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閑話② 紅薔薇、東の王国への宣戦布告

 東部七国連合(イースト・セブン)が一国。

 ラムザス王国・王都リーゲン。


 その中央に建つ王城は、謁見の間にて。書簡を広げラムザス王に口上を述べていたのは、紅薔薇(グレンガルド)公爵領よりの使者だった。


「──以上。今、述べた貴国の敵対的行為によりこちらの領土は少なからず損害を受けた。よって我ら帝国(ドライゼル)はここに。貴国、ラムザスに正式に宣戦布告する」

「な、何だとっ! あ、あれは……」


 使者の言う書簡にある「敵対的行為」とは、一体何か。

 帝国(ドライゼル)と隣接した国境付近で先日。強大な上位亡者(アンデッド)が出現、動く屍体(ゾンビ)動く骸骨(スケルトン)など下位の亡者(アンデッド)が大量に発生した事態を指す。


 しかし、突然の使者の来訪。そして段階を経て、ではなく突然の宣戦布告に。

 謁見の間にいた王国(ラムザス)の重鎮らが、揃えて紅薔薇(グレンガルド)領からの使者へと異議を唱える。


「あくまで突発的な現象であって、我が国が何かを企んだ結果ではない!」

「そ、そうだっ! そ……それが証拠に我が国があの大量の亡者(アンデッド)(こうむ)った被害は甚大(じんだい)だっ!」


 発生した亡者(アンデッド)の大群は移動を開始し、国境を無視し。王国(ラムザス)帝国(ドライゼル)、双方に多大な被害が出た。

 既に、出現した上位の亡者(アンデッド)は。王国(ラムザス)と隣接していた紅薔薇(グレンガルド)公爵領から派遣された、ロゼリア将軍の活躍により討伐。

 湧き上がった多数の亡者(アンデッド)も、ロゼリア率いる部隊によって一掃されたのだったが。

 

 一方でラムザス側はどうなったか、というと。


「あの忌まわしき亡者(アンデッド)どもによって……我が国の都市は次々と陥落し、死の街と化してしまっているのだぞ!」


 国境沿いに派遣された兵士や騎士が対処出来たのは、あくまで武器が通用する下位の亡者(アンデッド)のみ。

 実体の無い幽霊(ゴースト)亡霊(ファントム)動く骸骨(スケルトン)の上位種である骨騎士(ナイトボーン)などに対処する事が出来ず。

 掃討するどころか、兵士や騎士は一人、また一人と亡者(アンデッド)に生命を奪われ。新しい亡者(アンデッド)へと変貌(へんぼう)し。さらに数を増やした亡者(アンデッド)の大群は、国境沿いから王国(ラムザス)全体へと広がっていった。


 五柱神の教会や王城、強固な城壁に囲まれた王都リーゲンは、(かろ)うじて亡者(アンデッド)の侵入を防いではいたが。

 重鎮の一人が使者に吠えた言葉の通り。

 王都の周囲に存在する三つの都市が、亡者(アンデッド)の大群によって陥落した……と都市を防衛していた太守から報告を受け。

 まさに近日、都市を亡者(アンデッド)の手から奪回するために、王都から聖職者と精鋭部隊を出撃させ。同じ東部七国連合(イースト・セブン)の聖イスマリア法国に援軍を要請する手筈(てはず)だった。


「せ、せめてっ……あと二年、いや一年は開戦の準備のための猶予(ゆうよ)を──」


 実は、帝国(ドライゼル)からの宣戦布告は今回が初めてではない。

 大陸の覇権を狙い、周辺国への侵略戦争を繰り返す帝国(ドライゼル)は。ラムザスを含む東部七国連合(イースト・セブン)もまた、侵略対象なのだから。

 だからこそ。

 帝国(ドライゼル)の侵攻には、他六ヶ国も戦力や物資等の支援をしたり。外部から傭兵を雇うなどの手段で、ラムザスを防衛し続けてきたのだが。


 現時点では、さすがに分が悪すぎた。

 国土の大半を今もなお亡者(アンデッド)に荒らされ、各地の都市に配置していた戦力が壊滅状態にある今の状況では。

 帝国(ドライゼル)を迎え撃つどころの話ではない。外からは帝国(ドライゼル)の軍勢、内側には亡者(アンデッド)と二つの脅威に対抗せねばならないからだ。

 最早(もはや)帝国(ドライゼル)側の宣戦布告の意思を(くつがえ)す事が不可能ならば。

 まずは、亡者(アンデッド)だけでも一掃、鎮圧する必要がある。(ゆえ)のラムザス国王の発言だった。

 ──だが。


「それは貴国の事情であって。我々とは何の関係もない」

「……な、あっ⁉︎」


 様々な反論をする重鎮と、沈黙を破り使者に猶予(ゆうよ)を要求した国王に向け。

 紅薔薇(グレンガルド)の使者は小馬鹿にするような微笑(びしょう)を浮かべ、王の要望を一蹴する。


 一見、非情な態度に思えるが。常識的に考えれば、これから戦争を仕掛ける国が「待て」と言われて、言葉通りに待つ道理などどこにもない。

 一国の王と使者、という身分の差を(かんが)みれば、王を嘲笑(あざわら)った使者の態度は無礼すぎると言わざるを得ないが。

 同時に、使者の態度こそが。この王国(ラムザス)帝国(ドライゼル)とで大きく開いた国力差を示していた。


 時間稼ぎの目論見(もくろみ)が、使者の一言で頓挫(とんざ)し。

 歯軋(はぎし)りをしながら顔を真っ赤にし、薄ら笑いを浮かべた使者を無言のまま睨み付けていたラムザス国王だったが。


「……勿論(もちろん)、我らとて血も涙もないわけではない。非情な殺戮(さつりく)は、我が主──紅薔薇(グレンガルド)公も望んでいるわけではない」

「……で、ではっ⁉︎」


 先程、侵攻を一年は待つようにという要望を否定したばかりの使者は。自らの言葉を(ひるがえ)すかのように、猶予(ゆうよ)を与える事に含みを持たせたような言葉を口にし始めたことで。

