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48話 アズリア傭兵団、策を提案される

「ラクレールは一度防衛側と激しく衝突した街だ、普通に街に入ろうとしても簡単には通してはくれないだろう……何か策はあるのかい?」


 ラクレールへと街道を走らせる荷馬車の中で、イリアスはアタシらへ勝利の算段があるのかを当然ながら聞いてくる。

 なので、アタシは元々帝国が計画していたエクレールからの補給部隊に擬装して、街の中に潜入するという当初からの計画をイリアスに説明する。


「……でもアズリア?野営の時トールから聞いた話じゃ敵を全滅させるって聞いたし、村でもそうだったけど……今回は違うの?」


 アタシの説明を横で聞いていたエルが、作戦に抱いた疑問をぶつけてくる。

 確かにエル達の村でもエクレールでも、周囲に帝国兵が逃げて援軍を呼ばれたり暴挙を働かないように念入りに敵を消していった。

 だが、エルの言うように今回だけは違うのだ。


「そうだね……ラクレールだけは敵兵に逃げてもらって、連中には盛大に街が陥落した事を吹聴(ふいちょう)してもわないと困るんだ」

「……アズリア。もしかして君たちは……王都を包囲する帝国軍をラクレールに引き付けるつもりか?」

「そう上手くいけば、ね。もし帝国軍が動かなくても、その時はアタシたちが背後から連中を強襲してやるって選択肢も出てくるだろ?」


 そう。

 アタシの狙いは村長ゴードンの依頼の通りに「ラクレールを陥落させた」という情報を帝国兵に拡散して貰うことで帝国軍の本隊が王都の包囲を崩してくれるのを期待しているのだ。

 イリアスが先程教えてくれたホルハイム王城の戦力が健在なら、兵数が薄くなった部分を突いて包囲網を強行突破出来る可能性も出てくる。

 何にせよ、孤立無援だった王都に閉じ籠もるホルハイム軍にも色々と選択肢が生まれるだろう。


 さすがに国の存亡を賭けた戦争で、傭兵としてのアタシらが出来るのはそこまでが限界だ。

 だが、その説明を聞いていたイリアスはそうは考えていない模様で。


「……たかが10人そこらでどう戦況を傾けるかと思ったが、いや……さすがは帝国が目の敵にして躍起になっている噂の傭兵たちだ、まさに驚愕という他ないよ」


 口笛を吹いたのは彼なりの感嘆の表現であり、アタシの作戦への評価なのだろう。

 

「そんな君らに一つ提案があるんだが……どうせ帝国兵を擬装してラクレールに入るんだ。ならば俺を生け捕りにして連行する振りをする、というのを追加するのはどうだろうか?」

  

 イリアスからの提案は確かに潜入を確実にするには魅力的な策なのだが。

 今のアタシ達は、エクレールからの補給部隊という隠れ蓑を得ている状態だ。その上でイリアスの提案は無駄に彼の身を危険に晒すだけなのではないか?

 アタシがその提案に難色を示しているのを見てイリアスはさらに言葉を続ける。


「……実はこんな提案をしたのも、今ラクレールの守備隊の指揮をしているのがバイロン家の次男で俺の兄なんだ。だからアズリアが隊長格を倒す算段なら、確実に向こうから顔を見せにくると思うんだ」


 アタシは一つ気になることがあった。

 イリアスは確かに帝国の現状を憂慮している……それ故に軍の機密を持ち出してまでアタシ達に協力しているのだろう。

 だが、今回の提案もそうだ。

 彼の行動と計画には、どうも自分の生命を軽んじている節が見え隠れするのだ。


「……なあイリアス。お前さん、もしかして家族と上手くいってないのかい?」

「察しの通りだよアズリア……俺の父親が帝国の公爵家でも重鎮だとは話しただろう?兄二人は武芸の才能に恵まれ、帝国の現状に賛成し帝国こそ大陸の覇者になると信じて疑っていない。そのおかげか扱いにくい俺は父親に煙たがられていてね」


 アタシは真剣に話しているイリアスには悪いが、口の端を吊り上げてニヤニヤとしながらその告白を聞いていたに違いなかった。

 最初は、彼の行動理念が「国を憂う」とか「愛国心」などというアタシには理解し難いモノだったのが。

 そんなイリアスの口から急に、父親や兄への感情のすれ違いという人間味のある理由が聞けたのが妙に嬉しかったのだ。


「……いいよ。イリアスのその案、ありがたく使わせてもらうコトにする。でもイイのかい?その流れで言ったらアタシは兄貴を斬るコトになるんだけどさぁ」


 その問いに、(イリアス)は黙って頷いた。

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