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396話 アズリア、カムロギと再び剣を交え

 カムロギの姿が見えない、と気付いてから。右眼の魔術文(ルーン)字の効果を発揮し、全速で三の門へと向かっていたアタシだったが。


「あ、ありゃ……ヘイゼルの、ッ?」


 突然、耳に響いたヘイゼルの単発銃(マスケット)の発射音。

 音が発せられた位置は、今アタシが目指していた三の門とは全く別の方向だったが。

 音を聞いたアタシは。迷う事なく直感で駆ける目標を変更し、ヘイゼルがいるだろう場所へと向かい始めた。


「多分……いや、間違いないッ! 音の先に、カムロギがッ──」


 わざわざ大きな音が鳴る武器を空撃ちする意図は、緊急を要する時に周囲の仲間に何か情報を伝えたいから。

 危険が迫り警戒を知らせたのか、音を聞いた友軍を呼び寄せる合図か、だが。


 魔竜(オロチ)、という最大の脅威が排除された今。三度(みたび)魔竜(オロチ)が出現する可能性は考えたくもないが。

 同時に、魔竜(オロチ)を討ち倒すための条件。魔剣に精霊の加護をアタシが揃えているのは、四本目の頭を倒した時点で残りの八頭魔竜(ヤマタノオロチ)にも知られてしまっている。で、あれば……考えも無しに五本目が姿を見せる可能性は限りなく低い。

 だとすれば、ヘイゼルの単発銃(マスケット)が音に乗せた情報は、後者。つまりはアタシらのうち誰かを音の位置に呼び寄せる意図。


 そして今、緊急を要する事例といえば。

 取り返しのつかない状況になる前に、カムロギを止めることだ。

 何故、ヘイゼルがアタシより先にカムロギの位置を発見出来たのか、という疑問こそあるが。


「アタシは、ヘイゼルを信じるよッ!」


 確かに、底意地が悪く頭の回転の早いヘイゼルは、事ある(ごと)揶揄(からか)われたりしたり、文句を口にしていたこともあったが。

 それでも、何の得にもならないフルベ領主の屋敷や、ここシラヌヒ城まで同行し。強敵と対峙してくれたのだ。

 アタシとの約束を守り、ユーノと一緒に帆船を操縦し、この国(ヤマタイ)までやってきてくれた彼女(ヘイゼル)の義理堅い性格を。

 躊躇(ためら)うことなく、アタシは信じる事にした。

 

 ◇


 当然と言えば当然だが、「精霊憑依(ポゼッション)」により髪の色が緑に変わったアタシを見たカムロギは。


「あ……アズ、リア、なのかっ?」


 目を見開いてあからさまに驚き、アタシかどうかを確認してくる。

 髪の色のせいで、アタシを誰か認識しない……というやり取りも最早三度目だ。それぞれ別の人物ではあったが、髪の色が変わっただけでアタシと判別出来なくなるのだろうか。


「そうさ、髪の色こそ違えど。正真正銘、アタシ……アズリアだっての」


 だが、付き合いの短いフブキやお嬢(ベルローゼ)と違い。カムロギとは三の門の前で、壮絶(そうぜつ)な死闘を繰り広げた関係でもあった。

 それなのに、髪が緑に変わった程度で。かつて自分を打ち負かした相手を見間違うという薄情さに、思わず溜め息を漏らしたアタシ。


「……何だい、アンタまで。生命の奪い合いまでしたってのに、髪の色が変わったくらいで随分とつれないじゃないか」

「い、いや……それは、そうだがっ……」


 さすがに何も言い返せなかったのか。一瞬だが、反論の言葉に詰まったカムロギだったが。

 即座に我に返ると、こちらから視線を外し。肩に置いたアタシの手を払い除け、この場から立ち去ろうとする。


「まあ、いい。世話になったが、これで二度と会う事もないだろう。さらばだ──」


 アタシは、到着するより前にヘイゼルと何があったかを知らない。

 だが、このままカムロギを行かせてしまえば、言葉の通り二度と生きて再会は出来ない……と直感した。

 元より、共闘した戦場の誰にも行き先を残さずに姿を消したのだから。

 だから咄嗟(とっさ)にアタシは。


「だから待てッての」


 先程肩から払われた手で、立ち去ろうとしたカムロギの手首を掴み、この場に留めたのだ。

 

