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363話 フブキ、爆発の瞬間に見たもの

 魔竜(オロチ)の頭部を中心に、目が焼ける程の(まぶ)しい閃光の後に。迫り来るであろう吹き付ける爆風の衝撃と、爆炎の熱が。


「ゔ……おおおぉおおおっっ⁉︎」

「きゃあああああああああ!」


 爆心地に最も近い位置にいた、カムロギとユーノを飲み込んでいくのがフブキの視界に映り。

 次の瞬間、二人の苦痛に満ちた悲鳴が耳に届くと。

 さらに爆炎の範囲は広がっていき。動けないベルローゼを抱えたセプティナ、右肩に深傷(ふかで)を負ったヘイゼルと。


「……ベルローゼお嬢様」

「ちぃっ……ここまでかよ」


 魔竜(オロチ)と戦っていた人間が次々に巻き起こった閃光と炎の中に飲まれていってしまう。


「ヘイゼルっ! それに……ユーノおおおっ!」


 フブキが炎の中に消えた二人の名前を、殊更(ことさら)ユーノの名を叫んだのは。

 フルベの街で合流してから(わず)かな時間ではあった二人だが。(いさか)いを度々(たびたび)起こしてはいたものの、実は一番情を通わせていた二人でもあったからだ。

 

 そんなユーノを飲み込んだ炎が。

 いよいよフブキらの眼前へと迫る。


 だが──死ぬ覚悟を持って姉を庇ったフブキの視界に映ったのは。

 両手を広げたフブキのさらに数歩前に立ち塞がった、カガリ家の武侠(モムノフ)だった。

 

「な……何で、っ?」


 それも、一人ではない。

 複数の武侠(モムノフ)が両肩を組み、フブキとマツリを守るための人壁を作って。二人の前に立ち塞がった姿に。

 一度は生命を失う決意までしたフブキの口から、声が漏れる。庇われた事への安堵(あんど)感は微塵(みじん)もない、ただ驚きの感情のみ。

 当然だ。

 死ぬ覚悟は出来ていても、目の前で自分の知った顔が生命を落とす事への覚悟など出来てはいなかったからだ。


「そんなことしたら、あなたたちがっ⁉︎」


 そんなフブキの驚きの反応に、一番間近に位置していた二人の武侠(モムノフ)が笑顔で答える。

 マツリ救出のため、ジャトラに牙を()いた武侠(モムノフ)を率いるコウガシャ領主ミナカタと。テンジン領主のヒノエの二人だ。


「は……ははっ、わかっていますとも。あの助太刀(すけだち)してくれた猛者(もさ)らが止められなかった爆発ですから」

「お二人を庇えば、当然。彼らよりも実力が数段劣る我らなど……助かりはしないでしょうな、おそらくは」

「だ! だったら早くっ──」


 既に魔竜(オロチ)の頭部から魔力が爆ぜ、炎と衝撃が降り注ぐまでもう(わず)かの時間も許されてはいないだろう。今さら「逃げろ」と命じたところで、一体何処へ退避出来るというのだろう。

 しかし、それでもフブキは。自分の前に立ち塞がり人壁を組む武侠(モムノフ)らに、犠牲になって欲しくはなかったのだ。

 

「「残念ながらその命令は聞けませんな、フブキ様」」


 声を揃えたのはミナカタとヒノエ、二人だけではない。人壁を組む武侠(モムノフ)が全員で口を揃え、フブキに対し答えてみせる。


「たとえ死ぬとわかっていても」

「……なればこそ、最後まで庇うのが我らカガリ家の武侠(モムノフ)の務め」


 見れば、笑顔を浮かべていたと思っていた二人の身体が、(わず)かに震えている。


 当然である、死が間近に迫っていて恐怖しない人間がいる筈もなかった。

 現に、(マツリ)を庇うために一歩前に踏み出たフブキの足もまた、少し気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそうな程だったのだから。


 そんな武侠(モムノフ)ら人壁に、ついに迫る炎が到達する。

 

「うぐ! お……おおおおおおおお⁉︎」


 人壁に炎が触れた瞬間、まず最初に何かが砕け散る音が聞こえてきた。おそらくは何らかの防御魔法が炎の威力を抑え切れず、解除された時の音。


 実は、援軍に駆け付けた四人の領主の中で、武勇に優れた他三人と違い。防御の魔法の腕に長けたミナカタが、人壁を組んでいた武侠(モムノフ)らに瞬時に防御魔法を発動しておいたのだが。

 まだ魔竜(オロチ)が存命の時ですら、神聖魔法(セイクリッドワード)の中でも一、二を競う防御力を誇るベルローゼの「神聖障壁(ホーリーウォール)」と「絶対障壁(エクサウォール)」を突破する威力の炎なのだ。

