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40話 アズリアら、エクレールの闇を暴く

 さすがに物騒な話を屋敷の入り口で話しているのは軽率だと思い、割り振られた部屋へエルを連れて行き話を続ける。


「……こんな状況で帝国に寝返る?それじゃみすみすこの国(ホルハイム)が敗けるように貴族が手を貸す?」

「こんな状況だからさ。敗色濃厚な今のうちに帝国(ヤツら)に媚びを売っておけば自分の立場が守れるって本気で信じてるのさ」

「そ……そんな……」


 そんな時に三度ほど扉を叩く音が聞こえたと思うと、続けて扉の向こう側から声を掛けられる。


「……俺だ、アズリア」

「オービットか。待ってたよ、それで……調べはついたのかい?」

「……ああ、大分面白い話を仕入れる事が出来た。女性の部屋だとは知っているが、何ぶん人にはあまり聞かれたくない話だからな」


 多分に部屋にアタシだけなら扉を叩いて合図など入れずに部屋に入ってきただろう……オービットなりのエルへの気遣いだと思っておこう。

 そんなワケで、扉越しに声を交わし合っていたアタシとオービットだったが。どうやら収穫があったようなのでその成果を確認するために扉を開けて、彼を部屋へと招き入れる。


 何ぶん個室なので椅子が一脚しか置いてなかったのでオービットに勧めたが、彼はそれをやんわりと断り、入り口付近の壁に寄り掛かりながら口を開いた。


「……簡潔に結論から言うと、ハーマンとザフィーロの両名は帝国軍と内通していた……領主の死も奴らの仕業だ」


 そう言って彼は懐から紐で封がされた一通の書状を取り出すと、アタシの足元に転がしてくる。

 アタシはその書状を拾い上げ、封を解いて書状の内容に目を通していく。


「……アズリアって字を読めたのね。少し意外だったわ」

「まあ、一人旅を7年も続けてればね。書くのは簡単なものしか出来ないけど、読むのはお手の物だよ」


 ベットに腰掛けていたエルが驚いているのも無理もない。

 文字の読み書きは、子供時代に学校や家庭教師から一定以上の学習を受けていないと学べないが。そんな教育を受けられるのは貴族や商人などの上流階級か、それに類する組織……例えば軍隊や教会などに限られてくる。

 かくいうアタシも帝国の士官学校で簡単な読み書きを学んでいたおかげで、各地を旅して回っていた時にその国々の文字を読む程度の知識は身についていた。

 

「……それで、その書状には何が書いてあるの?」

「確かに面白い情報だね、コレは。ここには帝国軍の襲来に呼応して帝国軍に抵抗を続ける領主を暗殺して、抵抗せず降伏する算段が詳しく書かれてる……しかもご丁寧にハーマンと男爵の名前まで記されてるね、コレ」

「それで……どうするつもりだ、これから?」


 読み終えた書状を、内容に興味を示していたエルに渡して書状を読み終えるのを待つ。

 アタシはオービットの問いかけに、書状を読み終えてその内容に怒っているであろうエルを見やり。


「……エルはどうしたい?書状は読んだんだろ?」

「あたし?……何であたしに聞くの?」

「エルはさ、最初にユーリアから領主の話を聞いた時から気に掛けてたんだろ?だからアタシと同室になりたかったり、食事を一緒にしたり、最初はどうしたかと思ったけどね」

「あっちゃー……やっぱりアズリアは気付いてたかぁ」

「アタシらがこの二人を始末するのは簡単だけどさ、それじゃエルの懸念もユーリアの無念も晴れないだろ?」

「……あたしは、この事実をユーリアに伝えるべきだ、と思う……」


 エルは答えを導き出せたものの、その答えに自信が持てていないようで。言葉の最後のほうはか細く聞き取れないくらい小声になってしまっていた。

 そんなエルの頭に手を置いて、わしゃわしゃと手荒く撫でてみせる。


「どうせ正解なんてないんだから、エルがやりたいようにやればいいんだよ。大丈夫、何があってもアタシ達が尻拭いはしてやるからさっ」

 

 アタシの発言にオービットが首を縦に振る。

 それを見て安堵したのか、力強くアタシに頷くとエルは領主を暗殺した証拠である書状を握りしめて部屋の外へ飛び出していく。

 きっとユーリアのところへ向かったのだろう。


「……動くのなら早い方がいい。あの連中、エクレールを取り返されたことで焦っている。付近の帝国軍と合流しようと今は急いで街を脱出する準備をしているだろうからな」

「へぇ、さすがに一度帝国に尻尾を振った以上は、もう一度ホルハイムに出戻りする勇気はなかったってワケだ」

「奴らの屋敷に潜入して男爵と商人を生け捕りにするのは少々骨が折れるな……」

「なあオービット、あの連中が街を逃げ出すのは何日後かわかるかい?」

「それなら明日には準備を整えて街を出るだろう……ああ、なるほど、そういうことか」


 どうやらオービットはアタシの質問した真意を読み取ってくれたようで、口の端を釣り上げて意地悪く笑っていた……多分にアタシも同じような笑い方をしていたと思う。

もしかして読んでくれている方の中には、帝国との戦争だけに集中しろ、と思う人もいるかもしれませんが。

やはり戦争、しかも敗戦確実な今の状況こそ一番人間の本性が明らかになる時ではないかと思いましたので、こんな茶番劇も許していただければ幸いです。

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