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67話 アズリア、遠征開始の合図

 と、鼻息荒くランディら三人の先を早足で歩いてみたはいいが。

 施設の中を歩いていたアタシの足が、不意に止まる。


「……あ、あれッ?」


 他の訓練生と違い、朝から養成所の外へ遠征に放り出されるためか。

 前もって所長(ジルガ)に伝えられていた集合場所はヘクサムの街の入り口。つまりは初日、アタシが門番に扮した所長(ジルガ)遭遇(そうぐう)した場所だ。

 ならばつい二日前の記憶を辿れば集合場所に到着出来る筈だ、と。アタシは軽く考えていたのだったが。


「待ち合わせの場所って……どっちだったっけ」


 さすがに養成所に来てまだ三日目、アタシはまだ食堂や訓練場への通路を覚えるのが限界だったようで。

 順調な足取りだったのは、養成所の施設を出るまで。

 養成所の敷地から一歩、ヘクサムの街に出てしまうと。アタシは何処へ向かえば良いのかさっぱり分からなくなってしまった。

 

「ほら、無理するなよアズリア」

 

 すると背後からアタシの肩に手を置いたのは。必死に笑いを(こら)えているのか、手で口元を隠していたランディ。


「まだここ(ヘクサム)に来たばかりで場所分かんないんだろ?」

「──う、ッ」


 ランディの言葉を肯定する事。それは(すなわ)ち集合場所への行き方が分からなくなり、道に迷ったのを認めるのと同義だ。

 (うなず)くのに一瞬、アタシは躊躇(ためら)ったが。


 変に意地を張れば、アタシが道に迷ったせいで遠征の集合時間に遅れ。結果、ランディら三人を巻き添えにし迷惑を掛けてしまう。

 そもそも。

 直前にアタシが変な意地を張った事で、サバランと(いさか)いを起こし。ランディやイーディスに要らぬ世話を焼かせたばかりだっただけに。


 アタシが間違いを認めたくなかったのは。行き先までの進路を知らない癖に先導していたとなれば、また三人に笑われてしまうと思ったからで。

 ここは道に迷った事を認めるしかなかった。


「あ、ああ……そうだよッ」

「じゃあ道案内は俺が変わるから、アズリアはちゃんと着いて来いよ」

「え? あ……うん」


 意外にもランディや後ろの二人が、素直に道に迷ったのを認めた後もアタシを笑う事はなく。

 アタシの前を歩いていき、集合場所であるヘクサムの街の入り口へと先導役を変わってくれたのだ。


 てっきり笑われるかも、と。認めた後に身構えていたアタシは少し毒気が削がれ、呆然(ぼうぜん)と先を歩くランディの背中を凝視(ぎょうし)してしまっていると。


「……仕方ないさ。俺たち訓練生は滅多(めった)に施設の外には出ないんだ」

「ああ、ありがとなイーディス」


 前後をランディと入れ替わった事で、合流したイーディスには(なぐさ)めの言葉を掛けられる。

 口数少なく「アタシには関心がない」と勘違いしていた最初のイーディスの印象では、意外な言葉だと思えただろうが。


 先程の部屋でサバランと起こした(いさか)いでは。アタシの本音を拾った上で、サバランの説得に尽力していた。

 イーディスという人物の印象を変えるには充分な内容だったためか、もう然程(さほど)驚きはない。


 同時にもう一人、すっかり軽い口調を取り戻したサバランもまた声を掛けてくる。

 

「俺なんか、入所して半年くらいは何処に何があるか全然覚えられなかったんだぜ」

「いや……さすがにそりゃ、アンタの覚えが悪すぎだろ」


 これはこれで、サバランなりの(なぐさ)めの言葉なのだろうと理解はするが。

 さすがに半年、施設の配置を記憶しないという内容に納得は出来ず。(あき)れ顔を浮かべたアタシが逆にサバランの覚えの悪さを(なぐさ)める始末。


 出発前に部屋で一つ問題が。

 部屋を出てからさらに一つ問題があったが。


 こうしてアタシら四人はランディを案内とし、無事に集合場所であるヘクサムの入り口へと到着する。

 ──すると。


「お?」


 既に所長(ジルガ)はアタシが遭遇(そうぐう)した時の完全装備でなく、禿()げ上がった頭や上半身の肌を晒した状態で。両腕を組み、落ち着きのない様子で立っていたが。

 到着したばかりのアタシらを所長(ジルガ)側も察知したようで、こちらと視線が合った途端。

 