 国王の表情は一変、安堵(あんど)の笑みを見せるが。


「国が蹂躙(じゅうりん)されるのを望まぬなら。今すぐに降伏し、我が主たる紅薔薇(グレンガルド)公に平伏(へいふく)するがいい」

「な……何だと、っ!」


 次に使者が口にしたのは、国王が期待した言葉ではなく、その真逆。

 何の抵抗もせず、国を明け渡せという降伏勧告だった。

 

 いくらこの王国(ラムザス)帝国(ドライゼル)に埋める事の出来ない国力差があろうとも。さすがに看過(かんか)出来る範疇(はんちゅう)を超えていた。

 国王も腰掛けていた玉座から立ち上がり、明確に怒りの表情を(あら)わにし。


「き、貴様っ、使者の分際で無礼な発言の数々、最早(もはや)許し難いっ──近衛騎士!」


 国王の横に控えていた側近の老人が号令を出すと、それを聞き付け。完全装備の騎士が数人、足音をガチャガチャと鳴らしながら謁見の間に入室すると。

 騎士全員が剣を抜き、数本の鋭い切先が使者へと突き付けられる。


「帝国の使者よ、まずは先程の発言を謝罪せよ。さすれば無礼な発言については罪を問わず、城からの退去で許そう」

「はははっ、良いのですか国王? 使者である私を傷付ければその時点で宣戦布告の了承(りょうしょう)と、我が主は見做(みな)すでしょうよ」


 しかし、剣を数本突き付けられているにもかかわらず。使者は顔色一つも変えず、国王や周囲の重鎮らを嘲笑(あざわら)う態度の使者を。

 玉座を立った国王は、ずっと睨み続けていたが。


「ふん……残念だったな。これまでも我らラムザス王国は貴様ら帝国(ドライゼル)の侵略を跳ね返してきた。ならば、この(たび)の宣戦布告。無礼な使者の首で返事をしてやろう」


 話の最中に片手を上げてみせた国王は、言葉を終えると同時にその手を振り下ろすと。

 それを合図に、使者を囲んでいた騎士が。構えていた剣で使者の首を、胸を次々と貫いていった。

 

「は、はは……馬鹿め」


 誰がどう見ても、四体の剣で与えた傷は致命傷だ。傷から噴き出た大量の血溜まりに沈む、無礼な使者の姿を見て。

 激情に駆られて使者を殺害してしまった国王は、乾いた笑いを口から漏らし。玉座に再び腰を下ろした──その時だった。


『それがラムザス王、貴様の返事か』

 

 謁見の間に、知らぬ人物の声が響き渡った。


 と、同時に。

 騎士らの剣によって貫かれ、絶命した使者の身体が。

 謁見の間に敷かれた絨毯(じゅうたん)に突如として広がった闇に。まるで石が水溜まりに沈む時のような音を立て、床へと沈み込み。

 使者と入れ替わるように、如何(いか)にも高い身分の人物が纏う衣装の、鮮やかな赤髪の男が現れたのだ。


「な、何だ……と? き、貴様……い、一体、何処(どこ)から……っ」

「き、騎士よ! 其奴(そやつ)も──」


 赤髪の男が何者なのか。いや、それ以前に……謁見の間に通ずる入り口は騎士らが厳重に警備していた筈で。

 不測の侵入者を許した国王は一瞬、侵入経路が理解出来ずに放心していたが。先程、部屋に騎士を呼び寄せた側近は王に代わり、侵入者への攻撃を命じようとした。

 しかし、側近が命令を下すよりも早く。


「──遅い」


 赤髪の男が指を噛み、自ら付けた傷から流す血を数滴、迫る騎士らの前に落とす。


 次の瞬間。


 血の滴が落ちた地点を中心に、激しい業火の柱が噴き上がり。巻き起こる炎の柱は騎士らの全身を飲み込み、鎧ごと焼き尽くしていく。

 激しく身体を焼かれた騎士はおそらく、絶え間ない苦痛に絶叫しているのだろうが。勢い良く燃え盛る炎に掻き消され、騎士の断末魔すら聞く事は出来なかった。

 やがて、巻き起こる先程までの勢いが嘘のように。噴き上げた炎柱は霧散し。その場には騎士の身体も、金属鎧(プレートメイル)の欠片一つすら落ちてはいなかった。


「──ひ」


 この場にいた誰かが、声にならない悲鳴を漏らし。

 王国(ラムザス)側の全員が例外なく、恐怖に足が震え。立っている事が出来ずに尻を付き、床へ座り込んでしまっていた。


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