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69話 エッケザックス傭兵団、決断する

今回は時間軸を少し前に戻して。

トール視点です。

 ラクレールの南側に位置する、俺たち傭兵団がここを潜って入ってきた城門を目の前にして。

 今、その傭兵団は全員でこの街から退却する準備をしている最中だ。

 ……ただ一人、アズリアを除いて。


「……はァ⁉︎姐さん一人置いて俺たちはエクレールに退却しろ……だと?」

「ああ、確かに馬鹿げた判断だ。だが、全員で撃って出ても全滅だ。街を盾にすれば甚大な被害は免れない……加えて君たち傭兵団は帝国でも有名だ、捕まれば無事では済まないだろう」

「つまりは、姐さんは俺たちを逃すために一人犠牲になって……」

「アズリアは、奥の手があると言っていたが」


 イリアスから、アズリアから伝言を受けたという作戦を聞いて思わず目の前のイリアスの肩を掴んで身体を揺らすほど憤慨し、興奮してしまった。

 何をそんなに憤慨したのか、自分でも理解していた。この瀬戸際に彼女は俺たちを「共に死ぬ仲間」ではなく「身を挺して守る存在」側に分類したことだった。

 アズリアの強さは理解してはいるが、それでも俺だって10年以上は傭兵として飯を食ってきた身だ。 それを此処まで来て、何故「一緒に死ね」と言ってくれなかったのか。

 それが……それだけが、ただ悔しかった。


 だから俺は、エクレール領主の使用人で今は御者として同行してくれていたノースへ、とある頼み事をお願いするために彼女を馬車が準備されている検問所へと呼び出していた。


「傭兵団の皆様を行きの三台で、ではなく二台で乗せていって欲しい……ですか?」

「ああ、今の傭兵団の人数なら二台でも何とか乗せていける筈だ。ノースさん、よろしく頼む」

「……はぁ、困りましたね」

「ん?何か二台に減らすと不都合でも?」


 すると、ノースが頬に手を当ててさも困ったような素振りを見せて溜め息をワザとらしく吐いて見せる。

 その仕草があまりにも作られたのが見え見えだったので、多少苛つきを表に出しながら。


「いえ、ね……トール様で六人目なのですよ。自分はここに残るから先に行ってくれ、という方は」


 すると、準備中の馬車の影からこちらに顔を出す大小まばらな四つの人影。

 一番背の高いのがエグハルト。そしてオービットに、この提案を俺に持ってきたイリアスまでいるのも驚いたが。

 一番背が低いのが……エルだったのだ。


「お……お前たち?」

「……何で、と聞くのは愚問だと思うがな、トール」

「長い付き合いだからな、団長がどういう行動に出るかくらいは理解してるつもりなんだがな」

「本当ならアズリアに同行する、と言いたかったけど。それを言ったら本気で打つ手無しだと頭を抱えそうだったからね」


 いや、イリアスも元は兵士だ。そして俺たちは戦場に出るのが役割で仕事の傭兵だ。

 だけど、傭兵団の人間でもなく、ただの修道女(シスター)のエルを同行させるわけにはいかない、と言おうと彼女へと向き直る前に。


「お願い……あたし、治癒魔法が使えるわ。それに……ここまで一緒に来たのに、最後だけ仲間外れなんて許さないんだから……」

「今回は俺たちも守ってやる余力はないぞ?」


 エルは無言で首を縦に振る。


 ……やれやれ、だ。

 五人程度で増援に向かったところで、数的な不利は変わらない。全員戦場で死ぬかもしれないってのに。

 だが、ここまで覚悟を決められたらたとえそれが子供で修道女(シスター)でも、無碍(むげ)に仲間外れには出来ない。

 そんな折に、またこの場に何者かがやってくる。


「……ちょっといい?悪いんだけど、ちょっと野暮用が出来ちゃったから……トール達と一緒に先に街を出発しておいてくれないかしら?」

「「「遅いぞ、フレア」」」

「……え?えええっっ⁉︎な、なな、何でアンタら全員勢揃いしてるのよっ!え……もしかして、アタシ……最後?」


 あれ?

 先程、ノースは街から逃げない申し出をしてきた人間を「六人」と言っていた筈だ。なのに、フレアは今遅れてやってきた。俺にエグハルト、オービットにイリアス、そしてエル……何度数えても一人足りない。

 なら……あと一人って、一体誰なんだ?


「なあ、ノースさんよ?さっき、逃げる馬車に乗らない人間を六人だって言ってたよな?」

「はい。確かにそう言いましたが」

「いち、にい、さん……と何度数えてみても、六人にゃならねえんだが。フレアは入れてないんだよな?」

「その通りです。フレア様からはまだ申し出を受けてなかったですから……それにトール様、誰かを数え忘れていませんか?」


 ノースの問いに思い当たる節が全くなく、古株でない新参の傭兵連中を思い浮かべてはみるものの、さすがにこんな敗色濃厚な戦いに好んで参加しそうな馬鹿は思い当たらなかった。

 その悩みに悩み抜く俺の様子を薄らと笑みを浮かべて眺めているノースに。


「……降参だ。最後の一人は誰か、教えてくれないかノース?」

「答えは……私でございますよ、トール様」

「は?」


 俺はさすがにその答えを全く想像していなかったので、ノースを指差しながら目を大きく見開いて驚いてしまっていた。

 いや……でも、だ。

 確か、一度だけノースの戦いぶりを見た事があった。アレはラクレールを陥落させる時、ちょうどこの場所だった。

 敵兵に放たれた鋭い蹴りと、倒れた兵士の首へ躊躇せず刃物を突き刺すオービットも舌を巻いたあの仕草は、ただの使用人とは到底思えなかった。

 

「え……えっと、ノースさん(・・)?ノースさん(・・)は、使用人になる前に一体何をしていたんでしょうか?」


 何故か声が上擦り、ノースを「さん」付けで呼んでしまうだけでなく、今までの乱暴な口調からまるでアズリアに接するような丁寧な口調に変わっていた。

 そんな態度に和やかな笑みを浮かべたまま。


「トール様。女性(レディ)へ過去を詮索するのは無粋と言うモノですよ?」

「は……はいぃぃぃっ!」


 思わず背筋が凍るような殺気を感じた。

 これはアレだ……昔、アズリアに男と交際するしないの話をフレアが振った際に酒場が凍りついたあの空気と同じだ。

 つまり……二度と聞いては(アンタッ)いけない案件(チャブル)だ。

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