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18話 アズリア、再び子供らを助ける

「試験お疲れ様でした」


 受付から手渡されたのは表面はこの王国の紋章、裏にはアタシの名前が彫られている銅製のプレートがついた首飾りだった。


「それではこちらがアズリアさんの四等冒険者(ナンバーフォー)の登録証になります。こちらは簡素ですが首飾りになってますので、常に首から下げておいてもらえると助かります」


 ん?……今、四等冒険者(ナンバーフォー)の証って言った?

 さっきカイト達が貰っていたのは五等冒険者(ナンバーファイブ)の鉄製の証だったし、てっきり登録し始めは全員一番下の等級からだとばかり思っていたんだけど。


「本来ならばアズリアさんは未登録なので一番下の五等(ファイブ)から、となるのが原則なのですが……その、黄金蜥蜴(ゴールドリザード)討伐の功績を当組合では無視するわけにもいかず、四等冒険者(ナンバーフォー)にするという結論になりまして」

「私をああも簡単にあしらったから何か訳アリだとは思ったけど、まさか噂になってた黄金蜥蜴(ゴールドリザード)討伐者本人サマだったとはね」

「さ……さすがお姉様ですわっ!……まさか飛び級で冒険者登録してしまうなんてっ」


 受付だけじゃなく試験官だったメリアまで出てきて、四等冒険者(ナンバーフォー)からのスタートになった理由を説明してくる。

 シェーラが言うように、冒険者組合(ギルド)が初登録で飛び級を提示してくることは稀らしい。実際、飛び級認定される有能な冒険者は飛び級認定などしなくてもすぐに等級を上げていってしまうからだ。


 まあ、アタシは等級上げにはあまり興味がない、というか……等級が上がると責任や義務が増えて面倒なのでこのままで構わないんだけどね。


「でも、あの黄金蜥蜴(ゴールドリザード)の素材は今や王都の貴族の皆様が取り合いをするほどに人気になっているんですよ?私も組合(ギルド)で受付して長いですけど、黄金蜥蜴(ゴールドリザード)なんて初めて見ましたよっ!」


「ふっ──ふ、ふざけんなよオイ!」


 とアタシらの会話を邪魔する怒声が入口辺りから聞こえてきた。その怒声に反論している声には聞き覚えがある、カイトの声だ。

 どうやらカイト達が冒険者証を持って組合(ギルド)から出ようとしたところを、怒声を放った男らに因縁をつけられている様子だ。


「何で俺達が不合格で、テメエらみてぇな糞ガキどもが合格なんだよ!……納得いかねぇぞコラ!」

「何かインチキしやがったんだろ!……痛い目に遭いたくないなら、とっととその証を俺らに寄越せ!」


 よく見ると、カイト達に因縁をつけているのは早々にメリアに一撃で倒された傭兵崩れの三人組だった。

 

「こ……これはインチキなんかじゃない……お、俺達が自分の力で……」

「そ、そうよそうよっ、せ、正々堂々と挑んで勝ったんだから、文句言わなくったって……ひっ!」


 この連中、見た目だけは傷痕やらいかつい顔やらで強そうに見えるからカイト達もすっかり外見だけで萎縮してしまったのだろう。

 どうやら年齢差と強気な態度だけで押し切ろうとしているみたいだが。カイト達が本気で戦ったら多分ボコボコにされるのは実力的にはお前らのほうだ、と心の中で思ってたが。

 さすがに黙って見ているのも、と思い。

 

