表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1475/1778

393話 アズリア、戦友への最高の賛辞

 それは、獅子人族(レーヴェ)の少女・ユーノの元へだった。


「……ユーノッ!」


 アタシが新しく姿を現した四本目の魔竜(オロチ)と対峙する前に、約束を交わした誇り高き獅子人族(レーヴェ)の戦士へと駆け寄り。

 目を覚ましたばかりのユーノを助け起こす。


「あ……アズ、リア、おねえちゃん?」

「まったく、無茶しやがって……」


 まるで、朝、寝覚めたばかりの時のように、腕で目蓋(まぶた)を擦りながら。目の前にいるアタシの姿を、まだにわかに信じられない様子のユーノ。

 アタシは早速、戸惑っているユーノの身体のあちこちを撫で回していく。治癒魔法を使ったものの、まだ身体のどこかに傷が残っているかもしれないかどうかを確認するためだ。


「うんッ、しっかり回復したみたいだねぇ」


 見ればユーノが倒れていた場所は、爆発の衝撃の強烈さを物語(ものがた)るように地面が(えぐ)れ。爆発の中心地、魔竜(オロチ)が自爆した一番間近であったのをアタシに教えてくれる。

 俊敏(しゅんびん)さに優れた獣人族(ビースト)のユーノが、何故に爆発の瞬間までに退避出来なかったのか……という疑問はあったものの。


 ユーノの身体にはどこにも傷が残っておらず、無事に回復した事に安堵(あんど)したアタシだったが。


「ひゃぅ! あ、あぅ……っ……ね、ねえおねえちゃんっ、ちょ、ちょっとくすぐったいよおっ」


 傷の確認のため、身体のあちこちを触っていたアタシの手の感触に。

 妙に(なまめ)かしい声を漏らしながら、身体をくねくねと(ねじ)らせていたユーノ。

 

