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362話 フブキ、爆発の過程を説明する

 アタシの顔を見たからか、(ある)いは爆発の事を訊ねられたからか。

 目に涙を浮かべたマツリが、その場に膝から泣き崩れそうになるのを。どうにか隣に並んでいた妹のフブキが、(マツリ)の腕を掴んで支えながら。


「……姉様が言い(よど)むのも無理ないわ。それはね、アズリア」


 三本目の魔竜(オロチ)との戦場で、一体何が起きたのかを語り始めた。


 ◇


 肌と髪を黒く染めたユーノと分身体(ファントム)による攻撃により、息絶えた魔竜(オロチ)だったが。

 地に伏した後、最後に放とうとしていた「憤怒の獄炎(ヴァイオレイジ)」の膨大な魔力が。魔竜(オロチ)の頭部に集束していき、不気味な膨張を続けていた。

 このままでは溜まった魔力が暴走し、辺り一帯を焼き尽くす程の炎が溢れ出すのは誰の目からも明らかだったため。

 魔竜(オロチ)を絶命させるため魔力を出し尽くし、分身体(ファントム)も消え。今や「黒の獅子(レオノワール)」どころか「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」すら解け、その場に座り込み動けなくなっていたユーノに代わり。

 唯一、無傷で動けたカムロギが──動いた。

 

「俺の一撃で! 魔力を相殺(そうさい)する!」


 暴走の可能性に気付いた時には、既に魔竜(オロチ)の物言わぬ頭部はいつ爆発してもおかしくない程に膨れ上がり。

 とてもではないが、今から「天瓊戈(アメノヌボコ)」の準備に費やす猶予(ゆうよ)は残っていない、と判断したカムロギは。躊躇(ちゅうちょ)なく前へと踏み込み、膨張する頭部との距離を縮め。

 二本の魔剣による攻撃で、暴走しようとしていた魔竜(オロチ)の魔力を強引に押さえ込もうと試みる。

 魔力の暴走が起きれば、確実に巻き込まれるのを覚悟で。


 勿論(もちろん)、我が身構わずに突撃を敢行(かんこう)するカムロギを眼前に見据えて。ただ指を咥えて座っているユーノではなかった。


「ぼ……ボクだってええぇぇっっ!」


 魔竜(オロチ)との決戦の直前に仮眠を取り、魔力を回復させていたユーノだったが。やはりシラヌヒ城に突入してから連戦に次ぐ連戦の上、三の門を守るシュパヤとの激戦で一度は魔力枯渇を起こしかけたのだ。

 本来なら攻撃を仕掛けられるどころか。立ち上がるのも苦しい状態だったが。歯を食い縛りながら片膝を突き、両の脚で立ったユーノは。

 

「う……おおおおおおおっっ‼︎」


 黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)を失った拳を握り締め、カムロギと同じく。魔竜(オロチ)の頭部へと殴り掛かっていった。

 ただの拳による打撃では意味がない、と本能的に理解したユーノは。

 魔力が不足しているにもかかわらず、拳を放った右腕にのみ「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」の黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)を実装して。

 これが本当に、ユーノの最後の魔力。


「ここまでやって、ばくはつなんかでおわらせて……たまるかああぁぁああ‼︎」


 カムロギもまた、水属性の魔力を帯びた魔剣「白雨(びゃくう)」と風属性の魔力を帯びた魔剣「黒風(こくふう)」。二本の魔剣の剣閃を交差させ、威力を一点に集中する。

 アズリアを散々苦しめ、強固なクロイツ鋼の装甲を砕き傷を負わせた必殺の一撃を。予想外に動き出したユーノの右拳に合わせる高等技術。


「その通りだ! 勝利して生き残るのは俺たちだっっ! 何としてでも……魔力の暴走は止めるっっ!」


 状況をある程度は把握し、動ける足を持ってはいたものの。カムロギとユーノ、二人と並んで戦えるだけの純粋な戦闘力を有していないヘイゼルと。意識を失い倒れていた己の主人(ベルローゼ)を庇っていたセプティナ。

