79話 カイザス、魔術師としての支援
何しろ、ランディは養成所では相当に目立つ存在だった。
行われる訓練において。身体能力に戦闘技術、そして魔法と、全部の分野で相当に優秀な成績を残していたからだ。
ランディとの実力の違いは、これまでの数々の訓練で身に沁みる程に見せつけられていただけに。
昨晩イオら三人が暴言を浴びせたのは、新入りの女のみ。徹底的にランディが会話に割って入り仲裁してくるのを避けていたのだ。
「もし、昨日の夜……所長が出てこなかったら。あるいは上手くいってたかもしれない、ってのに……」
取り巻きの一人・タワーズは昨晩の出来事を思い出し、ボソリ……と呟いた。
一見、彼らの思惑は成功し、ランディが会話に参加しないまま。サバランとイーディスの二人が突然に激昂し、ナーシェン一行に噛み付いてきたのだ。
四対二ならば楽勝だ、とタワーズは未だ考えていただけに。まるで、所長に仲裁された事が口惜しいといった呟きの内容だったが。
いくら同室とはいえ、さすがに同意は出来なかったようで。
イオとバーガンの二人は即座にタワーズの勘違いを訂正しようとする。
「お、おい、何言ってんだ。所長が割って入って助かったんだぞ、俺たちは」
「は? 噛み付いてきたのは所詮ランディの取り巻きの二人ってだけだろ?」
「はぁ……お前、あの二人を知らないのか」
そう、ランディだけの話ではない。
同室であるサバランとイーディスの二人も、それぞれが違った意味で注目を集めていた。
優秀なランディにすっかり隠れてしまっていたが。イーディスもまた数々の訓練でランディにこそ及ばないものの、常に訓練生の中で上位の成績を出していたし。
サバランはと言うと。魔法の訓練では陰険な副所長にこそ目をつけられてはいたが。盾を使った防御技術の高さは、槍の腕が自慢のナーシェンの攻撃ですら易々と捌き切り。模擬戦でランディに次ぐ戦績を残している。
本来ならば、四人で一組とされる養成所の中で。ランディらは三人でありながら、他の組と対等以上の実力を示してきたからこそ。長らくランディらの部屋には四人目が補充されなかった程だ。
「だが……いくらランディ一行が優れてても、訓練生は訓練生だ。魔術師である副所長に敵うわけない」
だからこそ、イオら三人は。ナーシェンの前に姿を見せた副所長に期待を込めた熱い視線を揃って向けた。
養成所に来る前にも、簡単な魔法なら教わってきたし。養成所で攻撃魔法の一つや二つならば学んだものの。攻撃魔法以外にも多数の魔法を行使出来るだろう魔術師は、さすがに訓練生の中には存在しない。
そんな魔術師である副所長が味方となってくれるだけで、どれだけ遠征を優位に進められるか……という期待を。
しかし、直後副所長の口から飛び出したのは。
「悪いがナーシェン。君らに同行する事は出来ない」
「……は?」
イオら三人の期待と、ナーシェンの思惑を裏切る発言だった。
提案を受け入れたからこそ、自分の前に姿を見せたと思っていたナーシェンは間の抜けた表情へと変わり。
イオら三人もまた、互いに顔を見合わせながら。副所長の発言に納得がいかなかったのか、その真意はと確認し合う。
「お、おい、どういう事だよ? ナーシェン様の話と違うぞっ……」
しかし、副所長の返答に一番納得が出来なかったのはナーシェンだったようで。一度は収まった癇癪が再燃し、握っていた槍を構え始めると。
怒りの感情を露わにし、槍先を副所長へと向けてもう一度聞き返す。
「私の提案を断るとは、貴様っ……どういう了見だ! 私がラウム男爵家の次期当主と知って、だろうな!」
「まあ、落ち着けナーシェン」
興奮して大声を出し、槍先を向けて返答を迫るナーシェンの態度に対して。
焦ったり怯えを見せる素振りは一切ない副所長は、突き付けられた槍先を手でゆっくりと払い除け。
「俺にも色々と事情があってな。所長に動向を睨まてる現状では、表立ってお前たちと共闘は不可能だ」
「……事情とは、何だ」
「それはさすがに話せないな。いくらラウム男爵家の次期当主だ、と言われても」
副所長が言う「事情」を、一度拒否されたナーシェンはそれ以上の追及を避け、感情を鎮めて槍を下ろしたが。
陰険な副所長が些細な事で懲罰と称して、攻撃魔法を放つ暴挙と悪癖は。訓練生の間では有名だった。
まるで正反対、豪快な性格の所長と副所長との関係が良好ではない、とは薄々感じていたが。いよいよ副所長の所業を問題視したのだろう、とナーシェンは推察したからだ。
自業自得だ、という目線をナーシェンに向けられたまま。副所長は槍を下げたナーシェンへの説明を続ける。
「下手にお前たちに手を貸し、一日や二日、養成所を空ければ。副所長という地位を失ってしまう可能性がある。それは避けたい」
「前置きはその辺でいい。で?」
説明ではなく、協力を拒否した理屈を並べていた副所長の言葉を。
途中で遮ったナーシェンは、先程突き付けた槍先に代わり。今度は何も持たない手を差し出しながら。
副所長へ共闘を拒否した、その見返りを要求していく。
「先程、副所長は『表立って共闘は出来ない』と言った。ならば、共闘とは違った協力をしてくれるのだろう?」
「さすがは聡明な男爵子息、話が早い」
ただ提案を拒否するだけならばわざわざ自分の前に姿を見せる必要はない。
今、副所長自身が必死に説明したように。所長に警戒されているのに危険を侵し、拒否した事を謝罪をするような殊勝な性格でない事くらいは理解している。
ならば、ナーシェンらと接触する何らかの理由が副所長にあったのだろうと推察してみせ。
彼の推察は見事に的中した、というわけだ。
「これを四人に貸しておいてやる」
そう言って、副所長が装着していた外套の懐から取り出したのは。
一振りの長剣と、装飾の違う三本の短剣。
そして四個の腕輪に。
暗赤色の大小様々な宝石が数個ほど。
「お、おおっ……す、凄えっ? こ、これって全部、魔導具ってやつかよっ……」
副所長が取り出した数々の品物を見て、イオら三人は揃って驚きの声を漏らす。
庶民の生まれなら、あまり見る機会のないのが魔法が込められた品物・魔導具だが。
幸運にも男爵家の生まれであるナーシェンと親交のあったイオ・バーガン・タワーズの三名は。庶民ならまずお目に掛かる事のない魔導具を見る機会が何度かあった。
だから、副所長が出した品物がすぐに魔導具だと気付けたのだ。
驚くイオら三人の反応に、満足げな表情を浮かべていた副所長は。
明らかに鉄製ではない鞘に納められた長剣を握ると、目の前のナーシェンへと手渡していく。
「この剣はナーシェン、お前が使うといい」
「……ふむ」
しかし、直接剣を受け取ったナーシェンは鞘から抜いてみせながらも。
魔導具を貸し出され、歓喜と驚きに湧くイオら三人と違い。あまり嬉しそうな反応ではなく、顔には不満の色が滲み出ていた。




