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58話 アズリア傭兵団、どちらが囮か?

今回はフレアとエグハルト視点となります。

 その頃、アズリアは別の城壁の上では。


 同じく外から侵入を試みてきた吸血鬼(ヴァンパイア)の迎撃をフレアとエグハルトの二人は実行していた。

 ただし、こちらに出現した吸血鬼(ヴァンパイア)の数は5ではなく10……もはや軽い小隊規模の人数だった。


「おいおい、まさかアズリアじゃなく俺たちが当たりを引いちまうとはな……」

「あーもう!温度の視覚化(サーモ・センス)が全然効果ないじゃない……これだから亡者(アンデッド)相手は嫌なのよっ!」


 亡者(アンデッド)でもある吸血鬼(ヴァンパイア)にはフレアが敵を認識するために使う「温度の視覚化(サーモ・センス)」が効かない。身体が既に死んでいる連中には体温がないからだ。

 今回に限らず、死体が放置される戦場では度々亡者(アンデッド)が発生することがあるが、彼女はいつもこの事を愚痴りだす。


 なのでエグハルトも横で愚痴るフレアをあまり気にせずに、教会から借り受けた銀の小槍で投擲の構えを取り、まだ堀を飛び越える前の一体に無言で槍を投射すると。

 闇夜を切り裂いて飛んでいく銀の槍は見事に接近してくる人影を貫通し、銀の効果なのか……その人影が燃え上がる蒼い炎に包まれるとみるみる内に灰となり崩れていく。


「────引寄せ(アポート)


 エグハルトが唯一使える魔法を発動させると、先程投擲し見事に敵を絶命させた銀の小槍がその場から消えて、彼の手元へと戻ってきたのだ。

 普通なら投げて壊れる使い捨ての投擲槍(ジャベリン)を使う事が多いが、彼は常に一本だけ「引寄せ(アポート)」の魔法で投げた槍を魔力が尽きるまで何度でも手元へと戻すことが出来るのだ。


 だからこのエッケザックス傭兵団には専門に弓を扱う人間がいなかったりするのだ。


「……いやエグハルト、久々に横でアンタの魔法との合わせ技見るけど……敵に同情するわぁ……」


 かく言うフレアも、横でエグハルトと会話しながら護符(アミュレット)を装着する掌に「火炎球(ファイアボール)」を生み出して、吸血鬼(ヴァンパイア)を目標として掌の火球を放つ。

 中級魔法(エキスパート)でも簡単な魔法なら、フレアの技量ならば詠唱を行わずに魔法を発動させることが出来るのだ。


 「火炎球(ファイアボール)」は槍と違い、魔法が発動した時点で目標に定めた対象へと向けて飛んでいくようになっていた。

 故に対象となった吸血鬼(ヴァンパイア)は避けることも出来ずに火球が直撃し、先にエグハルトの槍で貫かれた者と違い真っ赤な炎に包まれ、その場で倒れ二度と起き上がることはなかった。

 

 さすがに二人が目の前で()られたのを見たのか、残りの人影が左右横に広がって分散していく。

 まだ8体も残っているのだが、そんな状況でも二人は余裕ある表情を崩すことなく。

 

「……ねえエグハルト。残りの吸血鬼(ヴァンパイア)をどっちが多く倒すかで賭けない?」

「いいだろう。いつも通り、勝ったら金貨3枚でどうだ?」

「賭け成立ね。後で集団魔法使うの汚いとかアズリアが言いそうな事はナシだからね」


 エグハルトが槍を肩に構えたまま右に動くと、フレアはその動きを見て左に動きながら今度は詠唱を始める。


「確かに魔法は強力だが……残り4体程度なら俺のほうが確実で早い……ッッ!」


 一投目と同じように城壁に貼りつこうとする敵へ銀槍を真上から投射していき、真上から飛んできた槍は頭から吸血鬼(ヴァンパイア)を串刺しにしていく。

 蒼い炎に包まれる同類を気にも留めずに城壁を乗り越えようとする連中だが、エグハルトは既に「引寄せ(アポート)」で三投目の準備を終えていた。


 だが三投目を投射したのと同時に、左に移動していたフレアの魔法詠唱が終わっていた。

 

「────燃え盛れ、破裂する火焔(スプリットフレア)


 すると、先程と同じく掌に火球が生まれるが、今度は下から城壁へと飛び乗ってくる4体の誰にも飛んでいかなかった。

 いや、連中の真上に飛んでいったかと思った次の瞬間に火球が膨張して5つに分裂すると、それぞれの火球が真上から吸血鬼(ヴァンパイア)に降り注いでいった。


 真っ赤に燃え上がる5体(・・)吸血鬼(ヴァンパイア)


「おい、さすがに半分以上巻き込むのは反則だろう!」

「ほらぁ、やっぱり『魔法は汚い』とか言うんだぁ?だから最初に言っておいたじゃない」

「……いや、俺は魔法よりお前の性格のことを言ってるわけで、決して魔法が反則だと言ってるわけじゃ……」

「いいから、まだあと1体残ってるでしょ?賭けには負けてもちゃんと倒してね、エグハルト?」


 悪びれる様子もなく腰に手を当てて胸を張るフレアに、諦めた様子で頭をポリポリと掻くエグハルト。

 そして四投目を放ち、その場で1体残されてもまだ退却などをせずに腰から短剣(ダガー)を抜いた吸血鬼(ヴァンパイア)にとどめを刺す。


「……今、魔法を使って周囲を見てるけど吸血鬼(ヴァンパイア)に紛れて侵入してくる帝国兵はいないみたいね……」

「こちらも増援でやってくる吸血鬼(ヴァンパイア)は見えない……アズリアのほうがどの程度の人数だか不明だが、今夜はもう襲撃はないだろう」

「ほら、それより賭けに負けたんだから金貨3枚。男ならちゃっちゃと払いなよ?」


 魔法で5体を巻き込んだ所業にまだ納得がいっていないエグハルトだったが、「男なら」と言われてしまうとこれ以上揉めるのは得策ではないと思い、仕方なしに腰の金貨袋から3枚の金貨を取り出してフレアに手渡すのだった。

破裂する火焔(スプリットフレア)

最初は一つの火球として放たれるが、予め術者が捉えていた複数の対象へと火球が一つずつ分裂し誘導されて飛んでいく火の上級魔法(エンシェント)

分裂した火球の威力は一つずつか「火炎球(ファイアボール)」と同程度の威力となる。


ちなみに、詠唱と手振りや儀式は魔法を発動させるための魔力を補助するために必要な動作であり。

詠唱や手振りを省略するためには、補助がいらない程度の術者の魔力容量が必須である。

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