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42話 アズリア傭兵団、問題点にぶつかる

 ザフィーロ男爵と商人のハーマンが帝国に内通していたという証拠の書状は、領主代行であるユーリアの手で公開され。

 その要請を受けたアタシたち傭兵団が、内通者が帝国軍と合流する前に粛正した……という結末に落ち着いた。

 まあ、ほとんど真実なのだが。

 ちなみに、馬車に積み込まれたあの二人の私財のほとんどはユーリアが没収し、街の復興費に充てると約束した。


「さすがはユーリアさんはあの領主の娘だ!帝国の手先を見つけだしただけでなく父親の仇を討ったんだ!」

「やっぱり領主の跡を継ぐのはユーリアさんしかいない!ユーリア!ユーリア!」


『ユーリア!ユーリア!ユーリア!』


 領主の屋敷の前には、エクレールの住民が昨晩の宴会並みに集まってユーリアの名前を連呼していた。

 その様子を一番驚いているのは、屋敷の中から住民の熱狂ぶりを見ていたユーリア本人だった。

 その肩をアタシが叩いて声を掛ける。


「あそこでユーリア、アンタがあの二人に剣を突き立てていたら……アンタをこれだけ慕うこの街の連中の面倒を誰が見るんだよ?」

「そうね、この街の領主は誰が相応しいか。それは住民の皆んなが叫んでくれているでしょう?」


 続いてユーリアの隣にエルが寄り添って、窓の外でユーリアの名前を叫んでいる住民を指差していく。

 

「……お父様は、こんなにも住民の皆さんに慕われていたんですね……私、わたし……」

「もうユーリアが何をしたらいいか、答えはわかるわよね?」

「はいっ!……エルさん、色々と私なんかのためにありがとうございますっ……」

「まあこんな外見でも、エルは立派な修道女(シスター)だからねぇ。なあ、エル?」

「ちょっとアズリアっ!それじゃわたしがいつもは全然修道女(シスター)らしからぬみたいじゃない!訂正しなさいよ!ほら、ほらっ!」


 脇腹にエルから肘を打ちつけられながら、ワザとらしく痛がる素振りを見せて徐々にユーリアから離れていく。

 その前に、アタシとエルの悪ふざけを見ていい顔で笑うユーリアに近寄り、小声で一声掛けていく。


「……吹っ切れたみたいだね、ユーリア」

「はいっ!私、頑張ってこの(エクレール)をもっともっと発展させてみせますっ!ありがとうございました皆様っ!」

 

 もうユーリアは大丈夫だろう。

 何故なら、最初に会った時のような何か憂いた様子は、今の表情から欠片も感じないからだ。

 これから先、この街がどう変わっていくのかはユーリアとエクレールの住民たちの役割であり戦いだ。

 だから、その戦いは彼ら彼女らに任せて。アタシらは自分の役割を果たす最善の努力をしようか。

 アタシはエルを引っ張って馬車を停めている敷地内の一角へと足を運んでいく。


「おう、そっちはカタがついたみたいだな、姉さん。こっちは言われた通り準備は出来てるぜ」


 アタシやエル、オービットらが男爵らの内通やユーリアの件でかかりっきりの間。

 トールと傭兵団の連中には、ラクレール経由で王都(アウルム)に物資を届ける補給部隊に偽装するための細工をお願いしておいた。

 

「……ただな、一つばかり問題が起きてな。実は補給部隊の規模が馬車3台なんだが……御者が出来る人間が足りないんだ」

「そうか、御者かあ……ソイツは盲点だったわ」


 確かに砂漠の旅でも御者はオログとアビーに任せたきりだったし、現状も御者が熟せるのはトール一人。

 もちろん、ただ街道をゆっくりとした速度で走らせるだけならば御者席に座っておけば何とかなる場合がほとんどなのだが。

 隊列を組んで走らせたり、ある程度以上の速度を出す場合は御者がいないと馬車が制御出来ないのだ。

 だが御者という技術は、馬の感情を読んだり路面の固さから馬の速度を調整したりと、一朝一夕で習得出来るものではない。


「……話はすべて聞かせて頂きました」

「「「うわぁああああ⁉︎だ、だだ、誰っ?」」」


 さて、トールから指摘された不足する御者の問題をどうしようかと頭を悩ませていたアタシらの背後から、突如聞こえてきた声に思わず動揺したまま大声で反応したために声が上擦()ってしまったが。

 そこに立っていたのは屋敷の使用人らのまとめ役をしている初老の女性、確か名前は……ノースだったか。


「あまり驚かれましても……こちらは私どもの屋敷内でございますし」

「そ、そそ……そうだったね。いやホント申し訳ない……」


 確かにノースが言う通り、アタシらが細工の準備をしていたのはまさに屋敷の敷地内だったのだ。

 そこに使用人のノースが現れるのは寧ろ当然である、アタシは彼女に驚いてしまったことに頭を下げて謝罪する。


「ちなみに先程の御者の話ですが、必要ならば私と何名かの使用人が御者を引き受けましょう」

「……え?アンタ……御者の経験が?」

「領主ともなれば馬車に乗るのは日常的ですからね、何名かは御者を抱えておくのは普通だと思いますが」

「でも、アタシ達が向かうのは戦場だよ。身の安全は約束出来ない。それでも……引き受けてくれるのかい?」

「勿論です……あなた方にはユーリアお嬢様の憂慮を見事に解決して頂いた筆舌に尽くせない恩がございます。御者ごときでお役に立てるのであれば喜んで引き受けさせていただきます」


 アタシがしたような軽い頭の下げ方ではなく、本当に深々と感謝の意を込めて頭を下げてくるノース。

 そこまで覚悟を決めているのなら、アタシらが断るのは寧ろ失礼だろう……正直言って、他に御者のアテがないのも事実だ。

 アタシは頭を深々と会釈したままのノースに手を伸ばした。

 

「わかった……ノース。よろしくお願いするよ」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します」


 頭を上げたノースがアタシが出した手を両手で握り返してくる。

 こう言うのは何だけど、もしエルがユーリアの憂慮を感じ取れてなかったら御者の件だけでなく、色々と厄介な事になっていただろう。何しろ帝国の内通者がエクレールに潜んでいたのだから。

 だから感謝の気持ちではないが、傍にいたエルの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてやるのだった。


「ちょ、ちょっと何よいきなりっ!いつも言ってるでしょ、頭撫でて子供扱いするなって……って聞いてるのアズリアッ?……ねぇ!ちょっとぉ!」


 そんなエルが撫でるのを口では嫌がりながら振り払う素振りも見せない可愛らしい反応が、アタシの心を癒してくれるのであった。

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