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33話 アズリア傭兵団、夜に暗躍する

今回は別行動しているオービット視点となります。

 ……一方、アズリアらが暴れているのとは真逆の城壁の前では。

 門番や見張りらが(せわ)しく走り回りながら、騒めき立っていた。


「向こうは上手くやってくれたみたいだな。なら……こちらも任務を果たすことにしよう」


 見張りの兵士らが慌てている様子を、大人一人身を隠すのがせいぜいな木の幹の後ろ側から観察していたオービット。

 城壁の上の見張りの人数が減ってくれたことで生まれた、警備が手薄な部分を見つけ出すと。

 鉤爪のついたロープを城壁の上に引っ掛けていき、そのロープを伝って壁を歩くようにして登っていく。


 本来ならば、どんなに凄腕の軽業師などでも完全に壁を登攀(とうはん)する際の音を消すのは不可能なのだが。

 それでも壁を登る音を微塵もさせないのは、オービットが傭兵になる前に入手していた魔法の靴の効果だった。

 彼自身は魔法を行使出来ないが、誰の身体にもある魔力を靴を媒体にすることで、自身の周囲で発せられる物音や話し声を外に聞こえないようにすることが出来るのだ。


「いやはや、魔法の靴様々だよ。手に入れた時は足が早くなるわけでも、空を飛べるようになるわけでもないとガッカリしたものだがな……」

 

 その効果を最大限に使い、城壁から近くの建物の屋根に飛び移り、それから地面に着地する時の音を消していく。

 こうしてエクレールの街中に潜入出来たわけだが、時間が夜も更けていたこともあり酒場も既に閉まっていて、建物の外を歩いている住民は誰もいなかった。


「……ということは、あまり調査に時間をかけて兵士の目に入れば問答無用に疑われる、か……出来れば、街の住民に話を聞ければよいのだが」


 すると、俺を見て路地裏から手招きをする一人の男が、兵士が周囲にいないのをキョロキョロと確認してから声をあげる。


「……あんた、外から来たんだろ?こっちだ、来てくれ」


 最初は帝国軍の罠の可能性も頭をよぎったが、多分連中は今頃アズリアとフレアへの対処で手がいっぱいの筈だ。

 しかもエクレールとて帝国に占領されてからまだ日が浅く、帝国軍に占領されている事自体が住民らの不満でもあるだろう。

 ならば、ここは黙って手招きする男の案内に従う。


「……俺は別に帝国に反旗を翻そうとか大それた事が出来るような人間じゃない。でも、それをしようとするアンタらに街で集めた情報を提供することくらいは出来る」

「……今はそれが一番ありがたい……頼む」


 男の後ろについていくと、そのまま裏口らしき扉から建物の中に通される。

 部屋に入ったところで男が口を開く。


「で、アンタらの素性を尋ねても?」

「……雷剣と漆黒の鴉(デア・クレーエ)、と言って通じるなら」

「……嘘だろ?……いや、それが……アンタ達が本当にそうなら外の騒ぎも納得だ。も、もし何か必要なモノがあるなら街の連中には俺から声を掛けるぜ」


 ……確かにこういった都市攻めにおいて、内通者の存在はかなりの戦力になり得る。

 だが、住民を巻き込むのは雷剣が取る手法ではないし……何より、アズリアが嫌う。

 ここは当初の予定通り、街にいる帝国軍の動向と規模を調べるだけで良しとしよう。


「……いや、もし下手に住民に動かれてそちらに被害を出すのは俺たちも望まない。出来れば、今エクレールに残っている帝国軍の人数などを知れれば十分だ」

「そ、そうか?……帝国の連中なら、まだ50人程度はこの街に待機している。軍を指揮しているのは帝国重装兵(インペリアル・ガードナー)の三人だ。それと……」

「それと?」

「3日後には王都を攻略するために、この街から物資をしこたま運び出すそうだと、連中が話しているのを聞いた」


 50人か……その程度なら、一気に全員を相手にするような状況でもない限りは、俺たちが全員で戦えば何とかなる人数だ。その人数も、今夜のアズリアらの陽動で数は減っているだろう。

 これなら最初の計画通りに進めても問題はない。


「……それだけ知れたら十分だ、感謝するよ」


 だとすれば長居は無用だ。


 ただエクレールを解放するだけなら城壁の内側に潜入した俺が城門を開き、荷馬車に他の連中を乗せて突入させれば問題なく終わる。

 それをわざわざ帝国兵の人数を調べて、その人数を減らす手間までかけたのにはそれなりの理由がある。

 

「……ほ、本当に何の協力もしないで、いいのか?」


 不思議そうに尋ねてくる男の肩に手を置いて、去り際にその男に告げた。


「……戦場で戦うのは俺たち傭兵や兵士の役割だ。もし何かしたいと思うのなら、街を解放した俺たちに酒とご馳走を用意してくれるとありがたい……何しろウチにはそういうのが大好きな輩が多いからな」


 そう言い残すと、招かれた路地裏を戻って再び鉤爪付きロープを使って城壁を登る。

 行きと帰りで一つだけ違う点があるとしたら……それは、二人ほど見張りを始末しておいた事だ。

 潜入が発覚したら面倒なことになる行きとは違い、帰りは俺の存在が発覚したところで問題はないからだ。


 それに、俺とて傭兵だ。

 ラクレール防衛戦で帝国軍に敗北した悔しさや憎しみがない、といったら嘘になるからだ。

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