表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1854/1870

116話 北狄、ゼルビアを蹂躙する

 何故なら砦での戦闘よりも、街に迫り来る小鬼(ゴブリン)の数が(はる)かに増えていたからだ。

 

 その数、およそ一〇〇体。


 周囲の難民を引き受ける以前のゼルビアの住人とほぼ同数の小鬼(ゴブリン)が、血帽子(ブラットベレ)に率いられ。怒涛(どとう)の如く、街を守備する衛兵ら二〇名程に襲い掛かった。

 つまり実質、一対五。

 数的だけでも圧倒的な劣勢だったのだが。


『ヒャッヒャッヒャアアア──‼︎』


 耳障りな程の甲高(かんだか)い笑い声を上げた血帽子(ブラットベレ)が、突然走る速度を上げ。戸惑いながらも盾を構える衛兵二人の間をすり抜ける。

 同時に、両手にそれぞれ握った黒い短剣(ダガー)を素早く一閃。


 衛兵ら二人の首を正確に掻き切る。

 当然、致命傷だ。


 深々と斬り裂かれた首の傷から激しく噴き出す真っ赤な血を浴び、自分の短剣(ダガー)に付着した血を舌で舐め取る血帽子(ブラットベレ)の不気味な姿に。

 ただでさえ命令がなく困惑していた衛兵らは、どうにか心の底から必死に振り絞った戦意が。完全に恐怖で塗り潰されてしまう。


「う……嘘、だろっ……」

「だ、駄目だ、お、俺たちじゃ、勝て──」


 戦意を喪失した衛兵全員が、持ち場である戦場から逃走しようと考えは一致したが。

 迫る小鬼(ゴブリン)の大群が、敵前逃亡(それ)を許さない。粗末な刃物を構え、抵抗する気力を失った衛兵らを数体ずつで取り囲み。


「「あ……あ、あ、あ……あぁぁぁ」」


 如何(いか)稚拙(ちせつ)な攻撃と言えど、あらゆる方向から放たれる小鬼(ゴブリン)の武器に(あらが)(すべ)はなく。

 衛兵全員が断末魔を上げ、小鬼(ゴブリン)らの餌食(えじき)となってしまう。


 だが、蹂躙(じゅうりん)はまだ止まらない。


 血溜まりに沈んで動かなくなった衛兵らの身体を、(もてあそ)び続ける小鬼(ゴブリン)らを割って前進してきたのは。

 岩巨人(トロール)との混血であるが(ゆえ)に、通常の種族より巨躯(きょく)を誇り。ただ一体で砦の騎士ら数名を鉄兜(ヘルム)ごと叩き潰した恐るべき食人鬼(オーガ)だった。


 最早(もはや)、防衛する者もなく。迫る魔物らとゼルビアの街を隔てるのは、複数の木材で増強された柵だったが。

 その木製の柵は、食人鬼(オーガ)が振り下ろした拳でいとも簡単に破壊され。強引にこじ開けた入口から、魔物らの街への侵入を次々に許してしまう。


 見張りから魔物の接近については警告されていたものの。町長の判断の遅れから住人の避難や街外への撤去等の指示がなかったため、住人らは(いま)だ街に留まったままだった。 

 だからこそ。


「ま、街の中にまで魔物がっ⁉︎」

「し、死にたくねえ、逃げろおっ‼︎」


 しかも頻繁に目撃される小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)などの、戦闘経験がない大人でも数人で武器を持って囲めば対処の出来る、脅威が比較的に低い魔物だけでなく。

