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14話 ロシェット、父親が告げた事実

 初めて無詠唱魔法を成功させた余韻(よいん)に浸っていたロシェットだが。

 何者かが部屋の扉を開けた音に、後ろを振り返ると。


「日々頑張ってるようだな、ロシェット」

 

 手を叩いてロシェットの魔法の成功を祝福する父親、国王イオニウスが立っていた。


「ち、父上、っ⁉︎」


 ロシェットが驚くのも無理はない。食事の際に同席し、一日に起きた事を報告してはいたが。それ以外で国王として多忙なイオニウスがロシェットの部屋を訪ねるのは(まれ)だからだが。


 もう一つ、母親とエスティマとの騒動があった後だけに。もしや先程の騒ぎを聞きつけ、何が起きたのかを確かめるためなのかもしれない。

 

「──っ」


 父親が部屋を訪ねてきた理由を想像したロシェットは、先程までの魔法に成功した余韻(よいん)は完全に吹き飛び。

 無意識に緊張を強めてしまっていた。


 だとするなら。部屋で何が起きたのかを、父親には決して知られてはならないからだ。


 父親(イオニウス)は、母親(ティアーネ)を愛し大切にしている。後継者がロシェット一人しかいない、という状況にあっても。新たに子を設けるための側妃を迎える事を(かたく)なに拒絶している程に。


 そのイオニウスに、先程起きたエスティマと母親(ティアーネ)との一悶着(ひともんちゃく)を知られれば。

 ……良い方向に(かたむ)く想像がロシェットには出来なかった。

 たとえ、二人がロシェットに初級魔法(スタンダード)の活用方法を実戦形式で教えてくれた、と説いたとしても。


 下手な事は口には出来ない。

 

 しかし表面的には、初めて無詠唱魔法に成功したロシェットを祝ってくれているイオニウスに、黙ったままでいるわけにもいかず。

 次に口に出す言葉を、充分に吟味(ぎんみ)していると。

 

「そう警戒するなロシェット。まったく……頭の良さはティアーネ(ゆず)りだな」

「え?」

「詳細こそは知らんが、あの二人に何が起きたかは大体は想像は付く。この一件に関しては、俺は何もせんよ」

「……あ」


 イオニウスは部屋に入ってくるなり、ロシェットが明かすのを慎重にしていた話の確信に触れてくる。

 (すなわ)ち、国賓(こくひん)ではなくあくまで母親(ティアーネ)の個人的な客人として、砂漠の国(アル・ラブーン)の王妃エスティマが城に訪れていた事に。

 そして母親(ティアーネ)とエスティマが、まさにこの部屋で騒動を起こした事。

 イオニウスは既に知っていた、という事実を。


 さすがにティアーネの溺愛ぶりには(かな)わないが。イオニウスもまた、息子であるロシェットとは良好な関係を築いている。

 その息子(ロシェット)が、部屋に訪ねるなり警戒心を(あら)わにした状況に。何も気付かない父親(イオニウス)ではない。

 

 国王であるイオニウスには何人もの側近がおり、国王が目の届かない範囲の動向を常に報告している。

 またティアーネも、砂漠の王妃(エスティマ)との個人的な関係や来訪を隠すつもりはない。(したが)って、二人が会っていた事をイオニウスは把握済みだった。

 だから、イオニウスは。自分の前で警戒心を(あら)わにした息子の緊張を()くため。

 ロシェットが抱いていたであろう懸念を、先回りして解決してみせたのだ。


 イオニウスの言葉の効果は抜群(ばつぐん)だったようで。一目で分かる程に、ロシェットの警戒心はあからさまに緩む。

 その隙を見逃がさずに、床に座り込んだロシェットの隣へとゆっくりと歩み寄るイオニウスは。


「まあ……事情を知らないロシェットが心配するのも当然か。悪いな、息子にいらぬ心配をさせてしまった不甲斐ない父親で」

「そ、そんな……っ」

 

