんいくよ……そらッ!」

 

 一つ炎を凍結させ砕いたのを皮切りに、迫り来る炎の華を次々と霜の張った大剣で撃ち落としていく。


 本来ならば、飛び交う炎の速度に合わせて大剣を振るい、一つ一つ炎を撃ち落とすなど余程の剣の腕がなければ不可能だったろうが。

 今のアタシには氷の精霊(セルシウス)から貰ったこの左眼がある。


 凍結する刻(イス)魔術文字(ルーン)の効果で、今はアタシの周囲の空間の時間の流れを緩慢にしているのだろう……高速でアタシへと飛ぶ炎が今ならば、木から落ちてくる葉っぱ程度にゆっくりと見えるのだ。


 故に、数こそ多いが向かってくる炎を迎撃するのは、今のアタシには難しいコトではなかった。

 自分が向いている側の視界にある炎の弾幕を晴らしていくと、今度は足元に氷を張り、足の裏に魔力を巡らせて氷の上を滑り、違う向きへと移動していく。

 まさに氷の精霊(セルシウス)がしていたのと同じ移動法を、アタシは実践して見せていた。


「……あ、あれはただの炎ではない。熾天の劫火(セイクリッドフェザー)はあの一つ一つが上級魔法(エンシェント)と同等の威力の炎なのに……それをああも容易く……だ、だが!」


 確かに迎撃し損ねて躱した炎の華が地面に衝突した途端に爆発を起こし、その地面が抉れて表面の赤く焼けた石がフツフツと溶けかかっていた。

 これが上級魔法(エンシェント)

 少なく見積っても、フレアの最大魔法「灼熱の紅蓮華(イグニッション・ローゼス)」と同じか……それ以上の威力じゃないか。


「……確かに、あんなのを一撃でも喰らえば骨も残らないだろうねえ……」


 アタシが空に舞う炎に気を取られている間に、地面に走っていた亀裂から噴き出した無数の炎が竜の形を取ると。

 地を這いずりながら、アタシが地面に張った氷を溶かして襲い掛かってくる。


「地の魔力を秘めた赤竜の咆哮(ドラウ・ブレイズ)が顕現した以上は、先程のようにその剣で迎撃出来ると思うな!漆黒の鴉(デア・クレーエ)っ!」


 足元からアタシへと牙を剥く炎の竜へと、アタシは大剣を真横に薙いでいく。

 が、先程凍結させ砕いて回った炎の華と違い、剣を叩き付けた炎の竜を吹き飛ばすことは出来たが凍結させることは出来なかった。

 しかも、先程アタシがご丁寧に斬り払って綺麗にしていた空間には、既に新しい炎の華がロゼリアの魔力で補充され浮かんでいたのだ。

 

 空に浮かぶ無数の炎に、地を這う竜。

 そしてそれが術者の魔力で無限に補填される。

 ……確かにこの「黄昏の紅薔薇(ラグナ・グレンガルド)」という魔法は、広範囲に大量の魔法の炎を発生させ、威力で圧倒するというよりは物量で押し切るのが正しい使い道なのだろう。

 それもおそらくは、個人に使うような魔法ではなく、先の砂漠の王国(アル・ラブーン)に侵攻してきた魔族の軍勢のような対象に。

 だとすれば、もしロゼリアが王都制圧にこの魔法を使用していたら此処までホルハイム側が善戦することはなかったのかもしれない、と考えてしまった。


「こりゃ、炎を一つ一つちまちまと潰していても埒が開かないねえ……と、なれば」


 アタシは、無数の炎の軍勢に守られるように魔力を制御し続けているロゼリアに視線を向けた。

 ────狙いは、術者であるロゼリア。


 アタシは砂漠の国(アル・ラブーン)で、魔族と戦った際に見せた突撃からの高速の刺突を繰り出すために、ロゼリアに大剣の切っ先を向けて水平に構えて腰を落とす。

 あの時は筋力増強(ウニョー)で増した脚力のみだったが、今は氷の精霊(セルシウス)から学んだあの移動法がある。

 

 だから────絶対に届く。

 

この「霜が張る大剣」と、氷の精霊(セルシウス)直伝の氷を滑る移動法も。

何か厨二病をくすぐるいいルビがないか思案中です。

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