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85話 アズリア、示された二つの道

 アタシは、イリアスから預かっていた胸の合間に挟んでいた漆黒の結晶体(クリスタル)がドクン、ドクンと脈動していることに気付いた。

 確か……コイツは、帝国が切り札にとわざわざ運んできた超巨大な鉄巨人(アイアンゴーレム)の起動のための魔導具だと聞いていたけど。

 まさか……本当にこの結晶体(クリスタル)から声が?


「……そうだ人間、オマエの勇猛ぶりは懐の中から眺めさせてもらっていたぞ」

「はっ、驚いたねぇ……喋る結晶体(クリスタル)なんてのは。死ぬ間際になると妙なモノを見聞きするようになるんだねぇ……」

「運命を悲観するのは結構だが、先程の我の言葉を聞いていなかったのか人間?……我はオマエに『力をやろう』と言ったのだぞ」


 最初、頭に誰かの声が響いてきたのは死を目前にした幻聴か何かだとばかり思っていたが。

 この結晶体(クリスタル)が今更ながら、身体の動かないアタシに何かエルを助けることが出来る手段を差し伸べてくれるというのか。

 ……それなら幻聴に耳を傾けてもいいかもしれない。


「……アンタは何者なんだい?本当に力を貸してくれるにしても、正体の知れないモノには頼む気にはなれないねぇ……?」

 

 すると、胸にあった結晶体(クリスタル)の表面に赤く輝く魔術文字(ルーン)が浮かび上がるのだが、その魔術文字(ルーン)はアタシが知っているどの文字にも似ていない。

 にもかかわらず、その文字を魔術文字(ルーン)だと認識出来るという不思議な感覚。


「我はπερίων(ヒュペリオン)。故あって魔術文字(ルーン)として魔導具(クリスタル)に封じられている存在である」

「はっ……つまりは魔術文字(ルーン)としてアンタと契約をしろ、そういうコトかい?」

「その通りだ。魔術文字(ルーン)を行使する能力を今の世で持っているオマエだからこそ、我の魔力(チカラ)を継承出来るのだ」


 まさか、イリアスが帝国から持ち出した魔導具に魔術文字(ルーン)が刻まれていたとは。

 この結晶体(クリスタル)は彼を助けて手渡されてからずっと懐に持っていたのだが、今の今まで全然気付かずにいた。


「……それじゃ────」

「だが我の魔力(チカラ)は並の人間ならまず間違いなく闇に飲まれるだろう。良くて人外(バケモノ)に成り果て、悪ければ死ぬ……だから良く考えるがよい。我と契約するか、否かを」


 それを聞いて、死ぬコトよりも「人外(バケモノ)になる」という可能性が頭をよぎり、一瞬だが言葉が止まる。

 だが、このまま何もしなければアタシだけでなく盾になってくれてるエルまで黒焦げになる。

 アタシが声の主であるπερίων(ヒュペリオン)と契約すると口にしようとした────その時。

 

 アタシの背中に感じるひんやりとした感触と一緒に、背後から伸びてきた二本の腕が首に回されていく。

 その時、アタシはロゼリアの他にもう一人……戦場で自由に動けた人物に後ろから抱擁されているコトに気付いた。


「────まあ待てアズリア。そう結論を急くな……確かに此奴の魔力(チカラ)は強力だ、契約をすれば戦況を一変させるのは私も認めるところだ」


 その人物とは……一度はアタシを窮地から救ってくれた氷の精霊(セルシウス)


「だがな、アズリア……お前がπερίων(ヒュペリオン)と契約する他にも、まだこの場をどうにか出来る手段が……ないわけではないぞ?」

「それはどういう────」

「何、簡単なコトだ。このままアズリアとそこの小娘を私の精霊界に連れ去ってしまう……というのはどうだ?」


 それを聞いたアタシは思わず、氷の精霊(セルシウス)の顔を睨んでしまった。

 多分、彼女なら出来るコトなのだろう。スカイア山脈での氷の精霊(セルシウス)とのやり取りで既に実践済みだったから。

 そしてその方法が一番簡単にアタシとエルを助ける手段なのだと、頭では理解しているのだが。


 そして、アタシは首を横に振りながら。


「ソイツは出来ない相談だよ。それをやったら……アタシがここまで帝国に牙を剥いてきた意地が折れちまう……そんな気がするんだ、悪い……セルシウス」

「……ふっ、お前はそういうと思っていたぞアズリア」

「……え?」

「でなければ、精霊界で拳を交えたあの時に。わざわざこちらに合わせて武器を使わず、などという馬鹿な選択をしないだろうからな。そして……私はそんな誇り高いお前を気に入ったからココにいる」


 アタシが氷の精霊(セルシウス)の最善の策を跳ね除けたのをみて、彼女には鼻で笑われてしまい。

 首に絡みついていた彼女の両腕に力が入り、より強く背後から抱き締められる。

 

「そんなアズリアに本当の提案だ。お前は────私の魔力(チカラ)を受け入れてみるつもりはあるか?」

「アタシは……一体何をすればイイんだい?」


 横を向いたアタシの視線は、真っ直ぐに目の前にある氷の精霊(セルシウス)の瞳を見つめていた。


「簡単だ。そのままジッとしていればいい……動くなよ?」

「な、何を────ンンッ⁉︎」


 氷の精霊(セルシウス)の顔が目前にまで迫ってきたかと思うと、唇に重ねられていたのはひんやりとした彼女の唇だった。

 唇と唇が触れ合い、アタシの口から流れ込んでくる溢れんばかりの氷の魔力。と同時に、左眼がまるで凍結したかのような冷たさに包まれていた。


 そしてアタシの左眼の冷感が強くなるにつれ、何故か目の前の氷の精霊(セルシウス)の姿が徐々に朧げになっていく。

 何が起きているのかを氷の精霊(セルシウス)に聞きたくて、重ねられた唇を離して口を開こうとするのを、こちらの唇に指を添えられて制される。

 消えかけているその身体で。


「アズリア……お前のその左眼には私の魔力(チカラ)を宿らせておいた。今まで氷を張る程度しか使いこなせなかったis(イス)魔術文字(ルーン)……今ならばソレ(・・)を完璧に使えるだろう」

 

 氷の精霊(セルシウス)が消えるその瞬間。

 彼女はアタシの頭を撫でてこう言ってきた。


「私からの置き土産だ……上手く使ってくれよ」

(この後書きは本編とは何ら関係がないので、シリアスな雰囲気に削ぐわないと思った人は無かったことにしていただければ)


 ────ここはシルバニア王国にある大樹。

 何故か大樹は強風が吹き付けているわけでもないのに、太い幹が揺れて生い茂る緑の葉がガサガサと騒ついていた。


 その理由というのが、幹より続く大樹の精霊(ドリアード)の縄張りである精霊界にあった。

 幹の内部に広がる人間の世界とは全く別の空間の主である緑髪の少女は怒りを露わにしていた。


「ガッデ────ム‼︎……あ、あ、あの氷の精霊(セルシウス)の馬鹿、あたしのアズリアのく、く、唇をぉぉぉぉぉ許すまじ許すまじぃぃいい!」


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