 申し訳なさそうな顔を浮かべながら、息子(ロシェット)の頭に手を伸ばし、優しく撫でていく。


(むし)ろ、エスティマには感謝しないとならんな。何しろ、これ程見事な無詠唱魔法を使えるようになった契機を授けてくれたのだから」

「えっ? 何で父上がそこまで僕のことを……」


 ロシェットが驚いたのは、魔法の習得の度合いを何故イオニウスが理解していたのか、という事にだ。

 父親である以前に、ホルハイム国王であるイオニウスは現在。帝国(ドライゼル)の大軍に踏み荒らされた領土や都市の復興に多忙を極めており。

 戦役以前は、毎日の定例であった朝夕の食事もイオニウスとは一緒に取れない状況だったりする。


 特に詠唱破棄の方法は。つい先日、指南役の母親(ティアーネ)に教わったばかりで。

 イオニウスが時間を作り同席出来た昨晩の食事の際の報告でも、詠唱破棄の話はまだ母親(ティアーネ)の口から出ていなかった。そう、ロシェットは記憶していた。

 なのに。

 イオニウスは、つい先程。夜空に向け放った攻撃魔法を「初めての無詠唱魔法」だと言ってのけたのだから。


「ん? 勿論(もちろん)だろ。どんなに忙しい時でもロシェットの鍛錬の内容は欠かさずに聞いているからな」

「え……あ、そ、それは、意外でしたが、その……嬉しいです」


 世間では「英雄王」と(うわさ)される父親に、ここまで目を掛けて貰えている──本来ならば、両手を上げて喜ぶ話なのだが。

 ロシェットが素直に喜ぶどころか、父親の言葉に戸惑いを感じていたのは。おそらく、先程の騒動で母親(ティアーネ)の過剰な愛情を知ってしまったからかもしれない。


「そうかそうか」

 

 そんな息子(ロシェット)の気持ちも知らず、イオニウスは一旦頭を撫でるのを止め。その場に腰を下ろして、息子(ロシェット)の隣に座り込み。


「にしても……凄いな、ロシェットは。俺がまだ一二の頃なんて、魔法も剣もロクに扱えなかったというのにな」

「そ、そうなのですかっ?」

「ああ、今でこそ魔剣に認められてある程度は有名になったが。当時の俺は、今のロシェットとは比べ物にならない出来の悪い人間だったぞ」


 唐突(とうとつ)に、ロシェットと同じ年齢だった過去の自分を語り始めると。

 本人の口から出てきた意外すぎる事実に、ロシェットは思わず大きな声を上げてしまう。


「し……信じられません、父上が、出来が悪かった、なんて」


 何しろ目の前に座っている、イオニウスという人物は。

 大陸に広く知られている伝承、神から授かりし一二本の魔剣の一振り・雷の魔剣エッケザックスを所持するだけでなく。

 手にした雷の魔剣(エッケザックス)で魔神を討ち倒し、現王妃──つまりロシェットの母親であるティアーネを(めと)った逸話まである。

 小国でありながら、軍事大国であるドライゼル帝国からの侵攻を退(しりぞ)けた実績まであるとなれば。


 ロシェットは常に、数々の偉大なる経歴を持つ父親、「英雄王」の名前に押し潰されそうな重圧を感じていた。

 その筈だったのに。

 

「魔法だけじゃない、剣の腕だってそうだ。あの頃の俺じゃ、本気になったリュゼの鍛錬に最後までついていくなんて無理だ」

「ちょ? ちょっと待って下さい父上っ……リュゼは加減してくれていますし、それじゃまるで僕の剣の実力が高いみたいに──」


 最初、父親が掛けてくれた言葉は。日々優れた魔術師と「英雄王」、高名な両親の重圧を少しでも軽くする目的とばかり思っていた。

 しかし、続けて語られたイオニウスの言葉に。さすがにロシェットは異議を挟まずにはいられなかった。

 

 何故なら今、ロシェットの剣の鍛錬を担当しているリュゼは、妖精族(エルフ)ながらこの国(ホルハイム)に所属する騎士の誰よりも強く。

 先のホルハイム戦役でも、帝国(ドライゼル)の切り札の一つであった「帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)」と一対一で対峙し、勝利を収める程の実力者なのだ。

 そのリュゼが本気で剣を振るえば、まだ若輩者であるロシェットが対応出来るわけがない。


 少なくともロシェット当人はそう考え、信じられない、という態度を見せていたが。


「そう言ってるんだよ。ロシェット、お前の剣は並の騎士をとっくに凌駕(りょうが)してると」


 イオニウスは、困惑するロシェットの言葉を(さえぎ)り。

 自分の実力を勘違いしていたロシェットに対し、真実を告げる。

 

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