 柵を壊してしまう巨大な食人鬼(オーガ)に加え、見た事のない魔物まで混じっているとなれば。


 安全圏と思っていた街に侵入してきた複数の魔物の姿を目撃し、狼狽(うろた)え、恐慌状態になるのは当然とも言えた。


「うわあああああああああああああああ⁉︎」


 ある一人の──悪名付き(グリージョ)の襲撃により住んでいた村を滅ぼされ移住してきた住人が。恐怖に耐え切れず、絶叫を上げた瞬間。

 住人らの理性は完全に消し飛ぶ。

 一人の恐怖に打ち震える言動が、まるで疫病のように次々に周囲の人間に伝播(でんぱ)し。一瞬の内に街は混乱に(おちい)ってしまった。


 出来る限り、魔物から距離を取って逃げようとする者。

 衛兵に守ってもらおうと誰もいない衛兵の詰所(つめしょ)に向かう者。

 まずは自宅に戻り、出来る限りの家財を持ち出して逃げる準備を整えようとする者。

 あるいは街の外へ逃げる選択を取らず、自宅に戻り、魔物に発見されないよう身を潜める者など。


 理性を失い、全員が統制の取れない行動を選び始める。

 ──その末路は悲惨の一言に尽きた。


 街の外へ真っ先に逃走しようとした者らは、目敏(めざと)血帽子(ブラットベレ)に発見、捕捉され。衛兵同様に首や腹を裂かれ、血溜まりに沈み生命を絶たれた。

 幸運に恵まれ、街の外に逃げる事に成功出来たのは(わず)か数名のみだった。


 無人の衛兵の詰所(つめしょ)(つど)った者らは、衛兵の死骸(いじ)りに飽きて侵入してきた小鬼(ゴブリン)らに囲まれ。全員が新しい玩具(おもちゃ)にされてしまった。

 

 自宅に戻ったり隠れていた住人はというと。一軒ずつ食人鬼(オーガ)丁寧(ていねい)に回り、その怪力で建物を破壊し。さらに小鬼魔術師(ゴブリンメイジー)の炎や毒霧を生み出す魔法を建物内部に放たれる。崩れた瓦礫(がれき)や魔法で生命を落とす。

 崩壊や魔法からどうにか生き延びたとしても。執拗(しつよう)瓦礫(がれき)を漁る小鬼(ゴブリン)犬鬼(コボルト)豚鬼(オーク)の鼻を誤魔化(ごまか)すのは非常に困難だ。


 結局、最初の町長の躊躇(ちゅうちょ)が致命的な結果を生み。

 ゼルビアの街は(わず)かな間に、住人が不在となり、魔物が跋扈(ばっこ)する魔境と化してしまい。

 残すは町長の館、そこに集まっていた数人の街の代表らと衛兵隊長のみ。


 まだ街の各所では建物の破壊、そして街の生き残りを探し回る魔物らが数多く徘徊(はいかい)していたが。

 町長の館の周囲には、逃げ場がない程に魔物が集い。完全に包囲されてしまっている状況だった。


「ぐ……最早(もはや)、これまで……か。ならば、っ──」


 町長はこの一帯を治めるレームブルク伯爵家から、街の統治を委任された平民に過ぎない。もし街がここまで手酷(てひど)く魔物に制圧された事が知れれば、生き延びたとしても重い処罰は(まぬが)れない。

 どう足掻(あが)いても命運尽きたのならば。咎人(とがびと)として死ぬよりも、町長の責務を(まっと)うして死にたい。

 そう決意した町長は、家宝の長剣(ロングソード)を握っていた。

 

 すると突然、館を包囲する魔物らの大群が左右に割れ、一本の道が完成し。

 群れの奥から、館へと歩み寄ってくる一体の魔物の姿に、町長や衛兵隊長は見覚えがあった。


「あ、あれはっ……ま、まさか『村喰い』っ⁉︎」

「ば、ば馬鹿なっ! 『村喰い』は半年前に討伐されたハズではないか?」


 いや、正確には町長も隊長も悪名付き(グリージョ)を実際に目撃した事はない。全部、目撃談と報告書で知った知識のみだったが。

 それでも。

 目の前に現れたのは、灰色の肌に小鬼(ゴブリン)が巨大になった容貌(ようぼう)と、まさに報告にあった悪名付き(グリージョ)そのものの特徴だったからだ。

 ……だが、衛兵隊長の言う通り。今二人の話題に挙がった「村喰いのグリージョ」は半年も前にヘクサムの養成所所長と岩人族(ドワーフ)の戦士らによって討ち取られている。

 だからあの魔物が、悪名付き(グリージョ)である事は絶対にない。


 ならば、これだけの魔物の大群を率いて街を壊滅させた目の前の魔物の正体とは一体……と。

 町長も衛兵隊長も、単純な疑問が湧いた、どうせ知ったところでこの窮地を脱しなければ、誰にも伝えられない情報を。


 だが──その疑問を確かめる(すべ)は、ない。


 何故なら、小鬼(ゴブリン)ら下位魔族は人の言葉を話す事も、聞いて意味を理解する頭もないのだから。

 正体を聞いたところで、こちらの言葉を理解出来ない──だから。


「き、貴様らは何者だっ! 何が目的で街を襲った!」


 町長の横で衛兵隊長が勇ましく問い掛けるが。相手が人間の言葉を介さない魔物である以上、何の返答もないのが当然の結果だろう。

 そう、町長以外の誰もが思っていたのだが。


『目的ハ、あル』


 驚くべき事に。目の前の魔物が口を開き、確かにそう言葉を発したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