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33話 アズリア、四人は武器を選ぶ

 所長(ジルガ)の理不尽な一言に、開いた口が塞がらなかったアタシ同様に。

 ランディら三人もまた、反論する気が失せたようで。


「……仕方ない、やるか」

「や、やるのかよッ⁉︎」


 諦めたように部屋を出ようとしたランディに、思わずアタシは語気を強めてしまったが。

 そんなアタシの肩をぽんぽんと叩くのは、優男(サバラン)


「アズリア、所長の言う事は訓練に関しては絶対。それがこの養成所の決まりなんだ」


 見ればサバランも、ランディ同様に何かを諦めたような表情で首を左右に振り。

 その横にいたイーディスも、いつの間にか立ち上がって同意するように無言で(うなず)いている。


 先に養成所にいた三人は場所ごとに定められた決まり事、所謂(いわゆる)「暗黙の了解」に納得が出来ているのだろうが。

 入所したばかりのアタシにはすんなりと受け入れられる筈もなく、まだ一人で抵抗を続けようとしたが。


「で、でもさッ──」

「何だ? 意外に臆病だなアズリアは」


 横から割って入ってきた所長(ジルガ)の言葉に、アタシは苛立ちを覚えずにはいられなかった。


「──な、ッ!」


 湧き上がる(いきどお)りを隠す事なく、所長(ジルガ)の顔を睨みつけていくも。

 所長(ジルガ)の挑発じみた言葉は、止まるどころかさらに続けられる。


「ローゼベリの衛兵からの紹介状には腕は確かと書いてあったが、ありゃ嘘だったのか?」


 アタシが納得いかなかったのは、あくまで理不尽な命令に黙々と従う三人の態度に、であって。所長(ジルガ)との戦闘訓練を回避しようとした訳では、決してない。

 そもそも故郷(ローゼベリ)にいた頃、アタシは。どうにかかき集めたなけなしの銅貨で購入した、質の悪い短剣や槍で。「──な、ッ!」街の外を徘徊(はいかい)する獰猛(どうもう)な魔獣や小鬼(ゴブリン)を相手に、勝利を収めてきたというのに。


 たとえ所長(ジルガ)が三年前には既に戦場に出ており、ここヘクサムの兵士養成所の所長を任される程の実力者だったとしても。

 アタシを(あなど)るような真似は許せない。


「……イイよ。そこまで言うなら」


 挑発に見事に乗せられてしまったアタシは。指を折り、骨を鳴らしながら所長(ジルガ)に詰め寄っていく。

 アタシを「臆病」と言ってのけたのだ。ならば実力を()って理解させてやるしかない──本当の実力というものを。


「見せてやろうじゃないか、アタシの力を」


 アタシは怒気を(はら)んだ言葉を返し、入り口に立っていた所長(ジルガ)の横を通り過ぎて戦いの場に挑もうと意気込むが。

 廊下に出た途端に、これから何処(どこ)へ向かえばよいのかがさっぱり分からずに(きびす)を返すアタシ。


「──で、戦う場所は何処(どこ)なんだいッ?」


 その一言で、所長(ジルガ)や他の三人が声を揃えて大笑いしたのは言うまでもない。


 ◇


 結局、ランディらに施設の中庭にある訓練場に案内される。

 アタシの名誉のために言っておくと。先程は所長(ジルガ)から中庭や訓練場への案内は受けていなかった。


 所長(ジルガ)は、訓練場の中央にて既に準備を終え。アタシらの準備が整うのを今か今かと待っている……という具合だ。


「ほれ、武器は好きな物を使え。一応、訓練用に刃は丸めてあるが、下手に当たれば斬れるし刺さるし、骨だって折れる」


 ランディらに案内され、アタシは大小様々な剣と収められた木の(たる)や槍が並べられた木の壁から.自分が使う得物(えもの)を選択するわけだが。

 所長(ジルガ)の言う通り、(たる)の中の剣や槍はどれも刃が潰され、肌に武器を押し当てても斬れない加工が(ほどこ)されている。


「……へえ」

 