「──あ、わ、悪かったねぇ。まだ傷が残ってないか、心配になったんだってば」


 想像出来ない声に慌てたアタシは、ユーノを撫でていた手を離してしまうが。それは同時に、寝ていたユーノの上半身を起こし支えた腕をも離してしまうということでもあった。

 だが、支えを失った筈のユーノはというと。


「せえ……のっ!」


 後ろに倒れ込みそうになる勢いを逆に利用し、地面を一度蹴ってくるりと後転。そのまま軽く跳躍して、両腕を広げながら立ち上がってみせる。


「このとおり、ボクはだいじょうぶだよっ」


 そう口にしたユーノは、先程の艶声(あでごえ)などなかったかのように満面の笑顔を浮かべていた。

 どうやら、ユーノなりに身体がしっかりと癒えた事をアタシに伝えたかったが(ゆえ)の行動だったようだ。

 無事だったユーノが、笑顔のままアタシへと近寄ってくると。


「あ、そうだっ。おねえちゃんにわたさなきゃいけないものがあるんだったよ」

「ん? 渡さなきゃいけない、物?」


 ユーノの言葉に、アタシは約束を交わして別行動を取った時のやり取りを思い返していく。言葉以外に、何か護身用の魔導具(マジックアイテム)を手渡したりしたか……等だ。

 しかしいくら記憶を辿ってみても、ユーノに何かを手渡される物に何の心当たりも浮かばない。


「うんっ、おねえちゃんぜったいよろこんでくれるとおもうなっ」


 しかも、ユーノの表情からは何故か「アタシが喜ぶ」という自信に溢れていた。

 そうなると、ますます謎が深まる。


 思い当たるのは、魔竜(オロチ)の身体の一部だろうか。

 一度はアタシの大剣を弾いた程の硬度を誇る(うろこ)や表皮か。

 堅い(うろこ)は削れば優れた素材になるだろうし、表皮もカナンに処理をしてもらえば(ぬえ)を超える丈夫な革製品の材料になるかもしれない。

 もしくは度々(たびたび)、アタシが食い意地の張っているところを目撃しているユーノは。魔竜(オロチ)の肉を食材として用意したつもりだろうか。


「……だけど。さっき倒れてたのを確認した時にゃ、そんなモノ持ってるようには見えなかったし」


 アタシはあらためて、笑顔を浮かべていたユーノの姿を見返していくが。

 とてもではないが、(うろこ)や表皮、肉の一部を隠し持っているようには見えなかった。もし手に隠せる程小さな状態なら、素材や食材としては役に立たなくなってしまう。

 果たしてユーノは、アタシに何を渡すつもりなのだろう。好奇心が半分、不安が半分といった心境で待っていると。


「はい、これだよっ」

「こ……コイツはッ⁉︎」


 ユーノの手から現れたのは、一握りの石塊。何か、整った形状(かたち)から砕け散った破片のように見えるが。

 普通の石ではない、不思議な材質の石塊に。


「待てよ……何かが、砕け散った? それにこの材質、アタシは見た事があるぞ……ッ」


 ふと、アタシの記憶が刺激を受けたのか。衝動的に腰から垂らした革袋へと手を伸ばし、袋の中にある二個の石の破片を取り出していた。

 そう。

 魔竜(オロチ)が所持していた、魔術文(ルーン)字が彫られた石版の一部を。


 と、いうことは。


「……まさか、ッ!」


 アタシは、腰から取り出した不完全な石版に。ユーノから受け取った破片を組み合わせようとすると。 

 最初こそどの箇所に合わせればよいかが分からず、二度、三度と失敗を繰り返し、試行錯誤(しこうさくご)をした結果。

 数度目の挑戦で、ようやく石版と破片とか合致する。

 これでまた一歩、新しい魔術文(ルーン)字の取得へと近づいたわけだが。


「で……でも、何でユーノがッ?」


 さらに疑問だったのが。アタシとユーノが別行動を取り、それぞれ別の魔竜(オロチ)に挑む事となったが。

 魔王様(リュカオーン)の側近の戦力でもあったユーノに加え、ヘイゼル・カムロギ・モリサカ。そしてお嬢(ベルローゼ)一行までも共闘していれば。魔竜(オロチ)を打倒するのは間違いない、とある意味で確信していた。

 それでも、ユーノと別行動となった際。魔竜(オロチ)が所持しているであろう魔術文(ルーン)字の石版の欠片について、アタシは何一つ言及(げんきゅう)しなかった。

 ユーノの戦闘の邪魔になるような思考を、なるべく割り込ませないために。


 魔術文(ルーン)字の石版については。色々と後片付けが終わってから、ゆっくりと戦場を捜索すればよいと思っていたからだ。アタシ一人で。


「えへへっ、よろこんでくれた? おねえちゃんっ」


 にもかかわらず。

 ユーノはアタシに、魔竜(オロチ)と戦っている最大の目的であった石版を見つけ、手渡してくれたのだ。

 アタシの問い掛けに、鼻の下を指で擦りながら得意げな笑顔を浮かべたユーノは。


「えっとね、あのおろちってやつのからだのなかで、これをみつけたんだ。そしたら、おねえちゃんがいしがどうとかはなしてたなー……っておもいだして」


 その言葉を聞いて、アタシはハッと何かを(ひらめ)いた。

 それは、ユーノが倒れていた位置だ。

 先程アタシは、何故ユーノが魔竜(オロチ)の自爆に一番近しい位置にいたのか。獣人族(ビースト)俊敏(しゅんびん)さを発揮すれば、もっと爆発の威力から逃げられたのではないか、と。

 だが、事実は逆だったのではないか。

 魔竜(オロチ)が自爆を仕掛けたのと、ユーノが石版の欠片を発見したのがほぼ同時だとして。もしかしたらユーノは、自分が退避(たいひ)するよりもアタシが必要としている欠片を入手する事を優先し、爆発に巻き込まれたのではないか……と。


「あれ? どうしたの、おねえちゃん?」


 ユーノが石版の欠片を入手した過程を想像したアタシは、胸に湧き上がる衝動を止める事が出来ずに。

 次の瞬間、アタシは両腕を目の前に立っていたユーノの首と背中へと回して、力強く抱きしめていた。


「やっぱりユーノ……アンタは、最高の相棒だよッ!」

「ふ、ふえっ? な、なにするのっお、お、おねえちゃんっっ?」


 アタシは、生まれ故郷である帝国(ドライゼル)を飛び出してから八年。これまでで一番長く旅を共にしたユーノに熱烈な抱擁(ほうよう)と、感謝の言葉を口にすると。

 途端に顔や耳まで真っ赤にして困惑したユーノは。


「よ、よしてよアズリアおねえちゃんっ……み、みんながこっちみてるよぉっ……はうぅぅ」


 口では腕を()いて欲しいと言っていたものの、身体の力が抜け、アタシの腕を振り解く真似など一切せず。

 ただアタシのなすがままに、情けない声を漏らしながら抱き締められているユーノだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