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395話 カムロギ、死出の旅路へ

この話の主な登場人物

カムロギ この国(ヤマタイ)最強の傭兵団の一人 二刀流の剣士

ヘイゼル 元は海の王国(コルチェスター)で賞金首の女海賊

「ふぅ……そろそろ、ここら辺でいいか」


 魔竜(オロチ)の自爆による強烈な爆風の衝撃を浴び、一度は倒れこそしたものの。自分から跳び、地面に倒れた事で直撃から逃がれ。

 アズリアの治癒魔法が発動するよりも前に、共闘した全員の前から早々に姿を消していたカムロギは。

 周囲に人の気配がない事を確認すると、その場に腰を下ろし。


「これで……お前たちの(あだ)は討った」


 腕に抱えていた六つの仲間らの頭蓋(ずがい)を、座り込んだ自分の前に並べ。

 その身を喰らっただけでなく、死して後に眷属(けんぞく)として(もてあそ)んだ魔竜(オロチ)を倒した事を報告する。


 そして、既に魔竜(オロチ)の炎や蛇人間の爪撃、そして最後の爆風でボロボロとなった服を半分脱ぎ。上半身のみ肌を晒していくカムロギは。

 腰に挿していた(さや)から、黒い刀身の魔剣を抜くと。


「これで、心残りはもうない」


 手首をくるりと返して、本来ならば敵に向ける切先をカムロギ自身の腹へと向け、刃先をピタリと肌に当てた。

 このまま剣を持つ手に力を入れれば、腹に刃が突き刺さる筈だったが。


 まさに自らの腹に剣を突き立てる直前だった。


「──そこにいるのは、誰だ」


 自刃して果てる覚悟のカムロギの視線が、離れた筈の戦場の方向へと放たれると。

 視線の先に映ったのは、赤銅(しゃくどう)色の髪と顔に二本の刀傷を刻んだ女海賊の姿。


「はは、これから死のうとしてる男が、わざわざ声を掛けてくれるたぁ、随分と余裕があるじゃないか」

「……よく言う。もし、このまま腹を切ろうものなら、その火を吹く鉄筒でこちらを狙い撃つつもりだったのだろう?」


 しかも──既に魔竜(オロチ)との戦闘でも使っていた単発銃(マスケット)を腰から抜き、カムロギに筒口を向け構えている。


 魔竜(オロチ)が魔力を暴走させ、大爆発を起こした瞬間。ヘイゼルは咄嗟(とっさ)に、周囲にいた蛇人間やユーノ、カムロギを遮蔽物(しゃへいぶつ)代わりにし。

 (たく)み……いや、小狡(こずる)く衝撃や爆炎の直撃を逃がれ、軽傷で済ませる事が出来たからか。

 カムロギが骨を集め、逃げるように戦場を去る姿を目撃出来たのだ。


「まあ、ね」


 不敵に笑ったヘイゼルは、カムロギに構えていた単発銃(マスケット)を真上へと掲げ。無詠唱で「着火(フリント)」の魔法を使い、鉄球を発射していく。

 辺りには、筒内に装填(そうてん)された炸薬の爆発による轟音(ごうおん)が鳴り響いた。


「他人より薄情なあたいとしちゃ。復讐が終わったお前さんが自害するってのも、一つの選択だとは割り切れるんだけどさあ──」


 シラヌヒ城では、一連の騒動の黒幕であるジャトラ勢力は完全に沈黙し、魔竜(オロチ)との戦闘もとっくに終結した。

 だからこそ、ヘイゼルが撃ち鳴らした単発銃(マスケット)の炸裂音はよく響いただろう。

 まるで、二人がいる位置を知らしめるために。


 ヘイゼルが不敵な笑みを浮かべたのも、まさにそんな意図が今の射撃にはあったからだ。


「お人好しなあの連中は、お前さんが自害するのをきっと許さないだろう……そう思って、な」


 もう一つ、カムロギと対峙したヘイゼルが笑った理由が。

 たった今、彼女(ヘイゼル)が口にした「あの連中」。つまりこの国(ヤマタイ)まで一緒に旅をしたアズリアとユーノの事を不意に思い出していたからだ。


 最初、ヘイゼルが自分の率いる海賊団を壊滅させ、乗っていた二隻の帆船も破壊してしまったアズリアに接触したのは。まさに自分の海賊団を潰した相手への復讐こそが目的だった。