「──離せ、っ」


 瞬間、こちらを(わず)かに見たカムロギの眼に敵意が宿り。アタシが掴んでいなかった側の手が、腰に挿していた魔剣の(つか)に掛かる。

 つまりは、アタシを睨む眼はカムロギからの最終警告というわけだ。掴む手を今すぐに離さなければ、剣を抜き、一戦も辞さない……という。


 だがアタシも、ここは一歩も(ゆず)るつもりはない。

 

 カムロギの手首から指を離すとはまるで真逆に。さらに掴んだ腕を引いて、この場から逃がさないという意思を見せる。


「はッ、やれるものならやってみな──」


 そんなアタシの意思表示とも言える発言が終えるより前に。

 こちらに振り向いたカムロギが、同時に放ったのは(さや)から抜いた黒の魔剣による鋭い剣閃だった。


「──ッッ⁉︎」

「離せ……そう言ったはずだ」


 もし、魔剣で防御しなければ。アタシの胸元は横へと深く斬り裂かれ、生命こそ落としはしないが深傷(ふかで)を負わされていただろう。

 だが、視線による警告が挟んであったからか。

 事前に所持していた大樹の魔剣(ミストルティン)を、身体と斬撃の間に差し込み。カムロギの一撃を何とか刃で受け止める事にアタシは成功する。

 

 しかし、防御された刃を素早く引いたカムロギは。再びアタシへと魔剣の刃を素早く振り抜いてきたのだ。


「アズリア、お前には色々と恩義と借りがあった。だが、魔竜(オロチ)を倒すためお前の仲間と共闘した……それで相殺(そうさい)した」

「ああ、その通りさカムロギ」


 今度の狙いは胸ではなく、カムロギを押し留めるために掴んでいた手。

 飛んできた二撃目に対し、アタシは先程のように刃を受け止めるのではなく。カムロギが放った斬撃と同時に大樹の魔剣(ミストルティン)を振るい、武器と武器を衝突させ。


「……だからアタシは借りや恩義を口にして、アンタを止めたいとは思っちゃいないさ」


 力の込もっていないカムロギの斬撃、そして魔剣そのものを弾き飛ばしていく。


「……う、おっっ⁉︎」


 最初の一撃を受け止めた際に、アタシが驚いてみせたのは。何もカムロギが本当に攻撃を仕掛けてきたからではなく。

 放たれた斬撃は、アタシと一騎討ちをしていた時の攻撃と比較すると。振るう速度こそ迅速(じんそく)だったものの、あまりにも腑抜(ふぬ)けていたような(にぶ)さを感じたからだ。

 見れば、カムロギの眼には敵意こそ宿っていたものの、一切の殺意はない。殺意が込められていない斬撃に、鋭さが宿るはずもなかった。


 だからアタシは、カムロギの剣を容易に弾いた。


 斬撃を弾かれた衝撃で、握っていた魔剣が手から抜け落ち。くるくると回転しながら空中を舞う黒の魔剣「黒風(こくふう)」が、地面へと突き刺さる。

 が──武器を弾いただけでは、(カムロギ)の戦意を喪失させるには不十分だ。


「武器を弾いた程度で、凌いだつもりか……っ」


 何故ならば。二本の魔剣を両手で扱うカムロギの腰にはもう一本、白の魔剣「白雨(びゃくう)」がある。

 カムロギは、武器を手放してしまった手をもう一本の剣の(つか)へと伸ばし。三度(みたび)、アタシに剣閃を放とうと試みるも。


「もう、やめな……カムロギ」


 悪足掻(あが)きとばかりに、殺気のない武器を振り回すカムロギの意図に気付いてしまったアタシは。

 構えていた大樹の魔剣(ミストルティン)の切先を下へと向けた。


「残念だけど、いくら剣を向けてきても、アタシはアンタを反撃で斬りゃしないよ」


 アタシの指摘に、諦めたように、息を一度吐いて肩をすくめながら。一度は抜きかけていた白の魔剣を、再び(さや)へと納めてしまうカムロギ。

 

「──やれやれ、血気盛んなお前なら、俺を斬ってくれると思っていたんだがな」

 

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