表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/1759

36話 アズリア傭兵団、重装騎士と対峙する

「……し、侵入者だっ!止めろっ、止ッ……」


 我に返った門番が堂々と城門を潜り抜けた侵入者の存在を伝えようと大声をあげようとするが、警告を伝えきる前に……その門番の首は胴体と離れ離れとなっていた。

 扉を木っ端微塵にした大剣の一撃が門番の首に放たれたからだ。


 馬車がエクレールの街中に無事突入出来ると、その荷台からまずオービットとエグハルトが飛び出していく。

 城壁の上にいた見張りがその様子を見て、二人へ弓を(つがえ)ていくが、それより早くエグハルトの投擲した槍が次々と見張りの頭や胸を貫いていき、絶命した兵士が城壁から落下していく。


「……さすがは投擲槍(ジャベリン)を持たせたら随一の腕前を誇る男だ」

「あはは、まあ……あまり活用出来る場所がないからどの傭兵団でもお払い箱だったんだけどな」


 そう、エグハルトは槍を振るう腕前は並の傭兵なのだが、槍を投擲させると百発百中、並ぶ者のいない凄腕なのだ。

 ならば何故、他の傭兵団で軽視されたのか。

 それは投擲槍(ジャベリン)が使い捨てなために金がかかる上、弓や魔法のほうが戦場では有効だとなれば軽視されるのは仕方のないことだった。


 だが投擲した槍の傷は矢傷と違い、的の大きな胴体へ命中すればほぼ致命傷となる。

 ちょうど今のように。


「……それは今までの連中の見る目がなかっただけだと俺は思うがな」

「まあ、それがあったから俺はこの傭兵団に入れたんだし、悪いことばかりじゃないさ」


 エグハルト本人は飄々とした返答をしながらも、次々と馬車に積んであった槍……それも投擲用の槍ではなく普通の長さの槍を城壁の上にいる弓兵に投げつけ、倒した数は既に10を超えていた。


 城壁から弓矢で一方的に射られる危険が払拭されたと判断すると、フレアや他の傭兵団の連中が次々と荷台から下りてきて。

 侵入者であるアタシたちをどうにかしようと普通なら兵士らが群がってくる筈なのだが、オービットの報告通りなら帝国軍側が残す兵士の数はほとんどいない。

 ……ということは、そろそろ奴らの登場かね。


「貴様らあッ!よくも……よくも皇帝陛下より預かった兵士らを!」

「我らが帝国軍に今更歯向かう愚か者どもめ!」

「我ら帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)が直々に引導を渡してやるぞッ!」


 街の中央に現れた三つの大きな人影。

 それは凶々しい形状の真っ黒い全身鎧(フルプレート)を身を包み、両斧槍(バルバード)大鉈(グロウスバイル)大楯(タワーシールド)を手にした者たち……本人らが名乗った通りの帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)の登場だった。


「アンタらがこのエクレールを陥落(おと)すための最後の砦、ってワケだね……それにしても、随分と調子に乗った連中だねぇ」


 アタシは騎士らから馬車を遮るように立つと、構えていた大剣を肩で担ぎながら、仰々しく登場した騎士らの前口上とやらを聞いて軽口を叩く。

 すると騎士らは兜の顔を覆う部分(バイザー)を上げて素顔を晒すと。

 

「ほう……その燃えるような紅い髪、黒の大剣に歪(歪)な部分鎧(ポイントアーマー)……貴様が常に帝国の障害となり続けていた噂の『漆黒の鴉(デア・クレーエ)』か」

「……だとしたら、何だい?」

「いや、かの噂の傭兵がどれ程の者かと期待していたが……まさか女だったとはな。(いささ)か興醒めしてしまってな」


 アタシはその発言を聞いて溜め息を吐いた。

 「女は男より弱い」……根拠もなく男が抱く女への優越感だが、メノアやノルディアのように男に腕力で勝る女は普通にいるし。

 そもそも帝国の重鎮たる「帝国の三薔薇(ドライローゼス)」は、お嬢(ベルローゼ)含め三人とも女だった筈だ。


「はっ、それが負けた時の言い訳になるとでも言うってのかい?帝国の連中は案外腰抜けなんだねぇ」

「貴様あっ!少々噂になったくらいでのぼせ上がるなよ……まあ所詮は非力な女、我が重量級の攻撃には太刀打ちなど出来まいがな!」

「「わはははははははっ!」」


 アタシの反論に男騎士は激昂したように声を荒らげるが、その口調は徐々にこちらを舐め切った態度に変わっていき。

 その言葉に合わせて他二人の騎士も声を上げて笑い出す。それは自分たちが万が一にも女であるアタシなどに負ける要素は微塵もない、と信じ切っている傲慢な嘲笑。

 ……どうしてくれようか。

 当初の予定だとアタシはこの連中の突撃を止めるだけに留めて、雷剣の連中に仕止める役割を譲るつもりだったんだけど。

 

「……御託はいいさ。それとも、多勢で遠巻きに笑い物にしてるのは実は噂が怖くて剣を向けられないからなのかねぇ……いや腰抜けな上に臆病なんだ、帝国重装騎士(インペリアル・ガードナー)とやらは……ぺッ」


 挑発としか取れない台詞を口にしながら、剣を持っていない片手で騎士どもに指を上向きに動かし手招きをしていく。

 最後のダメ押しにと、石畳に打ち捨てられていた帝国の紋章が描かれた旗に唾を吐き捨てる。

 すると、目の前の重装騎士らはアタシの挑発にわかりやすく反応し、顔を真っ赤にして憤慨しながら武器を構え直す。

 

「……女あ!死ぬ前に貴様に引導を渡す我らの名を聞いておくがいい!我ら……帝国が誇る『漆黒の三槍』が一人、ガイン!」

「同じく『漆黒の三槍』が一人、オルテアっ!」

「同じくマッシャーだ!我らの名前を心に刻みつけて死ねっ漆黒の鴉(デア・クレーエ)っ!」


 いや……女を軽視する発言は腹が立ったけど。

 ここまで挑発に簡単に乗ってくるような単純な連中に街の防衛任せるとか、ホルハイムを大規模に占拠している帝国軍は大丈夫かと心配になってくるね。

 それだけ王都(アウルム)に戦力を集中してるのか、それとも本当に帝国軍に人がいないのかは、アタシの知りようもないけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