 だがその後、海の王国(コルチェスター)の王都を襲った大騒動に巻き込まれ。復讐どころか逃走する機会さえも失い、共闘せざるを得ない状況に(おちい)った彼女(ヘイゼル)は。

 一緒に行動しているうちに情が湧いてしまったのか。海賊団や帆船を破壊したアズリアやユーノに復讐する気持ちが、いつの間にかすっかり消えてしまっている事に気付いてしまったのだ。


 もう一度海賊団を結成し、大きな海を自由に駆け巡る野望はまだ消えてはいないものの。アズリアやユーノともう少し一緒に旅を続けるのも悪くない、と思えていたヘイゼルは。


「さあ、さっさと握った剣を下ろしなよ」


 再び単発銃(マスケット)の筒口をカムロギへと向け、自害を思い(とど)まるよう強引な説得を行う。

 と同時に、ヘイゼルには緊張が走る。


 何故ならヘイゼルは、三の門の前で繰り広げられたアズリアとの一騎討ち、一部始終をその目で見ていたからだ。

 アズリアに敗北を喫したカムロギだが。必殺技の「天瓊戈(アメノヌボコ)」だけでなく、飛ぶ斬撃に双剣を一点に重ねた一撃──どれを見ても、ヘイゼルが舌を巻く脅威でしかない。

 もし今、(カムロギ)に邪魔者扱いされ。腹を切ろうとした剣の切先がこちらへ向いたら、と考えたからこその緊張感。


 だが、カムロギは。


「……わかった」


 ヘイゼルの要求を飲み、会話の最中もずっと自分の腹に当てていた刃を引き。腰に提げていた(さや)へと黒い魔剣を納めていき。

 脱いだ衣服を着直さずに、地面に置いた六人分の頭蓋(ずがい)を拾い集め、広げた衣服で包み終えると。

 (きびす)を返し、単発銃(マスケット)を構えたヘイゼルに背を向け。再び何処かへと移動しようとしていた。


「お、おいっ? アズリアに会わねえのかっ!」


 カムロギが歩いていこうとしていた方角は、つい先程まで魔竜(オロチ)と戦闘していた戦場とは真逆。つまり、共闘したユーノやアズリアと合流する気が全くない、という意思表示に。

 思わず声を張り上げ、移動しようとするカムロギを。かつて死闘を繰り広げた赤髪の女戦士の名を使って呼び止めるヘイゼルだったが。

 

 何の言葉も返さずに、カムロギは一歩、また一歩とヘイゼルから離れていった。

 最初こそ、この場から……そして共闘した者らに再会する事なく立ち去ろうとするカムロギの足元へ。威嚇(いかく)のために鉄球を撃ち、足を止めてやろうかと思ったヘイゼルだったが。


「……くそ、っ!」


 やはり、ヘイゼルの頭に(よぎ)ったのは。

 たとえ威嚇(いかく)が目的とはいえ、カムロギに単発銃(マスケット)を放てば敵対行為と見做(みな)され。突然、二本の剣を自分に向けてくるのではないか、という懸念だった。

 その不安からか、ヘイゼルは短い間に何度も発射を躊躇(ためら)い。結局は「着火(フリント)」の魔法を使うことが出来なかった。


 舌打ちとともに、カムロギの足元に構えた単発銃(マスケット)の筒口を逸らし、威嚇(いかく)を断念した。


 ──その時だった。

 突然、背後に感じた気配に振り向いたヘイゼル。


「……へへ、ようやくかい。まったく、遅い──」


 先程、空へと向けて放った単発銃(マスケット)轟音(ごうおん)を聞き付け。戦場にいる誰かがカムロギとヘイゼルの姿の見えない異変に気付き、音を頼りにこの場所へと駆け付けてくれる事を期待していたのだ。

 だが、誰が到着したのかを確認するために振り向いたヘイゼルは。

 到着した人物が誰なのかを、確認することが出来なかった。


「う、おっ⁉︎」


 何故なら、ヘイゼルの視界を物凄い速度で通過していったからである。


「……な!」


 当然、接近するヘイゼルとは別の人物の気配を察知したカムロギもまた。迫る気配に視線を向け、そして驚きの声を漏らした。


「──待ちなよ、カムロギ」


 (おのれ)の肩に手を置いた、緑の髪をした巨躯(きょく)の女戦士の姿に。


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