「随分と遅かったじゃねえかお前ら!」


 開口一番、大きな声を張り上げて腕を振り。まるでアタシらの到着が遅れたような口ぶりの所長(ジルガ)


「ほれ。相手はもうとっくに到着して、お前らが来るのを今か今かと待ってたんだぞ」


 見れば、所長(ジルガ)の横には。昨日の夜にアタシを勧誘してきた今回の騒動の元凶であるナーシェン一行は既にこの場に到着しており。

 アタシらと視線が会っても一言も声を発する事はなかったものの、ナーシェン含む四人はジッとこちらを睨み続けている。


 ナーシェンの部屋への勧誘の話を断ったのは、確かにアタシだが。

 そもそも後に登場した所長(ジルガ)の話振りでは、帝国貴族だと主張するナーシェンには部屋を移動させる権限など持ち合わせてはおらず。

 だとすれば、あの騒動とは一体何だったのか。ナーシェンの動機がまるで読めず。なのに巻き添えを喰らい、遠征という名の魔物討伐をさせられるアタシらが睨まれる道理などどこにもない。

 

「やれやれ……(むし)ろ睨んでやりたいのはアタシらなのにね」

「……まあ。ナーシェンのあの様子じゃあ、八人で協力して、ってのは到底無理そうだな」


 ランディの言葉にアタシも同意して(うなず)く。

 遠征を開始する前から、あれだけ敵意を()き出しにしている人間と一緒に行動しようとは考えない。

 ナーシェンらがヘクサムの外、所長(ジルガ)や他の訓練生の監視の目が無い事に(かこつ)けて。途中でアタシらに襲撃を仕掛けてくる可能性を考えている、と事前にランディの警告を聞いていたが。


 ナーシェンや取り巻き三人と、ランディやサバラン、イーディスとの実力差を比較すれば。ナーシェン側の敗けは必至であり、襲撃が如何に無意味なのかを(かんが)み。

 アタシはナーシェンらが襲撃する可能性を限りなく低い、と想定していた事も話してある。


 ランディと小声で会話を交わしていると。所長(ジルガ)が注目を集めるためか、両手を打ち鳴らして大きな音を響かせる。


「よし、アズリアたち四人も来た事だ。早速、今回の説明をするぞお前らっ」


 次に所長(ジルガ)が指を差すと。今回、遠征という訓練を受けるアタシらとナーシェン一行の合計八人。養成所側が事前に用意した全員分の荷物が入った革袋が置かれていた。

 

「とりあえず荷物には一日分だけの食糧が詰めてあるが、お前らには今日と明日。二日の間、街の外で野営と魔物討伐をしてもらうぞ」


 二日間、野営と魔物討伐をすると聞き。アタシはあらためてランディら三人の表情を(うかが)うも。 

 昨晩、遠征をさせられると所長(ジルガ)からの突然の命令を受けた時より、冷静な反応だった三人。


 対照的にナーシェンら四人はというと。


「の、望むところだ。たった二日でいいのか、と所長には問いたいくらいだっ……」


 出てきた言葉こそ強気だったが、先程までアタシらを睨んでいた態度は何処へやら。

 聞いているアタシが不憫(ふびん)に思える程、ナーシェンの声からは怯えの感情が伝わってくるのだったが。


 どうやら所長(ジルガ)には、ナーシェンの言葉を額面通りに受け取ったのか。(ある)いは強気な発言の裏に隠れた意図を、()えて気付かない振りなのか。

 皮肉を込めてナーシェンに期待の言葉を投げ掛ける。


「いい度胸じゃねえかナーシェン。帝国貴族サマの活躍、期待してるぜ」

「ま、任せておけ。そこの得体の知れない女よりも私は活躍してやる! 活躍してやるからなっ──いくぞお前ら!」


 そう言い放つとナーシェンは、置かれた革袋を掴むと。意気揚々とヘクサムの外へと一番に走り去っていき。 


「ま、待って下さいよ、ナーシェン様ぁっ……」


 三人の取り巻きもまた、慌てて用意された荷物を持ちナーシェンの後を追い掛けていってしまった。


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