57話 アズリア傭兵団、城壁で迎え撃つ
「それじゃ皆んな、日が高いと中々寝れないかもしれないけどキチンと寝とくんだよ」
「だけどよ姉さん……それだと、昼間の警護が甘くなるんじゃねえのか?その点はどうする気だ?」
次の日。
結局昨日の夜はあれから全員で街中の警備を続けたが、アタシが倒した以外の吸血鬼が現れることはなかった。
相手が吸血鬼だと知ったからには、その対処のために傭兵団の連中は交代で昼間のうちに睡眠を取ってもらっておく。
勿論、トールの懸念はもっともである。
作戦ではここラクレールで帝国軍の本隊を幾分か切り崩して迎え撃つ予定だ。警備を減らして攻め込んでくる帝国軍に気付かなかった、などとなったら本末転倒である。
「大丈夫だよ。昼間の警護は街に元々いる衛兵たちに協力してもらう手筈はとっくに整えてあるから」
「……い、いやさすが姉さん……手が早い……」
意識が戻らず昨日まで寝たままになっていたヘーニルを解毒した際の借りは、衛兵である彼の口添えで昼間の街の警備を請け負ってもらうことで返してもらったのだ。
幸いにも昼間のうちに帝国軍が街に攻めてくる予兆が報告されることはなかった。
夜になって、アタシ達傭兵団は動き出す。
ある程度、吸血鬼に対処出来そうな腕を持ち、かつ屋内より野外での戦闘を得意とするエグハルトと火魔術を使うフレア、そしてアタシが城壁に待機して。
団長のトールは傭兵団と一緒に領主邸に、オービットとイリアスは検問所で治療を続けているエル達の護衛に着いてもらっていた。
つまりアタシ達は、街に潜入してくる吸血鬼連中の最後の砦みたいなモノだ。
アタシ達は城壁の上に登りながら、背後についてくるフレアとエグハルトをチラッと覗き見する。
「さーて……このアタシに毒をブチ込んでくれたってのがそのナイトゴーント隊とかいう吸血鬼なんだろアズリア?……なら御礼はたっぷりとしてやらないとねぇ……」
「まさか教会から小型とはいえ、銀製の槍を貸して貰えるとは思わなかった。これで吸血鬼と戦えるな……ふふふ」
フレアは指をワキワキと動かしながら雪辱戦に燃え、エグハルトは教会から貸し出して貰った銀の槍を嬉しそうに眺めていた。
文献で読んだ知識では、吸血鬼は銀製の武器に弱く、弱い再生能力があるものの火や炎で傷付けると再生しないらしい。
という事は、今この二人は対吸血鬼という意味ならば、アタシよりも厄介な相手だと思う。
「それじゃあ……フレアは絶対にエグハルトから離れるんじゃないよ。いくら魔法が強力だからって、アンタは魔術師なんだ。接近戦に持ち込まれたら勝ち目はないんだからね」
「うっさい。アズリアこそ吸血鬼に噛まれて吸血鬼になるんじゃないよ!」
アタシに釘を刺されたフレアは舌を出してからエグハルトの身体に隠れていく。
……まったく、これでも心配してるってのにねぇ。彼女がアタシに対して毒突くのは相変わらずと言えば相も変わらずなのだけど。
そんなことを思いながら二人と別れ、城壁の上を角灯を持って歩いていると。闇に紛れてはいるもののこれ見よがしに隠れる気も無く、街を囲む堀を軽々と飛び越えてくる五つの影を見つけてしまう。
「堀を飛び越えてくる時点で相手が普通の人間じゃないのは確定だねぇ……でも、あそこまであからさまだとコチラは囮です、と言っているようなモンだけどね」
アタシは角灯を石畳に置き、背中に背負っている大剣を構え臨戦態勢を整える。
「まあ、囮とはいえ魔物相手に手加減する必要はないからねぇ……5体も街に入られて悪さをされるのは嫌だし、ココでキッチリと足止めさせて貰おうか────ねッッ‼︎」
城壁の真下からアタシのいる場所にまで跳び上がってくる二つの影に向けて横薙ぎに一閃、大剣を奔らせる。
すると石畳に着地した二つの人影の胸が真一文字に裂けて真っ赤な血を噴き出し、崩れ落ちた身体は城壁から街の外側へと落下してしていく。
「……まずは2匹、だねぇ」
遅れて城壁の下から跳び上がってきた残り3体の人影が角灯の明かりに照らされて、ようやく連中が昨晩見たのと同じような青白い肌に赤い目をした吸血鬼だと判別出来た。
すると、遠くの城壁の上で赤い爆炎が巻き起こる。
多分、フレアの火魔法だろうが……あの炎の大きさだとアチラが本命だったみたいだね。




