411話 アズリア、当主マツリの選択
しかも、声を上げたのは一人ではなかった。
──そう、蘇ったばかりのイチコら六人が、声を揃えて異論を挟んできたのだ。
蘇生したばかりで、まだ体力が戻っていないのか足元がまだふらついてはいたが。それでも深々と頭を下げていた体勢から立ち上がりながら。
「と、頭領が武侠になっちまったら、あたしはともかく……ニコやミコはどうなるのさっ?」
「そうだぜ、頭領がそっち側なら俺らは盗賊稼業もやり難くて堪らねえ。そうなりゃ、違う領地に……」
真っ先に声を上げたイチコやバンが懸念しているのは、カムロギが仕官した後の自分らの行く末だった。
確かに六人の言う通り、カムロギが正式にカガリ家に所属するのであれば。残された六人は、これまで通り野盗として活動するのは困難となる。
下手に元頭領であるカムロギと接触すれば、内通や不正を疑われるだろうし。六人としても、カムロギに迷惑を掛ける事となる盗賊業を頻繁に行うのに、遠慮が生まれてしまう。
となればバンが今、口にしたように。六人は拠点を変え、カガリ領から離れるのを余儀無くされてしまう。
六人の訴えに、考え込む仕草を見せたカムロギは。一つ、案を閃いたようで。
「な……ならば、お前たちも一緒に仕官すれば──」
しかし、カムロギの提案に。拳を武器に戦うトオミネは即座に首を左右に振り、拒否の反応を見せる。
「俺はともかく……バンは一度カガリ家に泥を塗って飛び出した人間だ。ムカダも元は他の八葉の下で働いてた影だ。仕官は難しいだろう」
「そ、そうだった……」
トオミネが提案を拒絶した理由を聞いて、カムロギは一度話に出た二人へと視線を移すと。バンとムカダは揃って頷いてみせた。
そんな二人の反応を見たカムロギは頭を抱え、空を仰ぐしかない。
「え? え? ど、どういうこと?」
カムロギが六人の説得を諦めた様子に、何が起きているのか理解が出来ないユーノが首を傾げ。隣にいたヘイゼルに説明を求めるも。
「い、いや、あたいにも分からねぇよ。何しろ、カムロギはともかく、あの六人とは会った事もないんだからよぉ……」
今回ばかりは何も裏の事情を知らないヘイゼルは、答えを求めるユーノに曖昧な返答しか出来なかった。
実は以前にアタシは、病を治療した後に一晩カムロギら盗賊団の拠点に滞在し。六人の、特にバン、ムカダ、トオミネの三人の過去の話を軽く聞いただけだが。
大柄で鉄鎖を武器にするバンは、過去にはカガリ家の武侠でありながら。上司の無茶な命令に腹を立て、暴れてしまった罪を問われ。処罰を受ける直前に脱走したという。
カムロギを含めた連中で一番高齢に見える小柄な体格のムカダはというと。他の「八葉」の家にこの国の斥候的な隠密行動や情報収集、時に暗殺者である「影」の一員として活動していたものの。任務に嫌気が差し飛び出してしまったらしい。
そしてトオミネもまた。羅王と呼ばれる素手格闘の熟達者にのみ与えられる称号を目指していたが、力及ばず挫折した過去を持つのを。アタシは知っていただけに。
「そりゃ……バンの事情は何とかなっても、他の家との火種になりそうなムカダをお抱え、ってワケにゃいかないよねぇ」
と、カムロギが言葉を失った理由を理解していた。
──ところが。
「ならば皆様も……カムロギ様と一緒に。カガリ家のために、領民のために働いてはくれませんか?」
「え?」
「……は?」
カムロギを受け入れたばかりのマツリが、仕官に反対する六人をカガリ家に受け入れようと試みたのだ。
問題を抱えていた大人の男三人と一緒に、マツリよりも年齢が下の、まだ幼いイチコら三人も含めてである。
マツリの提案に、当然ながらカムロギや三人の男らも驚きの反応を見せたが。