 しかし、アタシが思わず感心の声を漏らしたのは別の理由。

 故郷(ローゼベリ)で使っていた武器より、全く頑丈さや武器の質が違っていた事に驚いてしまったからだ。

 となると次なるアタシの問題は。

 

「これだけ色んな種類があると、どんな武器がアタシに向いてるのか迷っちまうね」


 数ある武器の中から、一体何を選べば良いのかという事だ。

 見れば剣だけでも──衛兵らの持つ一般的な腕一本程の長さの剣から、肘先程の長さの小剣(ショートソード)。それより大きな剣や短剣(ダガー)など豊富な種類があり。

 剣ほどではないにせよ、槍も()の短いものから長いものまで揃えてある。

 剣と槍以外の武器が見当たらないのは、おそらくその他の武器があまり一般的ではないからなのだろう。


 アタシは悩む。


 というのも、これまで剣も槍も使った経験はあるが。どちらにも利点もあれば、使い勝手の悪い点もあったからだ。

 槍の一番の利点は、長い間合いで相手の攻撃距離の外側から攻撃を仕掛けられる事だ。しかし、突くという攻撃の確実性が低いのと。内側に入り込まれると大きな隙を作ってしまう欠点がある。

 剣はその点、突き刺す、斬ると万能な扱いが可能だが。どうしても相手の攻撃距離や範囲に踏み込む必要があるからだ。

 

「さて、と。あの三人はどんな武器を使うのかね?」


 中々決め手のないアタシは、判断材料になるかと思い。ランディら三人がどんな武器を選ぶのかを観察する事にした。

 まず一番に武器を選んだのはイーディス。彼は様々な長さが揃えられた槍の中から、迷い無く一本の槍を掴む。

 アタシが見るに、故郷(ローゼベリ)の衛兵らが使っていたよりも()の短い、短槍と呼ぶべき槍を。


「ん? わざわざ槍を使うのに、短い槍を選ぶって……」


 イーディスの選択に、アタシは首を(かし)げた。

 槍の利点は長い攻撃の間合いなのに、()えてその利点を減らすその意味が理解出来なかったからだ。

 疑問は残るが、迷いなく選んだ様子を見るに選び間違えという可能性は低い。ならば、何かアタシの知らない使い方があるのだろう。

 

 次にアタシが視線を向けたのはサバラン。

 彼もまた、手慣れた様子で(たる)の中から一本の何の変哲もない剣を握る。

 先程、元は貴族出身と聞いていただけに剣を選ぶのは予想の範疇(はんちゅう)内だったが。


「あの元貴族さまは、やっぱり剣を選んだんだね……ん?」


 サバランが選んだのは武器だけではなかった。

 槍が並べられている木の壁にはもう一つ、四角い木の板を動物の革で補強した盾が並べてあったのだが。

 サバランはその盾も一緒に選択したのだ。


「そういやアタシ、盾ってどう使われるのかまだ見たコトなかったかも」

 

 勿論(もちろん)、衛兵の装備の中にも盾は含まれていた事もあり。盾が使われる意図は衛兵のヒューから聞いていた。

 何でも、飛んでくる矢や頭上からの落下物を防ぐのに効果を発揮する防具である、と。

 しかし同時に、ヒューの話では「盾を持つと攻撃に専念出来ない」らしく。衛兵の間では盾を使わないのが日常的になっていたため。アタシも見る機会がなかったのだ。


 アタシは養成所(ここ)に来て初めて、サバランに興味を示す視線を向ける。

 盾という防具を、どう活用してみせるのかという期待で。


「それじゃ最後にランディは、何を選ぶのかね」


 アタシが直感的に、三人のまとめ役だと読み取ったランディを残すのみとなった。

 イーディス、サバランと。二人ともただ武器を選ぶだけではなく、癖のある選択をしてみせただけに。

 最後に選ぶランディも、ただ武器を選ぶだけではないのだろうと、勝手な期待をアタシは膨らませていたのだったが。

 

 そのランディが選んだ武器とは。

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