「うるせえ!……と、とにかくだっ──」

「……はいはい。そこまでにしときな負け犬連中」


 そんな三人組の背後からアタシは、連中の肩を組むようにもたれ掛かりながら、連中の会話に割り込んでいく。


「なあ、アンタらよぉ……その理屈で言うなら、飛び級で四等冒険者(ナンバーフォー)になったアタシにゃ因縁吹っかけてこないのは、何故だい?」

「え?……いや……そ、それは……あの……」

「……それとも何かい? 子供相手なら何とかなると、勘違いしちまったのかい、ん?」


 思った通りだ。アタシが四等冒険者(ナンバーフォー)の証をこれ見よがしにチラつかせながら、カイトらに因縁をつけていた男どもに声を掛けた途端。

 連中は先程までの威勢はどこへ行ったのか、すっかり大人しくなってしまった。


「アタシもこの子供達と一緒に受かったってことはさ、それってつまり……アタシも違反行為(インチキ)をしてた、ッて。暗にその口で言ってくれてるんだ・よ・ねぇ……」

「い、いや……違っ……そ、それはっ……」


 連中の肩を掴む腕に力を少しばかり入れて、男らの首を締め上げていったアタシは。

 話し掛ける声を少しずつ低く落としていき、男どもの言い分を一つ一つ潰していく。


 当初はカイトらには威勢の良い態度だった傭兵崩れの連中も、騒ぎを起こして組合にいた大勢の人が見ている中でアタシに絞り上げられ。

 徐々に旗色が悪くなっていくのを感じたのか。

 男らはすっかり萎縮し、この場から逃げ出そうとしていたのかやたら出口を気にしていたが。アタシにがっしりと肩を掴まれている以上は逃げられない。


「ん? 聞こえないねぇ……どうなんだ、ッてアタシは聞いてるんだけどさあ?」


 結局、最後のほうには何を言ってるのか聞き取るのさえ難しくなるような小声になってしまった。

 最早(もはや)、茶番と化したやり取りの最中にチラリと同行者だったシェーラへ視線を向けると。

 なんと……その彼女が顔を真っ赤にしながら何か言いたそうにこちらに歩み寄ろうとしていたのだ。


「ま……マズいッ!」


 シェーラがこの場をややこしくする前にこの茶番を終わらせないと。

 こんな馬鹿げた茶番に巻き込んでシェーラに怪我でもされたら、アタシはランドルに何で謝れば良いのやら。


「違う?……ならアタシと再試験でもするかいッッ!」


 そろそろこの連中とのやり取りに決着をつけるため、わざと肩の力を緩めて逃げ道を作ってやりながら、連中をギロリ……と睨みつけて恫喝する。


「「「ひいいいいっ!ご、ごめんなさいぃぃ」」」


 泣き言を叫びながらこちらを振り返ることなく一目散に連中は組合(ギルド)から走り去っていった。


 試験の時の剣捌きを見てたが、あの連中はきっと実力不足で傭兵団を足切りされたのだろう。野盗に身を落とさなかっただけは褒めてやりたいが、あの腕じゃ野盗狩りにあって敢えなく捕まるか、最悪その場で始末される運命だったと思う。

 まあ、冒険者以外の道で幸せになってくれればそれに越した事はないけど、次にカイト達に絡んだ時には遠慮なく叩き潰してやる。


 すると、カイト達が御礼を言いに来たのだ。

 アタシとしては、カイト達の冒険者としての体面を潰していないか気になったところだが。


「試験だけじゃなくまた助けられちゃいましたね」

「いやいや、あのまま乱闘にでもなったらボコボコにされたのはアイツらだったろうからさ。寧ろ余計な口出ししてすまなかったね」

「いえ、ネリなんかはあの状態ですから……」


 ネリは男の恫喝に怯えきっていて、リアナの背後に隠れていた。よく見るとカイトもクレストも気丈を装っているものの膝が震えていた。


 魔物を相手にするのと、人間の敵意や悪意を相手にするのはまた違った種類の勇気が必要になる、とアタシは思う。まあ、こればかりは他人が口出ししてどうかなるモノでもない。

 乱闘寸前の騒ぎが収まってから、組合にいた古株の冒険者達は新人冒険者へと声をかけていた。口を挟めなかった事を謝る人。新人にお勧めの依頼を紹介する人。その様子を見ながら、色々な人間と出会っていってあの子達は良い経験を積んでもらいたい、と感慨に耽っていると。

 くい、と指を引っ張るのはシェーラだった。


「あの……お姉様、も、もしですよ?……もし、私がああして暴漢に襲われていたとしたら。さっきあの子達を助けたみたいに格好良く現れて助けて下さいますか?」

「ん〜どうだろうねぇ?……シェーラはあの子達と違って強いからなぁ」

「もうっ……真面目に答えて下さいっお姉様!」

「あははははははっ」


 突然の質問にアタシは咄嗟(とっさ)に嘘を()いたが。

 アタシはこの肌と魔術文字(ルーン)を継承したことが理由で、人に言えない程に辛い幼少期を過ごしてきた。

 だからこそ、どんな理由でも子供が虐げられる状況を見て見ぬふりは出来ないし、無視したくない。

 もちろんシェーラもアタシの手が届くなら絶対助けるし、絶対に相手には容赦はしない。


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