マツリの言葉に一番驚いていたのは、勧誘を受けたイチコ・ニコ・ミコの三人だった。
「あ、あたしたちもっ?」
「え? だ、だって、ムカダ爺やトオミネさん、それにバンと違って、私たちはっ……まだ子供なんだよ?」
「それに……弓の腕前も中途半端。こんな私たちじゃ、大して戦力にならない……」
三人はまず自分の耳を疑ったのか、互いに顔を見合わせて今聞いた言葉が本当かどうかを、相手の反応から判断しようとしたのだろう。
すぐに自分が聞いた言葉が真実と知り、今度はマツリとカムロギを交互に見ながら。自分らがまだ未熟な腕前であり、足を引っ張る懸念を口にしていくが。
「はいはい、そこまでだよ」
今は会話の中心がマツリとカムロギ、そして蘇ったばかりの六人だったため。予め開いた両手を何度か打ち鳴らし、少しばかり注文を集めた後に。
アタシは片手を上げ、会話に割り込んでいく。
「イチコら三人の実力は、アタシが保証するよ」
イチコら三人とアタシは、たった一度だが交戦した事があったが。
小柄で素早い動きで対象を包囲・撹乱し、非力な彼女らでも扱える特製の弓矢での攻撃は。正直言って、非常に厄介だった印象が残っていた。
一対一なら武侠に勝つのは無理でも、三対一。しかも先に相手を包囲を許してしまえば、武侠側が勝利するのは相当に困難だとアタシは思っている。
だからこそ、割り込んでまでイチコらの弓の実力と三人掛かりの戦術を評価したのだ。
「あ……アズリアっ……」
「何だい、三人とも。拠点に近づいたアタシを追い詰めた時のコト、もう忘れちまったのかい?」
追い詰めた、というのは多少の誇張があるが。自己否定がすぎる三人に対し、円滑に会話を進めるには。これくらい事実を盛ったほうが、最初から所属を勧めるマツリはともかく、三人の実力を心配するカムロギも首を縦に振りやすいだろう。
イチコら三人はおそらく、これで問題はないだろう。
バンに関しても、カガリ家に所属する武侠同士の問題だ。その点は、当主であるマツリに事情を説明し、今回の魔竜とジャトラが起こした騒動の解決に協力した恩赦をすれば。一応は納得出来るのではないだろうか。
──だが。
「さて。問題は、ムカダじゃないのかい」
「……ああ」
さすがに、今回の騒動に関与していない他の「八葉」が絡むとなると。アタシが割り込む余地は何一つなかったりする。
カムロギも、ムカダをカガリ家に引き入れる事で。他の「八葉」との衝突にまで関係が悪化する可能性が頭にあったからこそ。ムカダの加入を強く主張出来なかったのだ。
しかし、ムカダの過去を知らず、事情を全く飲み込めていないフブキはというと。
姉がカムロギとその仲間へと頭を下げている事もあり、擦り寄るようにアタシの隣へと移動してきて、説明を要求してくる。
「ねえ、アズリア? 私たちはあの三人の素性を知らないから何もわからないのだけど……何が問題なの?」
「いや……実は、さ」
別に隠しておく必要はない、と判断し。アタシも断片的にしか聞いてはいないが、知っている限りのムカダの抱えた事情をフブキに話した。
過去にカガリ家ではなく、他の「八葉」の家に所属していたという事を。
それは当然ながら、所属していた「八葉」の内情も知っているわけで。実は、今でもその家の影が密かにムカダの居場所を探っているのだとか。
アタシはちょうど、ムカダが過去に所属していた「八葉」の家の名前を思い出したばかりだった。
「確か……リュウガ、とか言ってたなあ」
頭に浮かんだばかりの単語を、アタシが口にした途端に。
「リュウガ家、ですって?」
横で話を聞いていたフブキの表情が、途端に険しいものとなる。




