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43話 アズリア傭兵団、男を拾う

さて、伏線回収です。

 村を出発してから4日目の朝。

 この日は昨晩過ぎから降り始めた雨が朝になっても降り続いていた。


 ノースが御者を引き受けてくれたのはよかったのだが、もう一人の御者役を選ぶのに思いの(ほか)難航し、結局アタシ達が帝国の補給部隊を擬装して三台の馬車でエクレールを出発したのは次の日の早朝となってしまった。


「荷台に待機組はいいよなぁ……御者の俺たちは雨に打たれながら馬を走らせる、ってか?あー……やってらんねぇぜ、ってな」


 荷台の中で何とか雨を凌げているアタシらと違い、御者を引き受けているトール達は雨に晒されながら馬車を走らせていたためか、先程から愚痴を漏らすのが荷台には丸聞こえなのだ。

 ……いや荷台は荷台で、完全に雨が防げているワケでもなく雨漏りが絶えないのだが。

 だからアタシは、一言釘を刺しておこうと思い。


「……トール、いい加減愚痴を言うの止めないとラクレール陥した後に戦線離脱させるよ?」

「ひいィィ?……だ、だってよ姉さん、さすがに道中に帝国軍(ヤツら)が出てくるワケじゃないし……」

 

 確かに帝国軍がホルハイムのほぼ全土を占拠しているらしい現状では、帝国が残党狩りでもしてない限りは道中で連中に遭遇することはないだろうが。

王都攻略を目前に控えた今、その可能性は限り無く低いとアタシらは読んでいる。


 ……なのだけど。

 雨が地面や荷台を覆う布を叩く音や馬の(いなな)き、蹄や車輪が街道の石畳を打つ音に混じり。

 剣を打ち合う甲高い金属音と争う男の声をアタシの耳は聞き取る。

 いや、アタシだけじゃない。


「……聞こえたみたいだな」

「ソッチもね。じゃあ聞き間違いなんかじゃない」


 荷台で弛緩していた空気がカチャリと自分の武器を触る音を境に一瞬で消え去り、緊張感がその場の空気を塗り替えていく。

 もちろん先程まで愚痴っていたトールもだ。


「……さて姉さん、どうするね?ラクレールを目の前にして争いの種にわざわざ首を突っ込むのはどうかと思うが、片方が帝国の残党狩りなら襲われているのは味方だ」

「なら決まってるだろ?アタシなら勿論……」

「首を突っ込むに決まってる、だろ?無論、そう言われると思って音の出処に向かってる最中だぜ」


 馬車の揺れが激しさを増したということが、街道を逸れて走らせている何よりの証拠だろう。

 アタシが御者席のある荷台の前面から顔を出すと、馬車の先で武器を抜いて争っている帝国兵が仲間割れしているのが見えてきた。


「……何だ、帝国兵同士の諍いかい。にしては……何か様子がおかしいけどねぇ……?」


 よく見ると一人の兵士を複数が取り囲んではいるが、何とか生け捕りにしようと攻め(あぐ)ね、手を(こまね)いてる様子だ。

 

「……トール。ここからはアタシが馬車から降りて単騎であの連中に接触してくる。もし……アタシが万が一の事態になったら後は任せるよ」

「はいはい、任されたわ……もしホントに万が一なコトになったら俺ら白旗振るけどな」

「ソイツは困るねぇ」

「なら無事に帰ってくるんだな、姉さん」


 トールなりの叱咤激励を受けてアタシは馬車から飛び降り、雨でぬかるんだ地面に足を減り込ませると。

 右眼の筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させ、先に見える帝国兵に狙いを定めて馬車を凌ぐ速度で水飛沫を上げながら駆け出していく。


「……クッ、ここまでか……っ」

「おい!ようやく見つけたんだ、間違って殺すなよ?俺らの首が飛ばされるぞ!

「へへっ……そういうこった、動くんじゃねえぞ……間違って変なトコ叩いちまうだろうが!」


 どうやら囲まれている帝国兵は脱走したか何かなのだろうが、装備こそ普通の兵士と同じだが、戦争中の……しかも敵陣深くまで侵攻中の兵士は到底見えない風貌の若い男だ。

 パッと見ても五人以上で取り囲んだ帝国兵らは、何故か兵士らは抜いた剣の刃を立てず、たとえ斬り付けても手足だったりと。聞こえてくる連中同士の大声のやり取りを裏付けるように手加減をしながら追い込んでいた。

 連中は「目の前の兵士をどう生け捕りにするか」そちらに意識が完全に向いていたお陰で、アタシの接近は感知されることもなく簡単に先制の一撃をくれてやるコトが出来たのだ。


「……こ、こんな場所でて、敵襲だとぉ!」


 突如として取り囲んでいた兵士が背中から血を流し斬り伏せられて倒れる様を見て、ようやく連中は自分らが狩る側から狩られる側になった事を認識する。

 もう手遅れだけどね。


「も、もしくはコイツが既にホルハイム軍に……い、いや、この付近の敵軍はほぼ壊滅させたはず……」


 互いに色々とこの状況に疑問はあると思うけど、アタシの疑問はこれからその兵士に答えを聞きだすとするから。


「……アンタたちの疑問は神様にでも聞いてくれ」


 取り囲んでいた側の帝国兵の最後の一人の頭を振り下ろした大剣の一撃で兜ごと叩き割ると。

 囲まれていた若い兵士は、足に無数の斬り付けられた傷がありフラフラになりながらも、アタシへの警戒を解かずにコチラを睨み剣を構えながら、何も言わずその場を離れようとするが。

 

「まあ……お仲間を目の前で斬り殺しておいて、安心しろ、ってのは説得力に欠けるけどね。とりあえずアタシはアンタの敵じゃない。だから……剣を下ろしてくれないかねぇ……?」


 男を安心させるために、アタシは構えていた大剣を背中に背負い戻して両手に武器を持っていないことを伝えると。

 助かったという安堵からか、糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちその場に倒れ込む男。

 慌てて男へ駆け寄ってみると……なんと、その男は寝息を立てて寝ていたのだ。

 

「あらら、傷の具合が悪くなったのかと心配してみりゃ……案外図太い神経してるんだねぇ、この男」


 少しばかり呆れつつもアタシは寝てしまった男を肩に担ぐと、先程の連中の見張りや増援が周囲にいないかを確認してから、乗ってきた馬車へと帰っていった。

 そういえば……最初に奪い返した村で確か、帝国軍が捜索隊を出して何かを探してた事を思い出した。

 それがこの男の兵士と関連することなのかどうかは知らないが。


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