 その他。魔竜(オロチ)の攻撃の巻き添えにならないよう、さらに後衛に控えていたナルザネやイズミら援護に駆け付けたカガリ家の武侠(モムノフ)らが注視する中。


「ば、爆発を、止め、た……っっ?」

「やっ……た? あの二人が、魔力の暴発を止めてくれ……たっ」


 カムロギとユーノ、魔竜(オロチ)の最後の最後の悪足掻(あが)きを止めるために動いた二人の拳と剣撃が。

 元々の大きさを遥かに上回り、限界以上まで膨れ上がった魔竜(オロチ)の頭部。その内側から溢れ出してきていた膨大な魔力量を二人掛かりで抑え込む。


「「う、うおおおおお! 凄いぞ二人ともっっっっ!!!」」

「「か、勝った! 俺たちはあの伝承に出てきた魔竜(オロチ)にも、勝ったんだ!」」


 背後で、武侠(モムノフ)らの二人を讃える歓声が上がり。ようやく、魔竜(オロチ)に「勝利した」とその場にいた全員が安堵(あんど)した。


 (いな)──筈、だった。

 

「ぐ、ううぅぅぅぅっっ⁉︎」

「う……わああぁぁぁぁっ!」


 勝利に湧いた雰囲気を打ち消したのは、魔竜(オロチ)の魔力の暴走を二人掛かりで抑え込んでいた、カムロギとユーノの絶叫だった。


「い、一体どうしたんだってんだい、二人ともっ?」


 異変にいち早く気付いたヘイゼルは、二人の足元に視線が向くと。今もなお、(わず)かずつではあったが後退(あとずさ)りを続けていた。

 見れば、二人は痛みに耐えるように歯を噛み合わせ、深刻な表情を浮かべていた。


「まさか……まだ魔力を完全に抑え込めて、いない?」

 

 ヘイゼルの言葉の通り。確かに一度は、二人掛かりで膨れ上がる魔力を力()くで抑え込むのに成功したものの。

 一定まで抑え込まれた魔力が、暴走する威力と速度を急速に増大させ。強引に暴走を阻止しようと試みるカムロギとユーノを、逆に押し返していたのだった。

 二人の抑止をついには振り切り、目に見えるように頭部が膨張を再び開始すると。歓喜の声に湧いた武侠(モムノフ)らもようやく状況を理解したようだったが。


「「ば、爆発するっっ⁉︎」」


 時、既に遅く。最早(もはや)カムロギの魔剣やユーノの腕を弾き飛ばし、膨張が止まらない魔竜(オロチ)の頭部から。

 次の瞬間、強烈な閃光が弾けて戦場一帯を包み込む。


「きゃああああぁぁぁあああああっ!」


 ──爆発する。


 今、動ける二人が迎撃して止められなかったのだ。もう避けようのない事態を目の当たりにし。

 戦場で何が起こるのかを理解こそしていながら、何の対策も防御の手段も取ることの出来ないマツリは。悲鳴を発し、閃光から目を背けて身体を少しでも縮めるのが精一杯だった。


 一方で隣にいたフブキはというと。


「ね、姉様ああっっ⁉︎」


 戦場に閃光が走り、爆発までの刹那(せつな)の瞬間。(マツリ)を庇うかのように両手を広げ、一歩前へ飛び出していた。


 二人の姉妹(マツリとフブキ)咄嗟(とっさ)の行動に違いが出たのは、城を脱出した後にフブキが経験した出来事があったからだ。

 元は配下だった人間に生命を狙われながらも、自分を護衛し続けてくれたアズリアやモリサカらの存在や。「忌み子」と呼ばれた氷の加護で、自分(フブキ)よりも強い力を持つ者らの窮地を救った経験こそ。

 長らくジャトラの人質として城に軟禁されていた状況では、決して経験する事の出来なかった成長であり。咄嗟(とっさ)に「姉を庇う」という行動に出たわけだが。


 それだけではない。


 本来ならば、黒幕ジャトラに魔竜(オロチ)までが待ち受ける本拠地(シラヌヒ)に潜入し、姉マツリと再会を果たす──という。到底実現不可能な依頼を、見事に達成してくれた。

 その上、当主の座を強奪までしていた黒幕ジャトラを退(しりぞ)け、もう姉の立場を(おびや)かす人物はいなくなった。

 これで姉マツリは、カガリ家当主に返り咲く事が出来る。


 ならば、当主である姉マツリを、今ここで死なせる(うしなう)わけにはいかない。

 今回の一連の騒動でカガリ家は参謀役だったジャトラに四本槍の三名を始め、多くの忠臣を喪失し。再建するには時間を要する。そんな状況下で正当な当主まで失えば、領地の維持まで危ぶまれてしまう。

 それだけは避けなければ。


 フブキが積み重ねた数々の経験と、カガリ家の未来を(うれ)う気持ち、その二つが。

 マツリを庇うため、身体を動かした何よりの理由。

 

 たとえ、フブキ本人の生命を犠牲にしてでも。

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