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51話 アズリア傭兵団、動く

「……ふん。大方、そこの出来損ないの入れ知恵だろうが口の回ることだ。いいだろう女……まずは貴様から首を刎ねて、その首を出来損ないの首と並べて晒してやるぞ……」


 仕切り直して距離を空けたのは、きっとシュミットも履いているであろう魔法の靴を発動させて高速で突撃してくる準備だろう。

 帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)の戦い方はエクレールで一度見ているので想像に難くない。


「出来ない事を滅多に口にするんじゃないよ、所詮は親の威光で将軍になった坊やの分際で、ねぇ」

「い……いい加減にその口を閉じろ女あぁァァァ!一撃だ!一撃で貴様は終わるっ!受けろ我が渾身の一振りをぉっ!」


 度重なるアタシの挑発ですっかり頭に血が昇っていたのだろう。想像通りに靴の魔力で短い間合いを高速で突進し繰り出される両斧槍(バルバード)の一撃。

 確かに普通ならその速度と威力に、対処を考えている間に首を両断されていただろう。


 だが。

 来る、と分かっている攻撃の……しかも相手が絶対に抵抗しないという思い込みから、一切の防御を考えていないアタシから見れば油断だらけの捨て身の体勢でしかない。

 アタシは右眼の筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させ、突撃してくるシュミット将軍と同じ速度で間合いを詰め。

 将軍が両斧槍(バルバード)を振り切る前に、無防備の右肩へと得物を振り下ろしていく。


 互いに間合いを詰めるために高速移動したことですれ違い、攻防が始まる前と真逆の背中を向けた立ち位置となって。

 宙に舞うのは両斧槍(バルバード)を握りしめたままの将軍の右腕であった。


「あがああァァァ!……おおおおお……ば、馬鹿な……い、いや……それよりも……俺の、俺の腕がァァァ⁉︎」


 右腕と両斧槍(バルバード)が石畳に落ちるのと同時に肩からキレイに切断された傷口から血が噴き出し、将軍が肩を斬られた苦痛で喚き散らす間に。

 アタシは振り返って、傷口を押さえて呻き声をあげている哀れな男(シュミット)の首筋に刃を突きつけ、剣の腹で顎を上げさせる。


「……なあ?戦いが終わってないのに敵を前に呆けてていいって、アンタの父親の侯爵とやらは教えてくれたのかい?」

「……く、くそォォ……こ、これは何かの間違いだ……俺は帝国でも選ばれた帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)だぞ……それが女なぞにぃ……ィィ」


 歯が欠けてしまうかというくらいに歯(ぎし)りが聞こえ、アタシへ憎々しげな視線を放ってくるシュミットだったが。

 その不肖の兄に首を横に振りながら声を掛け、今自分が剣を交えた相手(アタシ)の正体を明かしていく。


「兄上……その女性、アズリアこそ……軍の内部で噂になっていた帝国狩りの女傭兵、漆黒の鴉(デア・クレーエ)その人なのですよ……」

「き、貴様ぁ……我が公爵家に泥を塗っただけに飽き足らず……帝国の敵に寝返っていたというのか……だ、だがッ!今私を殺したとて、出来損ないの貴様と二人で一体何が出来るっ?」


 この後に及んでまだ負け惜しみを口にするシュミットに、アタシは剣を突き付けたまま笑い飛ばして、馬車の付近で待機していたトールに目配せで合図を送る。


「誰がたった二人だって?……なあ、トールっ!」

「姉さんからの合図だっ!いいか手前(テメ)ぇら!ここから先は俺たちエッケザックス傭兵団の雪辱戦だっっ!」

『────おおッ‼︎』


 トールの呼び掛けで、荷台に待機していたエッケザックス傭兵団10名ほどが馬車から飛び出してくると。

 完全に不意を突かれた形となったこの場の帝国兵らは、剣をまともに抜くことが出来ないほど動揺していて、次々と登場した傭兵団に倒されていく。

 驚きだったのは、御者として同行してもらっていたエクレール領主家の使用人であるノースが帝国兵の頭を蹴り抜いて、倒れた相手の首に躊躇なく剣を突き立てていたことだった。


「使用人としてこの程度の護身術を身に付けておくのは当然だと思いますが」


 ここ検問所での異変と騒ぎを聞きつけて他の場所にいた帝国兵がわらわらと集まってくるが。

 哀れなる兵士の群れに、あらかじめ詠唱を終えていたフレアの火魔法の代名詞とも言える火の中級魔法(エキスパート)が解き放たれる。


「コレでも喰らえッ────爆裂火球(エクスプロード)っっ!」

 

 ズガガガアアアアァァ────ン‼︎


 盛大に巻き起こる火炎と爆音。

 まさかいきなり敵の攻撃、しかも攻撃魔法が飛んでくるなどとは思ってもいなかったのだろう。火球が直撃した兵士らは、爆発による煙が晴れた後に黒焦げとなって(むくろ)を晒していた。


「馬鹿な……俺はただ出来損ないを捕らえただけだったハズだ……それが、漆黒の鴉(デア・クレーエ)だと……エッケザックス傭兵団だと……俺の右腕……俺は夢でも見ているんだ……は、ははは……」


 自分の部下である帝国兵士が次々とこちらの傭兵団に蹂躙されていく状況を、首に剣先を当てられ身動きを取ることも出来ず、ただ指を咥えて見ているしか出来ない将軍(シュミット)は渇いた笑い声を上げて呆けてしまっていた。

 ……どうやら想像の世界に逃げ込んだようだ。


 アタシがイリアスに向き直り、将軍の生死をどうするのかを無言で訊ねると。

 彼は顔を伏せながら首を横に振ってこちらも無言で返答する。


「……はは、これは夢だ……帝国が……このバイロン家で一番の才能の私が……は、ははははははは……」


 アタシはクロイツ鋼製の漆黒の大剣を両手で握り、シュミット将軍の首筋へ狙いを定めると……剣を振り抜く。


「は」


 最後まで渇いた笑い声を止めずに遂に現実に戻ってこなかった男の首が、胴体から離れて石畳にポトリと落ちた。

 その首を拾い上げ、切断面から噴き出る血で汚れるのも構わず、身体を震わせながら抱き抱えるイリアス。


「……兄上。こんな方法しか、なかったのでしょうか……俺は……俺はただ帝国の未来を案じただけなのに……ぅぅぅぅぅッ」


 アタシはそんな(イリアス)の横に立って、落ち着くまで肩を抱いてやるしか出来なかった。

 ……兄貴を殺したアタシにそんな資格はないのかもしれないけどね。

爆裂火球(エクスプロード)

手に発生させた火球を術者の任意で爆発させ、その爆風と火炎は建物一軒程度を巻き込む範囲で、火魔法の中級魔法(エキスパート)の中でも難易度の高い術。

術者の魔力次第で範囲を拡大することが出来る。

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