 その炎が暴走し、溢れ出ているのがこの爆発なのだ。付け焼き刃で唱えた防御魔法が、通用する理由がなかった。


 しかも、ミナカタの発動した防御魔法は。障壁と術者の感覚をある程度共有する代償を払い、防御効果を高めているらしく。

 まだ障壁のおかげで爆発が直接届いていないにもかかわらず。ミナカタ一人だけが防御魔法の破壊と同時に、身体の数箇所から血を噴き出していた。


「が……ふ、っ……す、済まぬ。しょ、正直、もう限界だ、()ちそうにないっ……」

「何を謝る、ミナカタ。二の門の時もお主はよく我ら三人を守ってくれた、礼を言うぞ」


 己の身を代償とする防御魔法は、シラヌヒ城に突入したその時から既に。使命(こころざし)を同じくしたネズ・レンガ・ヒノエら三人の領主に発動していた。

 だからこそ、二の門で実力に(まさ)る四本槍と戦ってなお、ベルローゼらが救援に到着するまでの間を生き残る事が出来た……と言っても過言ではなかった。


「ならば……一足先に、()かせて貰う……ぞ」


 三人を守る、という役割を最後まで果たし切る事が出来ず。無念の表情のまま、ミナカタの口からは大量の血が吐き出され。

 人壁、最初の犠牲者となり。自らの血が地面に流れて出来た血溜まりに、そのまま顔から倒れ伏してしまう。


 しかし、感傷に浸る間など許されてはいなかった。


 己の身を代償とする防御魔法が目の前から消え失せたのだ。人壁を組んでいた多数の武侠(モムノフ)に、豪炎と衝撃が襲い掛かる。


「「ぐ、おぉおっ⁉︎」」


 しかし、最初こそ爆風に辟易(たじ)ろぎ、炎に飲まれ(うめ)き声を上げるも。両脇にいる仲間らと組んだ腕を離し、立っている位置から逃げ出そうとする(やから)は誰一人としていなかった。

 一度は(うめ)き声を漏らした者らも、上下の歯を強く噛み締めながら、二度と声を漏らすまいと人壁である事を貫き通そうとする。

 二重、三重という人壁が決死の覚悟を持って魔竜(オロチ)の最後の悪足掻(あが)きの爆発を防いでくていた。


 それは、フブキも一度は持った死ぬ覚悟。


 思えば、マツリをカガリ家の正統なる当主と考えたからこそ。叛乱(はんらん)が失敗に終われば、領主の地位から一転、騒動を起こした咎人(とがびと)として処罰される可能性もありながら。

 四人の領主は、(マツリ)の救援に駆け付けたのだから。当主(マツリ)を守る理屈は理解出来た。


 ならば、フブキを守る理由は何なのか。


 その疑問が解決しなければ、目の前で我が身を犠牲にしてまで自分が救われるという事態に、到底納得など出来ようもないフブキは。


「な、何で……忌み子の私なんかのためにっっ!」


 生命を投げ出している武侠(モムノフ)らに、聞いてはいけないと頭では理解していても。抱いた疑問を、フブキは感情を乗せた言葉にせずにはいられなかった。

 すると、炎に焼かれながら三人の領主(ネズ・レンガ・ヒノエ)は申し訳なさそうな表情を浮かべながら。感情的に声を発したフブキへと振り向いてみせ。


「わ……我ら、先代イサリビ様の正統なる後継者であるマツリ様への暴挙と、フブキ様のこれまでの不遇に、これまで何一つ出来なんだ──」

「あのジャトラめに、マツリ様への無理難題を通すための人質にされていたなど……城から離された我らは知る(よし)もなかった」

「す、少なくともここにいる我らは、フブキ様を忌み子などとは思ってはおりませぬぞぉ……ぉっ」


 三人の領主は、これまで溜めに溜めていた悔悟の念を吐き出すかのように。

 ジャトラに人質扱いされる以前からも城内で軟禁状態だったフブキの扱いにも触れ。状況を改善出来なかった力の不足を謝罪し始めたのだ。


 その間にも、魔竜(オロチ)の巻き起こした炎は武侠(モムノフ)らを焼いていく。領主らも例外ではなく、一人、また一人と倒れていく。


「だから、せ、せめてっ……最後こそは、イサリビ様の血を引くお二人を守るのが、不甲斐ない我らの……せ、せめてもの(つぐな)いっっ!」

 

 今、何とか足が動くフブキが出来る事は。姉マツリを庇ってこの場に居座るのではなく。

 

 武侠(モムノフ)らが犠牲となって、爆発を阻止してくれている間に。より威力が弱まるよう、少しでも爆発から距離を取る事だった。

 そうと気付いたフブキは、両手で顔を覆い、身を屈めて縮こまっていたマツリの手首を強く掴むと。


「ね……姉様を連れて、もっと遠くまでっ!」


 突然、手を掴まれ驚いたマツリの手を引きながら。少しでも爆発の威力から逃げるために、後方へと走り出そうとした。

共鳴(リンク)

魔法そのものではなく、障壁や結界、もしくは何らかの物質を保護する効果の魔法の耐久力と術者の生命力を繋ぐ事により。魔法の耐久性そのものを一、二段階ほど増大させる手法だが。

当然ながら、何らかの外的要素により魔法の耐久性が減少した場合。術者の身体にも減少度に応じて傷が刻まれてしまう代償を支払う必要がある。


この手法は防御魔法には限らず。様々な魔法で威力や効果の向上が理論的には可能だ。しかも、方法さえ知っていれば誰でも使えるが。

攻撃魔法の場合、発動を途中で阻止されただけでも威力上昇の反動が術者へと返ってくるため。あまりに不利益が大き過ぎる。

よって、魔法王国ゴルダを始めとした魔術学園では「共鳴(リンク)」の術式を、生徒らに教えてはおらず。公式の文献や書物にも記録として残してはいない。

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