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79話 イスマリア聖騎士隊、東より来たる

前回は西側に視点を移しましたが。

今回は東側の視点です。

 港街メレアグロスにコルチェスター海軍の援軍である軍艦四隻が接岸したのと時を同じくして。

 ホルハイムと東部七国連合(イースト・セブン)の国境沿いに集結していた部隊がいた。


 その名はオルレリア聖十字騎士隊。

 東部七国連合(イースト・セブン)の一国であるイスマリア聖王国が有する教会騎士団(テンプル・ナイツ)の一つであり、つまり集結したこの聖十字騎士隊が国境を越える、という事は正式にホルハイムへの援軍要請を受諾し、帝国を敵に回す決断を下したという意味に他ならない。

 その宣言を求める教会騎士(テンプルナイト)と、明らかに場違いな眼鏡を掛けた栗色の波打つ長髪の女性。

 

「隊長、そろそろ出立の命を下さないと……」

「ええ、わかっています。ですが……私は怖いのです。私がそれ(・・)を命じれば、帝国と戦端を開く火種に火を点すことになる……果たしてそれでよいのかと」

 

 故に、隊長格であるその女性……オルレリア・マーグレットは隊員に「国境を越える」命令を下すかどうかを、未だ躊躇していたのだった。

 オルレリアは、イスマリア大教会よりその信仰心の深さと魔力を認められ、一年に一本のみ大聖堂の鐘を鋳溶かして鋳造されるイスマリア鋼で出来た聖剣シルヴェクレールの持ち主でもある。

 

 だが、普段は教会騎士(テンプルナイト)としてではなく女性唯一の枢機卿(ロード)として、教会で信者や平民に接しての祭事などを司っている、戦争事とは真逆の縁遠い生活を送っていたのだ。

 それが有事となった今、建て前上とはいえ聖剣を継承した聖職者としての立場から、一軍を率いる立場に本人の希望とは関係無しに祭り上げられてしまったのが彼女、オルレリア・マーグレットという人物なのだ。

 ……それは躊躇もしたくなるだろう。


「ですが、帝国は我々東部七国連合(イースト・セブン)にも何度も侵攻している相手です。ここで躊躇しても、どうせ向こうは元から我々を敵であると認識しているでしょう」

「……それは重々理解しています」

「それに、ホルハイムにはエル様がいる筈です」

「……まさか。私の前に聖剣を継承して枢機卿(ロード)の地位にまで登り詰めた聖女と称されながら、その全てを捨てて姿を消した……あの?」


 側近にと付けられた教会騎士(テンプルナイト)の一人から、失踪したと噂されていた前任の女性枢機卿(ロード)の名を聞いて。

 宗教国家としてあまり他国間の争い事に介入するのは消極的だった法皇様が、今回のホルハイムへの参戦を決断した理由に納得がいった。


 法皇様はエル様を未だ諦めていなかったのだ。

 そして……何よりも、私もエル様が御存命ならば是非とも会って教えを乞うてみたい。


 今まで悩んでいたのが嘘のように吹っ切れた表情を浮かべて、国境に集まり整然と並んでいる教会騎士(テンプルナイト)らに向き直り。

 オルレリアは、厳重に布で包んでいた聖剣シルヴェクレールを鞘に収まったまま真上に掲げて。

 

「よくぞ集まってくれました皆さん!我らがイスマリア様と、法皇様の命により今これより私たち聖十字騎士隊はホルハイムの国境を越え、正式に帝国に剣を向ける所存です!」

『────おお!────ついに帝国と!』


 私が帝国との抗戦を宣言すると、騎士らの歓声の大きさと士気の高さに少しばかり怯みそうになり、眼鏡がズレてしまったが、それを何とか元の位置に直して。

 

「帝国との戦いではここにいる同志も傷つき、道半ばで倒れてしまうかもしれません。それでも皆さん……私、オルレリア・マーグレットについてきてくれますか?」

『────我らにイスマリア様の祝福あれ!』


 そうして私たち聖十字騎士隊は全員が馬に跨ると、ホルハイムの国境を越え歩を進めていった。

 情報では王都を包囲していた帝国軍は、ホルハイム各地に分散して、ここ東部にも軍を進めていると聞いていたが。

 幸いにも国境付近にある砦は、帝国軍も兵を割いてはいなかったようで砦の内部はも抜けの空だった。


 だが、このまま進めていけばいずれ帝国軍と衝突する時は訪れるだろう。

 しかし我々は、ホルハイムを帝国の侵略から守るために敗けるわけにはいかないのだ。

 それに……何よりも先程聞いたエル様がこの国にいるという話が真実だとするならば、間違っても帝国軍の手にかかるという最悪の結末だけは回避しなければならない。


「待っていて下さい……エル様。私が、このオルレリア・マーグレットがあなたをお救いいたします……っ」

■イスマリア聖王国

 東部七国連合(イースト・セブン)と括られる東方の7ヶ国の連合(現在はラムサス公国が滅亡したため6ヶ国)に含まれる宗教国家である。

 ラグシア大陸で信仰されている大地母神イスマリアの大聖堂を有し、イスマリア法王が同時に国家元首を兼ねている。

 毎年、世界各地から礼拝に訪れる旅人が絶えない為に国境警備には国の最強戦力である聖十字騎士団が任務にあたっている。

 

 聖句と祝福によって聖別されたイスマリア鋼は銀によく似た光沢と頑強な硬度を持ち、各国で重宝されている。

 また、聖書など様々な書物を作成するために一般に使用されている羊皮紙ではなく紙の開発が進み、今ではラグシア大陸一の紙の生産国となっている。


 余談ではあるが、イスマリア鋼で作られた大聖堂の鐘楼を鋳溶かして鍛錬された22振りの聖剣シルヴェルクレールを聖十字騎士団は授与されているため、聖十字騎士団の団長の数は常に22人固定となっている。

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